岩石切削におけるビット摩耗と切削抵抗
5.まとめ

これまでも多くの岩石切削に関する研究がおこなわれてきたが,せいぜい数種類の岩石を対象としたものがほとんどであった.本研究では,実機規模の切削と比較してスケールダウンした形ではあるが,代表的な金属と比較しつつ40種類以上の岩石を対象とした切削実験をおこない,大局的に岩石の切削の特色を把握することを試みた.

得られた結果の内,切削抵抗は(1)〜(3)式に従い,岩石・モルタルであれば,その種類によって定数a,b,cはさほど変化しないこと,ビットの摩耗によってもその定数はさほど変化しないことは,切削機構を考える上で重要であると考える.長年岩石の切削実験に携わってきたものの素朴な感想として,(1)〜(3)式の根拠である図5に示した結果は,驚くほどのばらつきの少ないものであった.主分力や背分力と岩石の一軸圧縮強度をはじめとする強度との相関は必ずしも良好でなく,図にしてみると相当なばらつきを示すのが普通である.今回の実験結果でももちろん相当なばらつきを示した.それにもかかわらず,背分力と主分力の比や,送り分力と主分力の比が多くの岩石でほぼ同じであったことは,今後の岩石切削の発展につながる深い意味を持つ可能性があると考えている.

今回得られたその他の実験結果をまとめると次のようになる.

1) 今回採用した切削試験(旋削試験)では,使用ビットによる摩耗や欠損の差が明瞭に把握できるので,使用ビットの材質評価に役立つ.また,金属に比べ,岩石ではビットの摩耗や欠損が目立つ.岩石を切削するには,K10やK30のように硬度は小さくても,抗折力の大きいものがよいことを再確認した.

2) 同じ一軸圧縮強度で比べると,岩石の主分力は金属に比べて小さく,岩石の送り分力や背分力は金属に比べて大きい.これは,図5に示した各分力の間でも明確に現れており,主分力が同じであれば,岩石の背分力および送り分力は,金属の3.5倍程度となる.この結果と切削試験中の温度変化を観察した結果を総合的に判断すると,金属ではすくい面と切屑での摩擦,岩石では逃げ面と試験片での摩擦がそれぞれ卓越していることがわかった.この切削機構の違いによって,図5のように金属と岩石とでは背分力と主分力の関係が異なったものと推測した.また,本研究で述べた旋削試験を岩石の摩耗能の測定に適用した場合には,逃げ面での摩擦機構が大きく関与することもわかった.

3) 切屑の形状は,金属と岩石で明らかに異なる.本研究での切削条件下(表1)では,岩石の場合,最大でも1 mm程度の粒は混じるが,小さい粒が大部分を占める.他方,金属では岩石に比べて切屑が大きく,連続的である.この切屑の形状の違いから,両者の切削機構が異なることがわかる.切削機構の違いが,各分力間の関係や摩耗など,金属と岩石の切削性の違いを生み出している可能性が大きい.ただし,金属の中でも銅とアルミニウムでは明らかに切削機構は異なっており,岩石でもある程度の差はあるものと思われるが,これが各分力間の関係にあまり影響を与えていないことは興味深い.

4) ビットが摩耗することによって岩石の各分力は大きくなるが,新品ビットでの各分力間の関係(比)は,ほぼそのまま保持される.本研究の実験の範囲では,新品ビットでの各分力間の関係(比)は,ビット形状に影響されないことを示している.

5) 金属に比べ,岩石を切削した際のビット摩耗は大きいことを,本実験により明瞭に示すことができた.岩石を切削した場合のビット摩耗の傾向はおそらくグラインダーによる金属の加工(研削)と類似したところがあると考えている(小野ら,1986).

さまざまの要因が結果に影響を及ぼす摩耗実験では,再現性がありかつ時間と労力が比較的少なくて済む実験方法の確立が第一の課題である.本論文で採用した実験方法は,これらの要件をかなり満足するものと考える.今回の実験で得られた結果と,実際のビットの切削抵抗や摩耗との関わりについて検討するのが今後の課題であろう.今回の実験では切込み深さを1mmとしたが,実際の切削では数mmから2cm程度の切込み深さであろう.切込み深さによる相違は,広い意味での寸法効果の解明に繋がるものであり,今後時間をかけて検討を進めていくつもりである.その他にも,ビット先端形状,ビットと岩石の熱的性質,切削速度の影響など,多くの検討課題があり,これらも含めた総合的な検討が必要であろう.