一軸圧縮試験における岩石からの電磁波の発生
5.考察

3,4章での実験結果をまとめながら,一軸圧縮試験における電磁波の発生に関して考察を加える.


5.1 電磁波の発生しやすい岩石とそうでない岩石

本研究で使用した7種類の試料を,電磁波の発生量によって分類すると,次のようになる.


1)高い電界強度の電磁波を発生する岩石(グループ1)
稲田花崗岩はグループ1に分類され,試験を行ったすべての試験片で,強度破壊点付近において電磁波の発生が観測された.

2)電磁波は発生するが,グループ1ほど大きくない岩石(グループ2)
本小松安山岩と葛生苦灰岩はグループ2に分類され,試験に供した3本中2本の試験片で電磁波の発生が観測された.観測された試験片でも,グループ1の稲田花崗岩に比べて電界強度は小さかった.

3)電磁波が観測できなかった岩石(グループ3)
秋芳大理石,来待砂岩,三城目安山岩およびモルタルがグループ3に分類される.すべての試験片で雑音(65 dBμV/m)以上の電磁波は観測できなかった.なお,雑音レベル以下の電磁波が発生している可能性があるため,雑音以上の電磁波が観測されなかったということは,必ずしも電磁波が発生していないという意味ではないことを指摘しておく.

ここで,表1の試料の物性値により,グループごとの力学的特徴の共通性を考えてみる.

a)一軸圧縮強度
一軸圧縮強度を比較すると,グループ1,2は200 MPa 以上と大きいのに対して,グループ3は110 MPa 以下である.一軸圧縮強度が大きいほど,電磁波が発生しやすい傾向がみられる.

b)圧裂引張強度
グループ1,2の圧裂引張強度は10 MPa 以上であるのに対して,グループ3は10 MPa 以下である.一軸圧縮強度と同様に,圧裂引張強度が大きいほど,電磁波が発生しやすい傾向がみられる.

c)ヤング率
グループ1および2のヤング率は30GPa以上であるのに対して,グループ3は秋芳大理石を除いて25GPa以下である.

d)ポアソン比
ポアソン比の測定は別途に試験を実施する必要があったため,欠損データが多いが,0.21〜0.27の範囲にあり,グループによる特徴はみられない.

e)Schimidt Hammer反発値
Schimidt Hammer反発値は試験片を作製する前に,岩石ブロックに対して試験を行う必要があるが,事前に調べていない試料もあったため,欠損データが多い.しかしながら,グループ1,2は68.6,67.0であるのに対して,グループ3は60.2,62.0と差がみられる.Schimidt Hammer打撃試験は原位置で実施しやすいため,Schimidt Hammer反発値は,原位置における岩盤について電磁波の発生しやすさを分類する指標となる可能性はあると考えられる.

f)脆性度(ここでは,一軸圧縮強度/圧裂引張強度とした)
グループ1,2の脆性度は16以上であるのに対して,グループ3は14以下である.

g)強度破壊点以降での応力−歪曲線の形状
グループ3は定歪速度試験においても強度破壊点以降,ほぼ安定に破壊が進行しているのに対して,グループ1,2は急激な破壊が生じている.なお,応力帰還試験を行うと,グループ1,2はクラスU特性を示す.このようにクラスU特性を有する岩石,あるいは脆性的な変形特性を示す岩石の方が,電磁波が発生しやすいという傾向がみられる.

以上の結果をまとめると,本研究の範囲内では,一軸圧縮強度が200MPa以上,圧裂引張強度10MPa以上の岩石で,しかも脆性的な変形特性を示す岩石ほど,強度破壊点付近で発生する電磁波は大きいということがわかった.従来の研究では,AEの発生と関連させた報告がいくつかあり,亀裂進展に関連して電磁波が発生することは指摘されている(Rabinovitchら:1995).今回の結果と合わせ考えると,脆性的な変形特性を示す岩石では,強度破壊点付近で急激に亀裂が進展しており,その際,大きな電磁波が発生した可能性があると考えられる.他方,グループ1および2に比べ,延性的な変形特性を示すグループ3に分類される岩石では強度破壊点以降でも亀裂の進展は徐々に進行するため,雑音(65 dBμV/m)以上の大きさの電磁波が観測できなかったものと考えることができる.

5.2 実験条件による電磁波の発生状況

稲田花崗岩を用いて電磁波の発生に及ぼす,実験条件(歪速度,制御方法,端面の仕上げ)の影響を調べたが,試験条件を変化させても電磁波の発生を確認することができた.

稲田花崗岩を用いた試験では,αを0と0.6,載荷速度Cを10−4と10−5−1,計4条件の試験を行った.ここで,発生した電界強度と応力の低下量の関係を調べるために,発生した電磁波の電界強度の極大値と応力低下量の関係を図16(a)に示す.同図に示すように,ばらつきは大きいものの,同一条件であれば,応力低下量が大きくなるほど,電界強度が大きくなる傾向が認められる.一軸圧縮試験での応力低下量は生成された亀裂の進展長に強く影響を受けること(何ら:1989)を考えると,この点からも本研究で観測した電磁波は亀裂の不安定成長によって発生した可能性が高いと類推できる.図では,載荷速度10−4−1,α=0の結果がほぼ直線上に並んでいるので,これを点線で結んだ.この点線の傾きは,応力低下量が2桁増加すると,電界強度は20 dBμV/m増加することを示している.すなわち,応力低下量が2桁増加すると,電界強度は1桁増加していることがわかる.式で示すと次のようになる.

 電界強度 ∝ (応力低下量)0.5  (3)

載荷速度の影響であるが,α=0,0.6ともに,載荷速度によって応力低下量はさほど変化していないが,載荷速度10−5−1に比べ,10−4−1の方が発生する電界強度が大きい傾向がみられる. αによる影響は,αを0から0.6とすることによって,載荷速度10−4,10−5−1ともに応力低下量が減少していることがまずわかる.その時に発生する電界強度の大きさであるが,応力低下量が同じであれば,αが0.6の方が小さい傾向がみられる.このように安定的に破壊した方が,電界強度は小さくなることがわかった.

なお,(1)式で示したように,実際に発生する電界強度に対して,測定器から得られる電界強度は,3次遅れとなるため,ゆっくりとした破壊では極大値となる電界強度は実際の電界強度に比べ小さくなる.しかしながら,電界強度が発生した時の応力の急激な低下は数s以内には終了するため,電界強度の極大値にさほど大きな影響は現れないことが(1)式を使った検討からいえる.  同じ応力の低下量に対して発生する電界強度の大きさを試験条件によって順位付けを行うと次のようになる.

10−4−1,0 > 10−5−1,0  > 10−4−1,0.6 > 10−5−1,0.6 (載荷速度,α)

強度破壊点以降,亀裂の発生や進展が進行して,徐々に応力が低下していくが,α=0の場合には,頻度は少ないが大規模な亀裂の発生・進展が生じ,α=0.6の場合には小規模な亀裂の発生・進展が高い頻度で生ずる.その結果,観察される電磁波の強度は,α=0の方が強いのであろう.次に,載荷速度の影響について考えてみる.これまでの実験結果と同様に,載荷速度が早い時と遅い時の応力ー歪曲線は相似形で,速い時のそれが遅い時の応力−歪曲線を内包する.以上のように,応力−歪曲線が相似形であること,また試験片の破壊状況に差がないことから,亀裂の発生・進展過程にも差がないと考えられるが,載荷速度が速い時には亀裂の発生・進展に伴う応力低下や対向する亀裂間の滑りは大きいはずであり,その結果,載荷速度の速い時の方が,電磁波の強度はやや強くなるものと考えられる.

図16(a)の横軸の応力低下量を応力低下率(=応力低下量/低下開始応力)としたものを図16(b)に示す.この場合も傾向は,図16(a)とほぼ同様であるが,若干ばらつきが大きくなっているようにみえる.図には,図16(a)と同様に載荷速度10−4−1,α=0の結果を点線で結んだが,傾きはほとんど同じである.

電磁波の発生機構として,圧電現象が卓越しているのなら,その機構から,応力低下率より低下した応力の絶対値による影響を受けることが考えられる.他方,電荷分離あるいは摩擦帯電荷が卓越しているのなら,応力の低下量ではなく,コンプライアンスの変化,すなわち応力の低下率に影響を受けるとの考えから,図16の(a),(b)を描いてみたが,明瞭な結論を得ることができなかった.

定歪速度試験で電磁波の発生を観測できなかった2種類の試料を,α=−0.6の応力帰還制御で急激に破壊させても,電磁波を観測することができなかった.定歪速度試験で電磁波の発生を観測できなかった試料は,雑音レベル(65 dBμV/m)に比べ発生する電界強度が小さいだけで,電磁波は発生していると考え,花崗岩同様に急激に破壊を誘発させれば,電界強度が大きくなり測定できるかと考えたが,雑音(65 dBμV/m)以下のレベルであったものと思われる.このように,稲田花崗岩ではわずかな破壊によっても比較的大きな電磁波が発生するのに対して,発生しにくい岩石では電磁波の発生レベルがかなり小さい可能性が高いと考えられる.この点は,今後,原位置への適用を考えた場合,重要な情報となるであろう.