岩石力学 > 内圧を受ける円形坑道の長期安定性の検討 > 3.計算結果
3.計算結果
表1に示すように計算条件を設定した.これらの条件の内,トンネル半径1mを標準条件として省略記号S(Smallの略)であらわす.地表からの深さは,1000mを標準条件として省略記号D(Deepの略)であらわす.さらに,充填材の体積弾性率,腐食の進行,腐食による体積膨張(体積の膨張がもとの体積の何倍になるか)の標準条件を,それぞれ1GPa,2μm(毎年),2倍とした.また,構成方程式中のパラメータn0=20,m=10を標準とし,省略記号2であらわす.標準条件の場合の省略記号を順に書くと,SD1222である.

これまでの検討結果によれば,n0が大きいときには時間依存性が小さく,時間経過にともなう岩盤の変形は小さい.本論文の目的は,内圧を受ける坑道の長期的な変形と安定性を論じることなので,まず,このパラメータn0が比較的大きい場合と小さい場合にわけて検討してみる.

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3.1 時間依存性の小さい岩盤の場合(n0=20)
内圧の加わらない場合はすでに既報で報告した.まず,充填材はあるが腐食の進行は全くない場合の結果を示しておく(省略記号:SD1022).SD1022は,坑道直径Small, 深さDeep, 体積弾性率 1GPa,腐食 0μm(毎年),腐食により体積2倍,構成方程式中のパラメータ(n0=20,m=10)の場合である.図3(a)に,坑壁にもっとも近い要素の周方向の応力σθi,半径方向の応力σriおよび坑道半径の変化Δr(=ri(t)−ri(0))を,1年後から10年後まで示した.1年後のσθiとσriが坑壁での理論値(弾性解)と少し違うのは,要素中心の応力を表示しているためと,最初の一年間にわずかではあるが変化したためである.σθiは103年以降に目立って低下するが,σriの変化はほとんどない.坑道の半径はわずかに縮小する.図3(b)に,初期,10年後,10年後,4×10年後,10年後の周方向の応力σθと半径方向の応力σrの分布を示す.坑壁に近い要素のσθは時間の経過に伴って少しずつ低下する.5本の曲線を描いたが,4本にしか見えないのは,初期と10年後の曲線がほとんど重なるためである.また,図よりわかるようにσrの変化はほとんどなく,5本の曲線を重ねて書いているにもかかわらず,1本のやや太目の線にしかみえない.注目すべきは,緩み領域が坑壁近傍にとどまってあまり広がらない事であり,これは充填材の支保効果の他にポアソン比の仮定にも依存していると思われる.なお,ここで言う緩み領域とは,坑壁よりσθが最大値をとる位置までを指す.

ポアソン比の影響は,圧肉円筒に関する弾性解(日本機械学会,1977;鵜戸口ら,1968)からも定性的には伺えるが,詳しい検討は考察にゆずるとして,ここではポアソン比の影響が大きいことを示すために,他の条件は図3と同じとして,ポアソン比を常に0とした極端な場合を計算してみた.図3と同じ形式で,この場合の計算結果を図4に示す.図4(a)より,σθiの低下が激しいことがわかる.10年以降,σriが少し上昇するのは,坑道半径が小さくなって充填材が圧縮され,その結果,坑道内圧が上昇するためである.図4(b)よりわかるように,この場合は,坑壁より5m以上奥のσθ,σrまで変化する.

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次に,腐食の進行が毎年1μmと緩やかに腐食が進行する場合の計算例を図5に示す(SD1122).オーバパックの厚さを0.2mとしているので,全て腐食するのに20万年を要することになる.計算では,内圧が次第に上昇すると,坑道は広がり,σθiが徐々に低下し,σriが増加する.あらかじめ予測できる常識的な結果といえる.この条件下では,地圧による岩盤の変形は比較的小さいので弾性計算結果とさして変わらない.腐食の進行を毎年2μmとした場合も計算してみた(SD1222).全般的な傾向は,図5のSD1122と変わらないので図を省略する.腐食の進行を毎年3μmとすると(SD1322),σθiは徐々に低下し一旦0に近い値となるが,その後増加する.内圧が上昇し続けているにもかかわらず,σθiが上昇するのは興味深い.さらに,この現象が顕著となる,腐食の進行速度毎年5μmの場合について下記で検討する.

腐食の進行を毎年5μmとしたとき(SD1522)の計算結果を図6に示す.この場合には,オーバパックが全て腐食しつくすのは4万年後である.図6(a)よりわかるように,σθiは徐々に低下して,約3万年後に最小値となるが,その後増加に転ずる.図6(b)にσθの半径方向分布を示す.これからわかるように,σθは時間の経過に伴って次第に低下する.しかし,4×10年後と10年後を比べると,坑壁の近傍のσθは10年後の方が大きい.これは,大きな内圧による半径方向の応力で,坑壁付近にゆるみ領域が生じ,周方向に大きく伸びるので,周方向の応力は圧縮に転じたと考えられる.周方向への伸びは当然ポアソン比の大きさに依存する.今回使用した構成方程式では,(8)式からわかるように,破壊の進行にともなってポアソン比が初期値より徐々に増加し,次第に0.5に近づいていく.坑壁付近の応力の挙動は,ポアソン比の仮定に大きく左右されると推察された.そこでポアソン比に関する仮定を変えて計算してみることにした.

ポアソン比を常に0とした計算結果を図7に示す.この場合,σθiは約2万5千年後に0となりその後も低下する.そのため引張破壊が坑壁よりかなり奥まで進行する.また,腐食が終了しても破壊は時間の経過にともない進行する.次いで,ポアソン比を常に0.2とした場合を計算してみた.結果は示さないが,傾向はポアソン比を常に0.0とした図7とおなじであった.さらに,ポアソン比を常に0.4とした場合を計算してみた.その結果は,ポアソン比が徐々に増加して0.5に近づいていくとした図6の計算結果にむしろ近いものであった.

なお,ポアソン比の初期値の影響について調べるため,ポアソン比の初期値が0.0と0.4の場合についても計算してみた.この場合には,(8)式に従って,ポアソン比は破壊にともなって徐々に大きくなるとの仮定をおいた.その計算結果は図6に近く,仮定した条件下では,ポアソン比の初期値の影響は比較的小さいことがわかった.

以上の結果,ポアソン比に関する仮定が大きな影響を及ぼすことがわかったが,構成方程式のパラメータmの及ぼす影響について調べてみることにした.既報で述べたように,強度破壊点以降における応力ー歪曲線の傾きはm/n0に依存し,この値が大きいほど延性的となる.図8に,標準条件下で(SD1222),m/n0が両極端の場合の結果を示す.まず,図8(a)にはn0=20, m=1とした場合の結果を示す.このようにパラメータを設定すると,一軸圧縮応力下では降伏したのちの応力の低下は緩慢である.図8(b)はn0=20, m=20とした場合の結果である.この場合には,一軸圧縮応力下では,強度破壊点を越えた直後に応力が急激に低下する.両者を比較して,計算結果は意外と似通っており,この計算条件下では強度破壊点以降の応力−歪曲線の傾きはあまり影響しないことがわかる.これは,内圧により三軸圧縮状態となり,応力−歪関係が延性的になるためであると考えられる.

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3.2 時間依存性の大きい場合(n0=10)

前節と同様に,まず図3と同様に,腐食の進行のない場合の計算例を図9に示す(SD1021).図9(a)よりσθiの低下がかなり大きいし,またわずかだがσriが増加することがわかる.n0が小さい場合,強度と比べて小さい応力が加わり続けても,長期間では大きな変形が生ずる.図9(b)にσθとσr図9(c)に1/λとνの半径方向の分布を示す.いずれも,図3(b)と同じく,初期,10年後,10年後,4×10年後,10年後の5本の曲線を重ね書きしたものである.両図より,10年後までの変化が大きくその後はあまり変化しないこと,緩み領域は坑壁から約0.5mの範囲であることがわかる.緩み領域では坑壁近くで1/λが減少し,それに呼応してνが増大している.この場合も,ポアソン比の初期値を含め,常にν=0とした計算をおこなったが,坑道径が急速に小さくなり緩み領域が大きく広がる.

次に,腐食の進行が毎年1μmと緩やかに腐食が進行する場合の計算例を図10に示す(SD1121).内圧が小さい間,坑壁近傍が緩むのでσθiは一旦低下する.やがて内圧の上昇にともなってσθiが上昇するのが特徴的といえよう.σriは内圧とほぼ等しく,時間経過にともなって順次上昇する.腐食の進行が毎年2μmの場合は(SD1221),内圧の上昇速度が速いものの傾向としてはSD1121と変わらない.

なお,腐食の進行が毎年3μmの場合を検討した(SD1321).前節のSD1322の場合,トンネル壁の応力が一旦引張となったが,今回はずっと圧縮のままであった.

さらに,腐食の進行を早くし毎年5μmとした場合(SD1521)を図11に示す.前節の図6(SD1522)の場合,σθiが一旦0近くまでとなったが,今回は約10年後に早くも上昇に転じた.この現象は次のように説明できるのではないかと考えられる.

@図11(a),(b)よりわかるように,内圧が大きくなる前に坑壁付近が緩む.図11(c)よりわかるように,結果としてこの部分のポアソン比は大きくなる.
A内圧が次第に大きくなると,σθiは少しずつ下がるが,その下がり方は小さい.この場合,坑壁近傍の岩盤のポアソン比が大きくなるのでθ方向の伸びが大きく,よってσθiは引張とならない.

換言すると,坑壁近傍の緩み領域において,岩盤の剛性は低下しており,ポアソン比は大きい.坑壁に内圧が加わると,坑壁と健全な岩盤に挟まれた緩み領域は,半径方向に圧縮されると共に周方向に膨らむので,坑壁近傍の周方向応力は圧縮側に増大することがある.

前節と同様にポアソン比の仮定の影響を調べたところ,定性的な結果は前節とおなじであった.また,構成方程式のパラメータmの影響についても調べたが,定性的な傾向は前節とおなじであり,この場合にも強度破壊点以降の応力−歪曲線の傾きの影響は少ないことがわかった.

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3.3 地圧の小さいとき(深さ500mの場合)

まず,時間依存性の小さい岩盤の場合(n0=20)について検討した.内圧の加わらない場合(SS1022)粘性的変形はほとんど認められなかった.ついで腐食の進行速度が毎年1μmのとき(SS1122)を計算した.予想どおり地圧が小さく,内圧の増加に従い,σriは増加しσθiは低下する.さらに腐食の進行速度を毎年2μm(SS1222)として計算したのが図12である.約4万5千年まではほぼ弾性的に振る舞い,それ以降,半径方向の応力によってゆるみ領域が進展した.周方向の応力は4万5千年の時点でわずかに引張応力が作用するが,ゆるみ領域の発生によって圧縮側へと変化している.さらに腐食の進行速度の大きい場合(SS1322)も計算してみたが,上記と同様の傾向がみられた.

次に,時間依存性の大きい岩盤の場合(n0=10)について検討した.内圧の加わらない場合(SS1021),坑壁付近は破壊する.腐食の進行速度を毎年1μmより順次大きくして計算した.傾向はさして変わらなかったので,毎年2μmの場合(SS1221)のみ図13に示す.地圧が小さいので,弾性論から計算したσθiは早期に引張となるはずであるが,計算結果では引張とならない.しかし,1万年を過ぎてもσθiが少しずつ低下し続ける.岩盤のかなり奥まで緩み領域は拡大し,このような場合には内圧によりσθiが圧縮側に増大する効果が小さくなる可能性を示唆している.この点については,考察で触れることにする.

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3.4 トンネル径,ベントナイト体積弾性率,腐食による
      体積膨張率のおよぼす影響

ここまでは,坑道径が1.0mの場合について調べてきた.1.0m程度の坑道だとあらゆる作業を自動化する必要がありそうである.他方,1.5mであれば,機器の故障時などの緊急時には一時的に人が入って作業することは可能であろう.計算は,時間依存性の小さい岩盤の場合(LD1122,LD1222など),時間依存性の小さい岩盤の場合(LD1121,LD1221など)についておこなった.坑道径が大きいと内圧の上昇は小さくなる.これは予め予測されたことである.

また,充填材の弾性率を大きくした場合(SD2122,LD2122など), 腐食による体積膨張率を変えた計算もおこなった.たとえば,ベントナイトの弾性率を大きくすると内圧の上昇が大きくなる.LD1222とLD2122(速度半分,体積弾性率倍)はほとんど同じ結果になった.

坑道径,充填材の体積弾性率,腐食による体積弾性率を変えて検討した結果も,あらかじめ予想した通りとなった.

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