緩み領域の強度回復に関する基礎研究
1.はじめに

トンネルや坑道などの地下構造物を設けたとき,その周辺の岩盤は何らかの損傷を受ける.この損傷を受けた部分を以下では緩み領域と称する.これまでの認識では,わずかずつではあるが,時間の経過にともなってこの緩み領域は次第に拡大してゆき,その結果,坑道の安定性は低下するし,周辺の地下水の流動も活発になると考えられてきた.充分に注意して設計された地下構造物では,時間経過にともなう緩み領域の拡大や安定性の低下は,多くの場合,充分小さなものであろう.しかしながら,周辺の岩盤が次第に劣化していくと考える限り,設けた地下構造物をかなりの期間にわたって監視する必要があるので,経費の点で問題が生ずるし,何年か後にどのような状態になるかを問われたとき,正確に回答することは困難である.

実際にトンネルや鉱山の坑道をはじめとする地下構造物では,時間の経過にともなって次第に安定性が低下する場合もあるが,充分な強度・剛性を持つ支保が施された場合には,緩み領域は時間の経過にともなって回復し,領域が減少してゆく可能性があると著者は考えている(大久保・福井,1999;杉田ら,2000).著者の一人が20年ほど前に,北海道夕張地区の炭坑で,坑道の補修を見た時のことを参考までに記しておく.この炭坑の運搬坑道は,鉱車(炭車)が充分な余裕をもって通過できるように掘られ,初期の寸法はおそらく横幅5mで高さ3.5m位であったと思う.これに鋼アーチ支保が施されていたが,数年の内に,数10cm以上岩盤が坑道内部に張り出してきた.そこで,坑道の拡大をすることになった.ちょうどそのとき,著者の一人が炭坑を訪れ見学した.他箇所の観測結果より類推すると,掘削した直後は,鋼アーチ支保の裏側には細かい岩片が詰まっているという状態であったと考えられる.それが数年を経た後にはかなり硬くなり,ピック(小型さく岩機)で掘り進むのに困難を感ずるまでに硬化していた.図1に示すように,一旦緩んだ坑道周辺の岩盤に,内からは支保の反力が加わり,外からは地圧が加わって,緩み領域の強度回復が進行した可能性が強いと考えている.このように掘削直後に広がった緩み領域に,適切な支保が施された場合には,時間の経過にともない縮小していく.図2に示すように,その結果として,坑道の安定性も増していく可能性があるとの考えが,本研究の原点である.

緩み領域の強度回復に関連する研究は少ないが,Dieterich(1972a, 1972b)は,せん断試験において,滑り面と垂直に荷重をかけておくと,時間経過にともなって,滑りはじめのせん断抵抗(摩擦抵抗)が上昇していくと報告している.また,Smith & Evans(1984)は,高温・高圧下で,結晶中にできた微小亀裂が回復(healing)していくことがあると報告している.両者とも,今回の研究とはかなり異なる条件下での研究結果ではあるが,強度回復が,場合によってはありえることを示している例と考えたので紹介した.

本研究では強度回復に関する研究の第一歩として,岩石試験片を一度圧縮破壊させた後に,厚肉円筒中で再度圧縮する.その後,厚肉円筒から取り出した試験片の一軸圧縮強度及び圧裂引張強度,破断面の状況等について調べた結果を報告する.