岩石切削におけるビット摩耗と切削抵抗
3.実験結果

3.1 新品ビットの切削抵抗と強度

図4に,切削抵抗と強度の関係を示す.縦軸の切削抵抗は,ビットの摩耗が進んでいない時の試験の結果である.横軸として,岩石については一軸圧縮強度を,金属については一軸引張強度をとった.今回検討した金属の場合,一軸引張強度と一軸圧縮試験における降伏強度とはさほど変わらないと考えられる.図4(a)は主分力の場合であり,このように整理した結果をみると,岩石はばらついているが,強度が大きくなることにより,主分力も大きくなる傾向が見られる.その結果に比べ,銅の場合には,強度に比べ主分力が大幅に大きいことがわかる.これについで,鋳鉄と鋼の主分力は相対的にかなり大きいといえる.一方,アルミニウムと真鍮の主分力は,岩石やモルタルとさほど変わらないことがわかる.

図4(b)は背分力の場合であり,主分力の場合と同様に岩石の種類によってかなりのばらつきがみられるものの,背分力と強度に正の相関が認められる.また,銅では主分力と同様に強度の割に背分力が大きく,鋳鉄と鋼は岩石の平均的なものと同程度である.アルミニウムと真鍮の場合,背分力と強度の比は岩石の中で最も小さい凝灰岩に近い値であった.なお,送り分力は,背分力とほぼ同じ傾向であったので図を割愛した.

このように岩石の強度を表示するとき最も頻繁に用いられる一軸圧縮強度をインデックスとして比較した場合,金属に比べ岩石の主分力は小さく,背分力および送り分力は金属と同程度か大きいことがわかる.しかしながら,切削を考えた場合,切削抵抗を決めるのは,一軸圧縮強度だけでなく,せん断強度や一軸引張強度も重要なインデックスとなる.例えば,金属では一軸圧縮強度とあまり変わらないが,岩石では値が一軸圧縮強度の1/3程度となるせん断強度を図4の横軸にとって比較した場合には,銅の主分力は岩石とほぼ同じであり,他の金属の切削抵抗は岩石に比べて大きいこととなる.岩石では値が一軸圧縮強度の1/10程度となる一軸引張強度を図4の横軸にとって比較すると,銅を含め,金属の主分力は岩石より相当小さくなる.

3.2 新品ビットにおける各分力間の関係

図5に各分力間の関係を示す.図5(a)は背分力と主分力の関係であり,若干下に凸の傾向はみられるもの,岩石やモルタルの測定結果はほぼ一直線上に並ぶ.強度もかなりの幅があるし,ぜい性度もかなりの幅がある岩石とモルタルを試料として選んだつもりであるが,背分力と主分力の比においてはさほど変わらぬとの興味深い結果を得た.一方,5種類の金属についても,多少のばらつきは存在するものの直線で近似できる関係が見い出された.図5(b)は送り分力と主分力の関係であり,傾向としては(a)の背分力と主分力の関係とほぼ同じである.図5(c)は送り分力と背分力の関係であるが,岩石と金属はほぼ同一直線上に存在した.また,主分力と背分力の関係や主分力と送り分力の関係で分力が小さいうちに見られる下に凸の傾向はなく,ほぼ0を通る直線関係となっている.

これらを実験式としてまとめると次のようになる.

(背分力)=a×(主分力) (1)

(送り分力)=b×(主分力) (2)

(送り分力)=c×(背分力) (3)

岩石,モルタルでは,a=2.5,b=1.6,c=0.7程度

金属では,a=0.7,b=0.5,c=0.7程度

会田・岡本(1962)の石炭を用いた切削試験結果では,刃幅10mm,切り込み深さ2mmの条件下で,背分力と主分力の比aは2.27であった.また,西松ら(1979)の伊豆青石(凝灰質砂岩)を用いた切削試験では,切り込み深さ1mmでa=2.5であった.今回の実験ではこれらの切削試験に比べて寸法のかなり小さいビットを使用したが,結果は過去の試験結果とほぼ一致しているといえる.岩石の切削試験は数多く行われてきたが,背分力と主分力の関係について信頼できる結果が発表されている岩種は比較的少ない.例としてあげた会田・岡本(1962)や西松ら(1979)は,aの値を,対象とした岩石でたまたま得られた値と考えている.本研究では,このaの値のみならず,bとcの値も,一定の切削条件下では岩石の種類にほとんどよらないことを示した点で,新たな知見を加えたと考えている.図4からわかるように,主分力や背分力と,岩石強度との相関はあまり良くない.それにも関わらず,(背分力)/(主分力)がほぼ一定の値をとることは注目すべき事実であり,実験と理論を組み合わせて今後検討すべき重要課題であると考える

3.3 ビット摩耗にともなう切削抵抗の増加

従来より,岩石を切削するとビットの摩耗が進行し,ビットの交換が必要となることが知られている.今回の試験において,金属を切削した場合には,10回程度の試験ではビットの摩耗はほとんど認められなかった.したがって金属の場合には切削抵抗の変化もほとんど見られなかった.

表3のWにビットの摩耗量を示しているが,岩石の中にも10回程度の試験ではほとんどビットの摩耗が認められなかったものがある.その例として,秋芳大理石の測定結果を図6(a)に示す.この図よりわかるように,秋芳大理石の場合には,3分力とも変化が少ないし,10回の試験を行った後のビット先端の摩耗もほとんど見受けられなかった.この他にビットの摩耗がほとんどなく,切削抵抗も変化しない試料としては,凝灰岩,モルタルなどがあげられる.

反対に,硬い造岩鉱物より成り立っており,切削ビットはもちろんさく岩機用のビットにおいても摩耗が激しいとされた神流川チャートの測定結果を図6(b)に示す.この場合には,3分力とも顕著に増加していることがわかる.例えば背分力は最初200 Nであるが,10回目では4倍の800 Nとなる.また回数が増えるにつれてわずかではあるが,上に凸の傾向が見て取れる.このように摩耗が激しい岩種としては,花崗岩,石英斑岩,砂岩などがあげられる.

図7に各分力の増分(10回目と1回目の差)の関係を示す.(a)は,ビット摩耗による背分力の増分と主分力の増分の関係である.測定結果は比較的よい精度で直線上に乗ることがわかる.(b)の送り分力の増分と主分力の増分の関係,(c)の送り分力の増分と背分力の増分の関係も同様にほぼ直線上に並んでおり,式であらわすと次のようになる.

(背分力の増分)=a'×(主分力の増分) (4)

(送り分力の増分)=b'×(主分力の増分) (5)

(送り分力の増分)=c'×(背分力の増分) (6)

常数は,a'=2.7,b'=1.5,c'=0.53となり,3・2の(1)〜(3)式のa=2.5,b=1.6,c=0.7と近い値である.ビットが摩耗することによって岩石の各分力は大きくなるが,新品ビットでの各分力間の関係はほぼそのまま保持されていることがわかる.このことから,実験の範囲内では,岩石を切削した場合の各分力間の関係は岩石の種類やビット先端の形状にあまり影響されないことがわかる.

前節で,背分力と主分力の関係がわかっている岩石は意外に少ないと述べたが,ビット摩耗まで考慮した時の両者の関係について述べている研究はほとんどない.西松ら(1988)は,ブームヘッダで実際に使用されている大きさのボイントアタック式ビットを用いて三城目安山岩の切削試験を行い,ビットの摩耗により主分力および背分力は増加することを報告している.主分力と背分力の関係は(4)式のように表現でき,a=2.86であったとしており,今回の結果と大差ない.これより,(4)式の関係は,実機相当の切削でも成立している可能性がある.

(1)〜(6)式の関係が広い範囲の岩石で成り立つとの指摘は,本研究ではじめてなされたものと思う.今後の検討が必要なことは言を待たないが,(1)〜(6)式は岩石の切削を大局的に見たときの重要な特徴の一つであり,切削機構の解明につながる可能性もあると考えている.