岩石切削におけるビット摩耗と切削抵抗
2.実験方法と予備的検討

2.1 実験装置と実験試料

図1に実験装置の概略図を示す.図に示すように,旋盤のチャックに直径40 mmの試験片(ボーリングコア)を固定して,超硬等でできたビット(チップ)付きのバイトで試験片の右端を外周から順次中心に向かって切削する方式(正面削りないしfacing)を採用した.この方式によれば,ボーリングコアはチャックより10 mm強右にでておればよく,試験片が折損する心配はほとんどない.

今回,切削抵抗を測るために3成分工具動力計(dynamometer)を追加した.工具動力計は共和電業(株)のTD-500KA型であり,直交する3方向の力を測定することができる.なお本研究では,周方向の力を主分力,試験片の長手方向の力を背分力,半径方向の力を送り分力と呼ぶことにする.図2に測定システムの概略図を示す.工具動力計の出力をアンプ内蔵のA/Dコンバータ(共和電業(株)PCD-100A型)につないで計測をおこない,データのサンプリング速度は毎秒10回とした.後ほど4.3で述べるように切削抵抗は経時的に変動しており,以下で示す切削抵抗は特に断らない限り単純平均値である.

表1に示した実験条件は,既報(大久保ら,1997)と同じである.表中の切り込み深さとは,試験片の長手方向(軸方向)に測った切り込み量であり,径方向送りとは試験片が1回転する間のビット先端の径方向への移動量である.なお,径方向送りは,旋盤主軸と連動して回転するねじによる連続送りとした.

使用したビット(チップ)の形状は,既報(大久保ら,1997)と同じく形状が三角形で,ISO呼び記号がTNGA160404のものとした.この試験法で通常使用するビットの材質は,ISO呼び記号がK10とK30であるが,今回はより硬度の高い超硬ビットK01,およびサーメットビットP01とセラミックビットP10を追加した.ビット材質に関する諸値を表2にまとめて示す.良く知られていることであるが,タングステン・カーバイド系の超硬合金では,K01,K10,K30の順にコバルト含有量が増すにつれて,硬度は低下するが抗折力(曲げ強度)は増加する.サーメットの硬度と抗折力はK01よりやや小さい.セラミックは硬度は高いが,抗折力が小さいことがわかる.その他,サーメットとセラミックの熱伝導率が小さいことが目立つ.

試料(被切削材料)としては,岩石47種,モルタル2種,金属5種(鋼,鋳鉄,銅,真鋳,アルミニウム)を用い,その代表的なものを表3に示す.使用した岩石・モルタルは,大久保ら(1997)の表1に示した試料と同一である.表3中,岩石に関する諸値は全て実験室実験によって求めたものである.なお,WLは既報(大久保ら,1997)で提案した方法によって求めたビット先端の摩耗長である.金属に関する諸値は,ビット製作会社のカタログより転記したものである.

2.2 ビット材質に関する検討

表4に,ビット材質を変えた切削試験のまとめを示す.なお,岩石については2回同様の試験を行ったので,両方とも結果を示した.○は,10回の実験後(試験片の長手方向に10 mm切削した後),ビット先端は摩耗しても欠損(chipping)は認められなかったものである.表4に示したのは今回追加したビット材質のみであるが,従来から使用してきたK10とK30は全て○であった.△は10回の実験後も肉眼ではビットの欠損・破損がわからないが,拡大鏡で詳しくビット先端を調べてみるとわずか(0.1 mm程度)ではあるが欠損がみられた場合である.×は切削実験開始後,直ちに(1回目の実験で)数mm程度の明瞭な欠損がビット先端に認められた場合である.

超硬ビットK01で花崗岩を切削すると,切り込み深さ1 mmでは2回とも,また切り込み深さ0.5 mmでは2回中1回だけ,わずかではあるがビット先端に欠損が認められた.表2よりわかるように,従来より使用してきたK10やK30と比較して,K01は硬度は高いが抗折力(曲げ強度)がやや小さく,硬くてもろい材質であることに起因している.また,サーメット(P01)とセラミック(P10)の抗折力はより小さいためか,諫早石(砂岩)の切削は可能であったが,稲田花崗岩を切削すると切り込み深さ1 mm,0.5 mmとも実験を開始するとただちにビット先端が欠損した.

以上の実験の結果,新たに追加したK01,P01,P10で,硬岩の切削をするには無理があることがわかった.また,ビット材質による差が明瞭に現れたことから,この旋削実験はビット欠損に関わるビット材質の評価実験として有力な手段といえ,今後この観点からの研究も開始すべきと考えている.

2.3 切屑と切削モード

図3に代表的な切屑の写真を示す.すべて表1に示した標準条件下での実験中に採取したものであり,ビットはK10を使用した.

(a),(b)はそれぞれ稲田花崗岩および河津凝灰岩の切屑である.切屑の中には最大1 mm程度の粒が混じるが,小さい粉が大部分を占める.稲田花崗岩と河津凝灰岩とを比べると,花崗岩の方がやや大きな粒径の切屑が多かった.その原因は,稲田花崗岩を構成している鉱物の粒径が,河津凝灰岩のそれよりかなり大きいことに起因していると思われる.図3に示したのは2岩石のみであるが,岩石の切削における切屑は,総じて粉状であり粒径は小さかった.切削モードは,流れ型でないことは確かであるが,金属切削でいう裂断型ともせん断型ともやや異なっていた.

(c)は鋼の切屑である.良く知られているように,切削油を使用すると,切削モードは流れ型となりらせん状の切屑が連続してでてくる.切削油なしでも切削モードは流れ型であるが,図に示したように切屑は丸まって短く切れてしまう.ことに試験片の中心に近づくとその傾向が顕著に認められた.(d)は鋳鉄の切屑である.切削モードは裂断型といえ,切屑は1 mm程度の大きさで,まれにではあるがこの切屑の飛散(飛び出し)が見られた.(e)は銅の切屑である.外周部では長さ5 〜 10 cm程度の切屑が排出されるが,試験片の中心に近づくにつれて短く切れるようになる.切屑の断面は一定せず複雑に変化することが特徴といえる.(f)は真鍮の切屑である.鋳鉄と同様に細かい粒が排出される.鋳鉄と比べると粒径が小さく,細長いものが多かった.(g)はアルミニウムの切屑である.図よりわかるように,切削モードは流れ型であり,らせん状の切屑が連続して排出される.ただし,切削油を使用していないので,切削面はやや荒れており滑らかとはいえない.

岩石の切屑は,金属に比べて小さいことが第一の特徴であった.また,表3に示したように,金属では10回の実験が終了した後にも,ビット先端の摩耗はほとんどみられなかった.他方,既報(大久保ら,1997)でも述べたように,岩石では多かれ少なかれビット先端に摩耗が認められた.