緩み領域の強度回復に関する基礎研究
5.考察

土を対象とした土質工学の分野では,衝撃的な力を加えて土を締め固め(compaction),基礎地盤や路床として適当な強度を持たせることに関する研究が行われている(たとえば河上,1997;石原,1998).しかしながら,研究の対象は,当然ながらN値で評価されるような土である.また,圧密(consolidation)に関する研究もおこなわれてきたが,土を対象として,ずっと低い応力下での検討が中心であり,この場合には水圧が負担する力が支配的であることから考えても,本研究との直接の関連は薄いと思う.

土木工法の中には,締固め工法ないし圧密工法とよばれる多数の工法がある(産業調査会,2001).現場での経験により編み出されたものが多く,それらの原理・原則は明らかでないが,本研究ともっとも近いのはおそらく静的締固め工法とおもわれる.しかしながら,この場合にも,あくまでも対象は土であり,これと本研究との直接の関連は薄いと思う.

地質学でいう続成作用の中には,a)粒子の再配置,b)粒子の塑性変形,c)細粒の粘土などが流動して隙間を埋める圧密作用(地質学ではcompaction),d)炭酸塩鉱物などで膠結される膠結作用,e)再結晶作用,f)交代作用,g)差別的溶解作用,h)圧力溶解作用(応力腐食),i)自生作用などが含まれる(たとえば水谷ら,1999;勘米良ら,1991).a)〜c)は本研究でも生じていたと考える.一方,d)以下は,かなり長期間にわたる場合に限って,重大な意味を持つと考えられ,今回の実験でこれらがどの程度の役割を果たしていたかは今のところわからない.

今回の試験における強度回復と関わると思われる点を挙げておく.

@食い込み:圧裂引張試験後の試験片の破面をみると,食い込んだ部分が剥ぎ取られたような窪みが観察できた.形状は丸みを帯びて半球に近く,大きいもので,径2mm,深さ1mm程度であった.これは,金属が疲労破壊したときにあらわれるディンプル(dimple)に似ていた.これから考えて,破砕された岩片の間で,相互の食い込みは生じていたと思う.

A粘着性のある物質の介在:たとえば粘土ないしそれに類したものが,破片と破片の間に入り込む可能性がある.これは,地質学でいう続成作用のc)と通じるところがある.

今回使用した土丹は,土丹の中ではもっとも強度の高い部類に入るが,表面は比較的柔らかく,爪で押すとわずかではあるが窪む.細かい粒子より構成されており,小片を手で触って押した感触では,粘土ほどではないが塑性変形し易かった.厚肉円筒に入れて押すと小さなピーク強度で破壊する.押し込み最大荷重が80kNの時には,歪が30%を越える.この押し込み過程において,押し棒と厚肉円筒の間の隙間から試験片に含まれていた水が漏れ出てきた.押し込み試験後の試験片体積が減少したのは,水の流出によるところが大きいと思われた.また側圧が軸方向応力の50%にも達したことから考えて,おそらく,破片の塑性変形とそれに伴う構成粒子の再配置とがかなり生じたと考える.圧裂試験後の試験片の破面は比較的滑らかで凹凸は少なかった.@の食い込みは,大小様々なスケールで生じている可能性があると考えている.しかしながら,肉眼で観察できる範囲では,明瞭な食い込みの痕はみつからなかった.土丹の場合には,おそらく,Aの効果が大きいのではないかと思うが,現段階では推測の域をでない.

田下凝灰岩と来待砂岩では,土丹と比較して側圧が小さいことから判断して,押し込み試験中の破片の塑性変形や再配置は,土丹に比べて少なかったと言える.田下凝灰岩の圧裂引張試験後の試験片は,載荷点を結ぶ面を破面として壊れることが多かった.できた破面には,@で述べた,食い込んだ部分が剥ぎ取られたような痕がしばしばみられた.来待砂岩でも同様の観察はできたが,田下凝灰岩よりは数が少なかった.これらの岩石では,程度の差はあるが,@の効果は期待できそうである.Aがどの程度貢献しているかについては,現時点では,わからない.

"はじめに"で,著者が夕張地区の炭坑で経験し,この研究をはじめる契機になったことを記した.ほぼ同じ頃,同様に著者の一人が経験したことで,おそらく深いところで今回の強度回復のテーマと結びついている可能性があることをこの機会に披露しておく.旋盤などの工作機械を用いて,軟鋼やアルミニウムなどを切削すると,その先端に切り屑が強固に固着し,次第にあたかも鼻のような形に成長することは,構成刃先(Built-up-nose)と称せられるよく知られた現象である(竹中,1968).また,土が鋤やスコップの先端にくっつくことも,古くから良く知られている(最上,1974).著者の一人が,いくつかの岩石を用いて切削実験をおこなっていたところ,特に,先端の丸いPoint-Attack式ビットでは,先端に岩石がこびりつくことがあった.ビット先端部は岩石と直接あたる.岩石がこびりつくのは,おそらく高い圧力で金属面に押し付けられたためであろう.さらに,同じ箇所に,岩石がこびりついて成長していくことが観察された.もっとも,いつまでも成長するわけではなく,ある程度の高さになると,曲げ応力で折れてしまう.実験室実験であっても,重切削を一定期間行うと刃先の温度は数百度まで上がるが,この構成刃先の形成は,必ずしも高い刃先温度を必要としなかった.この場合にも,刃先で一旦粉砕された岩片(岩粉)が非常に硬く固着するわけであり,今回の研究ともある程度結びつくのではないかと考える.