緩み領域の強度回復に関する基礎研究
3.押し込み試験結果

図4に押し込み最大荷重80kNの時の応力−歪曲線を示す.横軸に軸歪(試験片軸方向の歪)をとり,軸圧(試験片軸方向の応力)と側圧を示した.軸歪の最大値は40%近くにまで達するが,簡明さを重んじて,軸歪は初期長さを基準とし,軸圧は初期断面積を基準として計算した.すなわち,微小歪の時と同じ計算方法で軸歪と軸圧をもとめた.したがって,みかけの軸歪,みかけの軸圧と称するのが正しいが,煩雑さを避けるため以下では単に軸歪,軸圧とする.

図5に,押し込み試験後に厚肉円筒から取り出した試験片の体積を,試験前の試験片体積で割った値を示した.また,図6表2には,それぞれ押し込み試験後の試験片の写真と,試験片の概況を示す.

土丹の試験結果を,図4(a)図5(a)に示す.図4(a)をみると,ごく初期の間,軸圧は上昇するがすぐに低下する.やがて,軸歪が4%付近で軸圧は最低となり,その後は軸歪が増加するにしたがって軸圧も増加していく.厚肉円筒外壁の周方向歪から計算した側圧は,軸歪の小さい間零であるが,軸歪が7%を越えたあたりから徐々に増加する.軸歪が20%以上になると,軸圧も側圧も次第に上昇率を増していき,両曲線は顕著に下に凸となる.押し込み最大荷重に達したときの軸歪は30%以上で,他の岩石に比べてかなり大きい.また,この時の側圧は,軸圧の約50%であり,これも他の岩石に比べて大きい.図5(a)をみると,全ての押し込み最大荷重において,押し込み試験後の体積が,初期試験片体積より小さいことがわかる.これから考えて,土丹においては,含まれていた水が排出されることもあって,体積の収縮が速やかに進行したと考えられる.

図6表2を参照しつつ,押し込み試験後に取り出した土丹の試験片の特徴について述べることにする.もっとも顕著な点は,試験片の端面,側面とも滑らかで亀裂などは観察できなかったことである.ただし,下面の周縁は面取りをしたような状況であった.これはどの岩石にも共通していた.下面の周縁は,厚肉円筒内壁と試験機の下面が交差する隅の部分であり,強度の回復が起こり難い箇所であること,また,押し込み試験後に試験片を取り出すときには,この部分が最初に取り出されるので剥ぎ取られ易かったことによるものである.なお,図6に示したのは,押し込み最大荷重80kNの時の写真であるが,押し込み最大荷重が低い時の傾向もほぼ同じであった.

図4(b)に,気乾と湿潤状態の田下凝灰岩の応力−歪曲線を示す.気乾状態の方が一軸圧縮強度は高く,湿潤状態の時の約2倍であった.軸歪が増しても,気乾状態の時の応力−歪曲線は常に,湿潤状態の上であった.気乾状態と湿潤状態の側圧の差はわずかであったが,この場合にも気乾状態の時の曲線が常に湿潤状態の上にあった.気乾状態,湿潤状態とも定性的な傾向は土丹の場合と変わらないが,全般的に軸歪は小さめであった.たとえば,湿潤状態で押し込み最大荷重に達した時の軸歪は23%であり土丹にくらべて相当に小さい.図5(b)に示した体積変化をみると,押し込み最大荷重が20と40kNでは押し込み試験終了後の試験片体積は,最初の試験片体積より大きいことがわかる.押し込み最大荷重が60kNでは,気乾状態,湿潤状態とも試験前後の体積がほぼ同じになっている.押し込み最大荷重80kNに至って初めて,試験後の体積のほうが小さくなった.このように,田下凝灰岩では,土丹に比べて,小さな歪で押し込み最大荷重に達し,試験片体積の収縮もあまり進まないことがわかった.図6表2を見ると,厚肉円筒から取り出した試験片の端面と側面には,若干の凹凸が見られるものの比較的滑らかであった.側面には亀裂がみられたが,縦方向で比較的短い亀裂が少数存在するのみであった.試験片端面の内,下面にはかなり長い亀裂がしばしば見られたが,亀裂は閉じており,肉眼でやっと観察できるほどの幅の狭い亀裂であった.

図4(c)に示す来待砂岩の応力−歪曲線は,田下凝灰岩とさほど変わらなかった.ただし,全般的に軸歪が小さくなっていることがわかる.また,側圧についても定性的な傾向は変わらないが,気乾状態と湿潤状態との差が,田下凝灰岩に比べてやや大きかった.図5(c)に示す体積変化は,田下凝灰岩よりさらに押し込み試験による体積の収縮が進まないことがわかる.押し込み最大荷重が80kNのときでも,試験後の体積は試験前より増加していた.押し込み試験後に取り出した試験片の端面,側面の凹凸は軽微であり田下凝灰岩と同等であった.ただし,側面には少数ではあったが,上面から下面まで貫く亀裂が入っていることがあった.また,試験片の下面には亀裂の見られることがあったがその頻度や長さは田下凝灰岩より少なく短い.端部には,他岩石と比較して強固な円錐(コーン)が残存することが多かった.

三城目安山岩は,今回試験をしたなかではもっとも一軸圧縮強度の大きな岩石であった.図4(d)の応力−歪曲線は定性的には他岩石と同じであったが,軸歪はかなり小さかった.また,発生する側圧も他岩石より小さかった.さらに,図5(d)からわかるように,押し込み最大荷重が増しても体積はほとんど変化しなかった.厚肉円筒から取り出した三城目安山岩の試験片の側面と端面には多くの長い亀裂が見られた.亀裂の中には,口を開いているものもあり,強く押すと岩片が剥離する.これらから考えて,三城目安山岩においては,強度の回復はあまり期待できないとの印象を受けた.なお,他の岩石では,どちらかというと気乾状態の試験片の方が硬く締まった感じであったが,三城目安山岩だけは,気乾状態の方が,表面から小さな岩片が落ち易かった.湿潤状態では,水の表面張力により,小さな岩片が張り付いている可能性がある.