一軸引張応力下での岩石の破壊過程に関する研究(除荷・載荷試験)
4.考察

4.1 圧縮試験結果との比較とグリフィス軌跡

本章では、3章での実験結果に基づいて引張破壊過程に関しての考察を行うことにする。

大久保ら(1987)は5種類の岩石を用い、圧縮試験において強度破壊点以降で除荷・載荷試験を行った。そのうち、稲田花崗岩と三城目安山岩は今回の試料岩石と共通するので、今回の引張試験と比較してみる。ただし、試験片は同じブロックから採取したものでないため、強度は若干異なっており、表2に今回用いた試験片と大久保ら(1987)の一軸圧縮強度の比較を示す。本研究で用いた試験片の一軸圧縮強度は大久保ら(1987)に比べて、稲田花崗岩では10%増、三城目安山岩では10%減である。

図6に応力σとλ−1の関係を示す。ただし、応力σはそれぞれの強度で正規化している。稲田花崗岩では、強度破壊点でのλ−1は引張試験で25GPaであるのに対して、圧縮試験では43GPaと70%程度も大きい。三城目安山岩では、引張試験で14GPaなのに対して、圧縮試験では21GPaと50%程度大きくなっている。表2の強度を考慮に入れても、圧縮試験の強度破壊点でのλ−1は引張試験に比べ、かなり大きいことがわかる。引張試験と異なり、圧縮試験の強度破壊点以前では応力の増加に従い、λ−1が増加する。λ−1が増加する原因として、潜在亀裂や空隙が閉じることが考えられる。強度破壊点以前でもダイラタンシーが観察されるので、亀裂の進展が生じ、λ−1が低下する要因もあると思われるが、亀裂や空隙の閉鎖現象が卓越しているので、λ−1が増加する。他方、今回実施した引張試験では、図4に示したようにλ−1は単調に減少する。引張試験においても、潜在亀裂や空隙の閉鎖はありえるが、その影響は比較的小さいためと考えられる。

次に強度破壊点以降を比較してみる。応力とλ−1の関係では原点からの傾きの逆数が弾性歪を表すので、両試験とも強度破壊点以降では弾性歪は減少傾向にある。この様子を詳しく調べるために、強度破壊点での弾性歪で正規化した弾性歪ε1と、強度で正規化した応力σの関係を図7に示す。(a)の稲田花崗岩では応力の低下に従い、圧縮試験に比べ引張試験の方が若干弾性歪の減少が大きく、(b)の三城目安山岩でもわずかに引張試験の方が弾性歪の減少が大きいが、両者ともさほど変わらないとも言える。圧縮試験での強度破壊点以降では、応力の低下に伴う閉鎖していた亀裂や空隙の開口によるλ−1の低下だけでなく、亀裂の進展に伴うλ−1の低下が現れているものと考えられる。巨視的に見た場合に圧縮試験では、亀裂に垂直な応力が作用するため、亀裂での摩擦が起きるなど複雑な現象が生じているため、コンプライアンスの変化から破壊機構に関する考察をすることが難しい。引張破壊では亀裂の摩擦現象はないとはいえないが、圧縮破壊に比べて格段に少ないと考えられる。このように破壊機構はかなり異なると考えられているが、図6図7の結果からは、明瞭な差は見られなかった。

次に図7をグリフィス軌跡と比較してみる。圧縮破壊におけるグリフィス軌跡は佐藤・木下(1976)が求めているが、亀裂の方向や摩擦係数など多くのパラメータが存在する。一方、引張破壊の場合は比較的単純である。Berry(1960)の求めた平面応力状態でのグリフィス軌跡の式を、図7のように正規化すると次式となる。

ε=(σ+k(σ−3)/(1+k)      (2)

=2πC/A

ただし、A、2Cはそれぞれ試験片の断面積、不安定成長を始める時の亀裂長である。試験片の断面積4.9cmを用いて、2Cを0.2〜6mmの間で変化させた場合のグリフィス軌跡を図8に示す。図には比較のため、三城目安山岩の引張試験での結果も示した。グリフィス軌跡では、最初クラスU岩石のように応力と弾性歪は正の傾きを持ったまま両者とも減少し、あるところで弾性歪の低下率が減少していき、逆に弾性歪は増加傾向となる。2Cが大きくなれば、弾性歪が増加し始める時の応力は増加する。実験結果でもグリフィス軌跡と定性的には同じような変化をしている。定量的に比較すると、応力が0.8程度まで低下するまでは、2Cが6mmのグリフィス軌跡に近い。また2Cが0.2mmの場合、弾性歪が増加し始める応力が実験結果と一致するが、応力と弾性歪の勾配がかなり異なっている。このように、実験結果とグリフィス軌跡とはかなりの違いが見られる。これはグリフィス軌跡が二次元であることや、軌跡を求める際の仮定などが主な原因であると考えられる。三城目安山岩の潜在亀裂の長さがわからないため、詳細な検討はできないが、定性的な傾向が一致していることは今後の検討で重要であると考える。

4.2 コンプライアンスと非弾性歪

岩石に引張応力を加えると、荷重方向とほぼ垂直な破断面が最終的に形成されることから、破壊機構として巨視的な亀裂が、荷重と垂直方向に進展する現象が挙げられる。(2)式のグリフィス軌跡でも評価されているように、巨視的な亀裂進展によるコンプライアンスの増加は明らかである。

この亀裂進展の他に、次のような変形過程も存在する。岩石内部には微小の潜在亀裂が無数に存在しており、この微小亀裂は様々な方向を向いている。ある方向から引張荷重を加えた場合、それと垂直な方向以外の微小亀裂近傍では、引張変形だけでなくせん断変形も生じることとなり、例えば圧縮試験のように、亀裂が閉鎖して亀裂での摩擦が起こり、非弾性歪が生じることが考えられる。また、破壊力学的な見地からの研究、たとえば三点曲げ試験(大久保ら,1984b)やクリープ試験(福井,1990)などから、プロセスゾーンと呼ばれている微小亀裂が数多く集中した領域が巨視的な亀裂の先端に形成されているとの指摘がある。この場合も潜在亀裂と同様の影響が現れ、非弾性歪を生じさせる。

以上のように、引張破壊過程では、荷重と垂直方向に進展する巨視的な亀裂と、荷重と垂直方向にない微小亀裂の変形の2種類の機構が考えられる。荷重と垂直方向に進展する巨視的な亀裂進展はコンプライアンスに、荷重と垂直方向にない微小亀裂の変形は非弾性歪の増加に大きく影響を与えると考えることができる。

図5に示した、コンプライアンスと非弾性歪の関係において、強度破壊点を境にその特性に変化が生じた。すなわち、強度破壊点以前では非弾性歪の増加が、強度破壊点以降ではコンプライアンスの増加が卓越していた。このことより強度破壊点以前では、亀裂が荷重と垂直な方向に進展する現象より、荷重と垂直な方向にない微小亀裂の変形やプロセスゾーンの形成現象が卓越しているのではないかと考えられる。他方、強度破壊点以降では、コンプライアンスの変化が卓越しているため、荷重と垂直な方向に亀裂が進展する現象が卓越していると考えられる。

4.3 強度破壊点以降での応力とコンプライアンス

図4に各岩石の平均的な結果を示したが、同じ岩石でも試験片ごとにかなりの差異が見られた。3本の試験片を用いた平島砂岩の場合をまず説明する。除荷を開始した応力と、除荷曲線の傾きから求めたコンプライアンスの逆数λ−1との関係を図9(a)に示すが、λ−1の初期値13、15、18.5GPaより出発するほぼ平行な3本の曲線となる。他方、強度破壊点以降の曲線はほぼ一致する。試験片は同じブロックから採取したもので、試験片によって粒度や結合物質が異なっているとは考えにくく、初期のλ−1が異なった原因は、試験片の潜在亀裂の長さや数の違いによるものと考えられる。試験片が載荷されると、亀裂の進展や亀裂先端でのプロセスゾーンの拡大が生じ、λ−1の低下と非弾性歪の増加につながると考えられる。強度破壊点以降では先ほど述べたように荷重と垂直方向に進展する亀裂が変形挙動を支配している。強度破壊点以降では、図9(a)のように同一曲線上を通るので、この時点の特性には潜在亀裂の初期状態の影響が現れていないこともわかる。

図9(b)〜(d)に示した、稲田花崗岩、三城目安山岩、田下凝灰岩でも10〜30%程度、初期のλ−1はばらついているが、強度破壊点以降の曲線はほぼ一致する。

図4に示したλ−1と応力の強度破壊点以降の関係では、応力が同じ場合、田下凝灰岩、白浜砂岩、平島砂岩、三城目安山岩、諫早砂岩、稲田花崗岩の順にλ−1が大きくなっており、ヤング率や強度の順と一致している。これはこの曲線がヤング率や強度と関係が深いことを表している。

図9では、潜在亀裂によって決定されるλ−1の初期値から、出発する右下がりの曲線と、強度破壊点以降の曲線とぶつかったところが、強度破壊点であるとも見ることができる。

以上で述べた強度破壊点以降での応力とλ−1の関係をまとめると、次のようになる。

1) 岩石の種類ごとにほぼ一定の曲線を描き、潜在亀裂の影響をほとんど受けない

2) 荷重を加えていき、この曲線とぶつかったところが強度破壊点となる

1)と2)より、強度破壊点以降でのλ−1と応力の関係は、図10に模式的に示すように、亀裂が安定に成長する領域と不安定に成長する領域に分ける限界条件を表しているとも言える。図中の実線で示した限界条件は、1)より岩石の種類ごとに決まっており、2)より荷重を加えていくと、徐々にλ−1は減少していき、限界条件と交わると強度破壊点となる。強度破壊点以降で安定に破壊させていくと、この限界条件に沿って、応力とλ−1は減少していく。また、潜在亀裂の長さや数が異なることによって、初期のλ−1の値が異なる場合には、図10に示すように強度破壊点以前での軌跡や強度は異なる。しかしながら、この限界条件とぶつかってしまうと、これ以上の応力をささえることができなくなり、亀裂の進展が進み、応力およびλ−1は限界条件上を低下していく。図10の斜線で示した領域(限界条件の右側あるいは下側)は、亀裂が不安定に成長するために、(1)式に基づいて安定に破壊させた今回の試験では存在することができない。

引張荷重を加えていき、この限界条件とぶつかった時の応力が引張強度となるので、限界条件は、別の見方をすれば破壊条件を表しているとも言える。その工学的な利用方法として、限界条件をあらかじめ把握していれば、初期のλ−1によってほぼ強度を推定することが可能であるが、事前に限界条件を求める必要があるので、実用的ではない。強度破壊点以降の応力とλ−1の関係は、破壊していく過程での岩石の力学的特性を表しており、しかも潜在亀裂の影響をほとんど含んでいない。そのため、巨視的な亀裂の進展と、試験片が支えることができる最大応力の関係を表現しており、引張応力下での破壊機構の解明の重要な資料となるものと考える。

さて、グリフィス軌跡(Berry,1960)では、強度破壊点以降の応力とλ−1の関係は次式となる。

λ−1=AE/(A+kσ −4)       (3)

=2Eγ/π

ただし、A,E,γはそれぞれ、試験片の断面積、ヤング率、単位面積あたりの表面エネルギーである。(3)式でkは、ヤング率と単位面積あたりの表面エネルギーのだけの関数であるので、岩石の種類によって決定される定数である。よって、(3)式は岩石固有の曲線となり、この曲線まで応力を増加させると強度破壊点となる。グリフィス軌跡も上記の1)、2)の事項を想定していることになる。

4.4 砂岩の特徴

今回は3種類の砂岩を用いたので、その特徴について述べる。

図5に示したコンプライアンスと非弾性歪との関係は、砂岩以外、強度破壊点付近で徐々に変化していたのに対して、3種類の砂岩ともに強度破壊点で急激に曲線が屈曲した。強度破壊点以前では微小亀裂の進展や形成による変形が、強度破壊点以降では荷重と垂直方向に進展する亀裂による変形が、それぞれ卓越することを前節で述べた。これより、砂岩では強度破壊点で破壊機構が微小亀裂の進展や形成から、破断面となる亀裂の進展へと急激に変化した可能性が高い。一方、他の3岩種では、徐々に変化した可能性が高い。

砂岩の破断面の凹凸は2〜4mm程度と他の3岩種に比べて小さい。三城目安山岩の破断面の凹凸は4〜6mm程度であり(福井ら,1995)、田下凝灰岩では10mmに及ぶものもあった。既報(福井ら,1995)で述べたように稲田花崗岩や三城目安山岩では、粒界に沿って破断面が迂回する現象が観察され、これにより凹凸が生じた。またこの凹凸により、残留強度が現れたり非弾性歪が大きくなる可能性を示した。他方、今回使用した砂岩の場合でも粒界に沿った破壊が生じたが、粒子径がさほど大きくないため、亀裂の迂回は小さく破断面の凹凸も小さかった。そのため、砂岩では亀裂進展に関しての障害は小さく、理論上最も亀裂が進展しやすい、荷重と垂直方向に進展する。荷重と垂直方向にいったん亀裂が進展を始めると、断面積の減少により応力は低下することになるので、強度破壊点を迎える。よって、強度破壊点を境にして、強度破壊点以前では非弾性歪の蓄積が、強度破壊点以降ではコンプライアンスの増加が支配的となったと考える。他方、稲田花崗岩や三城目安山岩では、荷重と垂直方向に亀裂が進展し始めても、亀裂が粒子とぶつかり、非弾性歪を伴う亀裂の迂回が生じる。そのため砂岩と比較して、強度破壊点付近では、コンプライアンスの増加と非弾性歪の蓄積が混在していると考えることができる。

白浜砂岩の場合には、強度破壊点以前での非弾性歪が15×10−4と他の岩石に比べて格段に大きい。白浜砂岩の平均粒径は0.1mmで諫早砂岩や平島砂岩の1/10程度と非常に小さく、その構造は粒子が網目状に結合している。また初期のλ−1は10〜11GPaと今回用いた岩石の中で最もばらつきが小さかったことから、潜在亀裂長はさほど長いものはないと考えられる。以上より、強度破壊点以前では、網目状に繋がっている構造が局部的に破壊していき、これによって非弾性歪が蓄積されたものと考えられる。非弾性歪が大きくなっても、粒径が小さく、かつ三次元的に複雑に粒子がかみ合っているため、亀裂が荷重と垂直方向になかなか進展できずに、非弾性歪がかなり大きくなったのでないかと考える。諫早砂岩や平島砂岩でも、稲田花崗岩や三城目安山岩に比べて、強度破壊点での非弾性歪が大きい原因は、白浜砂岩と同様であると考える。