石炭強度の載荷速度依存性に関する研究
6.考察

6.1 強度試験と完全応力−歪曲線

Pomeroy et al.(1956)は,適当な引張強度の測定方法が確立されていないと述べたあとで,主として石炭を対象として開発された曲げ試験機を紹介し,この試験機を使用して石炭の引張強度とその寸法効果などを検討した結果を述べている.その後,Evans(1961)は,曲げ試験は実施が困難であるうえ,かなり大き目の強度となる可能性があることを指摘した後,圧裂試験を実施して強度の方向性を検討し,満足できる結果が得られたとしている.また,Brenbaum & Brodie(1959)も圧裂試験を実施した結果,妥当なデータが得られたとしている.わが国でも,会田・岡本(1962)は,石炭を対象とした幅広い研究をおこなった.強度の方向性を調べた研究では,一軸圧縮強度は方向により±10%程度変化するのみだが,圧裂引張強度は±50%変化する場合もあるとの実験結果を示している.

このように石炭の強度に関する研究のピークは数10年前にあり,今一度見直す時期にきているのではないかと考えて今回の試験を実施した.従来から広くおこなわれてきた一軸圧縮試験と圧裂引張試験に加えて,著者等が開発した一軸引張試験方法(福井他,1995)を石炭に適用したところ,ほぼ満足できる結果が得られた.石炭に対し,一軸引張応力下の完全応力−歪曲線を得たことは,本研究の成果の一つと考えている.得られた完全応力−歪曲線の形状はかなりばらついたが,これは個々の試験片に含まれる成層面,炭理の影響を強く受けたためと考えている.また,興味深いことに,強度破壊点以降においても応力が急激に低下するわけではなく,徐々に低下していくことがわかった.さらに,歪で2×10−3になると応力−歪曲線の傾きは緩やかになり,応力があまり低下しなくなる.この部分を残留強度と呼ぶことは可能であろう.残念ながら,強度破壊点以降の破壊機構については,今回の研究で明らかにすることはできなかったが,今後の検討課題としては重要なものの一つと考えている.

今回の研究結果では,圧裂引張強度に比べて,一軸引張強度が2〜3倍となった.同様に圧裂引張強度の方が相当に大きいとの結果は,著者らが最近おこなった土丹を用いた実験でも得られた(大久保,2002).圧裂引張試験では,@試験片と載荷板との接触面がへこんで平らになること,A引張応力の大きい部分が,試験片の中心部分に限られ,成層面や炭理の影響を受け難くなることなどが原因として考えられる.硬岩の圧裂引張試験と一軸引張試験における強度の違いについては,かなり議論されてきたとは思うが(平松他,1969;Wijk,1978),石炭に関する従来の検討は不十分であり,今後さらに検討を進める必要があると考える.

Heerden(1975)は,縦横比を1/1.14から1/3.39まで変えて10回の原位置試験をおこなった.そのうち,縦横比1/1.28と1/3.28の完全応力−歪曲線が論文に掲載されている.両者ともクラスT特性を示すが,縦横比の小さい後者がより延性的となっている.本研究では,縦横比2の試験片の一軸圧縮応力下における完全応力−歪曲線を求めた.その結果を見ると,強度破壊点以降,急激に応力が低下しクラスU特性を示す場合が多かった.原因として,石炭自体,石炭試料の寸法,湿度や温度,載荷条件の相違なども考えられるが,本研究では縦横比が大きい縦長の試験片を使用したことが,おそらく主因であろうと考えている.破壊後の試験片を観察すると,成層面や炭理に沿って破面が形成されることが多かった.縦長の試験片では,これらの弱い面の一部がすべりはじめると,巨視的なすべり面(破面)が容易に形成され,一気に応力が低下するのでクラスU特性を示すものと思われた.

6.2 時間依存性と載荷速度依存性

石炭でも時間依存性挙動がみられることは古くから知られている.例えば,Morgans & Terry(1958)は,瀝青炭のクリープ試験をおこなった.試験開始後80 minまでのクリープ歪の結果をBurgersモデルにあてはめると,2次クリープを代表する粘性係数は1016 poises程度であったと述べている.

Kaizer & Morgenstern(1981,1982)は,円形坑道の変形について,特にその時間依存性に注目した一連の研究をおこなった.研究の対象は比較的軟弱でジョイントを含む一般の岩石であるが,実際に実験で使用したのはカナダのアルベルタ州で採取した石炭ブロックである.この石炭(sub-bituminous coal)の1次クリープは次式で近似できるとしている.

dε/dt = A exp(ασ') t−m (2)

σ'は応力レベル,A=1.0×10 /min,α=1.9,m=0.9である.石炭ブロックは露天掘りのサイトで採取された後,61×61×20.3 cmに整形された.石炭ブロックに設けられた坑道モデルの直径は12.5cmであり,この坑道壁面の変形はLVDTなどで測定された.石炭ブロック側面に加える荷重を一定に保った時,坑道は時間の経過に伴って次第に変形していくが,変形速度は次第に低下していくと述べている.さらに,Kaizer et al.(1985)は,坑道周辺の破壊に注目し,石炭ブロックに掘削した152mmのモデル坑道のコンバージェンスや岩盤内変位を測定し,破壊領域が時間にともなって広がっていくとした.

比較的最近になってCristescu(1987)は,石炭も含めた岩石の構成方程式について検討したが,石炭に関しては定量的な結論を得るまでにはいたっていない.

炭坑におけるさまざまな時間依存性挙動のほかに,長期間の使用を前提として今後建設される放射性廃棄物処分場予定地等に挟炭層が存在する可能性があることから,石炭の時間依存性を引き続いて検討していく予定である.先に述べたとおり,時間依存性を調べる方法にはクリープ試験,応力緩和試験など各種あるが,これまでにおこなった岩石を使用した実験結果を吟味・検討したところ,比較的短時間で試験の終了する載荷速度依存性が最初の1歩としては妥当との結果を得たので,載荷速度依存性の検討を主たる目的とした本研究を実施した.その際,最近開発した歪速度を試験中に増減する方法を試用し,この方法が石炭に対しても適用可能であることを示したつもりである.但し,石炭に対する経験が浅いため,歪速度の選び方やある歪速度をどの位の時間持続すればよいかについては今後改良の余地があると思う.

実験結果を整理してみると,(1)式のnは,一軸圧縮と一軸引張応力下で大きな差がみられず100〜150の範囲であった.nが小さいほど載荷速度依存性は顕著で,時間依存性も大きいといえる.ちなみに,一つの極限としてn=1があるがこれは,せん断速度が小さい時に水が示すニュートン粘性となる.他方,銅やニッケルなどの面心立方金属では,降伏点の載荷速度依存性は小さく,nが100以上になることが知られている(武内,1974).すでに述べたように,これまで著者らが実験をおこなった岩石のnは34〜66であったが,これらの岩石と比較して石炭の載荷速度依存性や時間依存性は小さいといえる.また,圧縮と引張応力下でのnが同程度であったことは,両応力下における破壊機構に共通な部分のあることを示唆している可能性がある.

比較的最近,Khair(1966)は縦横比1の試験片(Waynesburk coal seam)を使用して,載荷速度0.000007〜0.69MPa/sの間の一軸圧縮試験をおこなった.得られた結果をみると,試験片ごとの強度のばらつきが変動係数でいって30%程度と大きく,載荷速度による強度の変化を論ずることはできそうもない.他に直接比べるべき従来のデータは見出せなかった.

参考までに,間接的にではあるが関連のある研究結果を挙げておこう.Morgans & Terry(1958)は,無煙炭と瀝青炭の静的ヤング率と動的ヤング率をもとめている.その結果によれば,無煙炭の動的ヤング率は4.59〜5.42MPaであるのに対して,静的ヤング率は4.43〜4.61MPaである.また,瀝青炭では動的ヤング率が3.27〜4.08MPaで,静的ヤング率は3.77〜4.13MPaである.この結果をみる限りでは,時間依存性や載荷速度依存性と関連のある動的ヤング率と静的ヤング率との差は,他の岩石と比較して小さいといえよう.同様に,Heerden(1985)も,動的ヤング率と静的ヤング率とがほぼ一致したと述べている.

会田・岡本(1962)は,ピック形バイトによる切削試験をおこなった.切削速度を変えた時の切削抵抗(主分力)の変化はデータのばらつきの範囲内で明瞭な傾向はみられない.Potts & Shuttleworth(1957)は,石炭の切削試験をおこない,切削速度の増加にともなって切削抵抗が増加するがその程度はわずかであるとしている.

以上に挙げた4例の研究も,間接的にではあるが,石炭の時間依存性挙動と結びついたものであり,いずれも今回の実験結果と同様に,石炭の時間依存性や載荷速度依存性はそれほど大きくないことを示していると思われる.その原因について断定的なことを述べる用意はないが,今回使用した石炭では,塑性領域の拡大や亀裂の進展が時間経過に伴って徐々に生じるというよりは,弱い面での摩擦力が耐えうる限度に達すると,一気に破壊が生じるように思われた.ただし,泥炭のように強度が低い石炭では,載荷速度依存性が比較的大きい可能性もあるが,この点の解明は今後の研究を待つ必要がある.