緩み領域の強度回復に関する基礎研究
6.まとめ

本研究でおこなった実験をおこなう前に,適当な実験方法について,かなりの期間にわたって検討した.その経緯を少し紹介しておく.図1を参照すればわかるように,坑道壁面の岩石は,周方向の応力で破壊した後,適切な支保が施されると半径方向の応力を受けて強度が回復していく.これをできる限り忠実に再現する手段を種々考えたが,結局良い方法が見つからず,今回提案した方法で試験を実施した.今回の試験では、押し込み試験および押し込み試験後の強度試験を通じて,荷重方向が一致しており,さらに試験機と接する面も同じなので,試験片端部に円錐形の強度の高い部分が残る傾向が,土丹を除いてみられた.その結果,例えば,圧裂引張強度が高めにでるなどの弊害が生じた可能性が高いと考えている.今回の試験法で,強度回復し易い岩石を見出し,その程度を何段階か(例えば4〜5段階)に分類することまではできそうである.今後の展開をみなければ判断できないが,強度回復まで含めた構成方程式の構築などの基礎データとするには,試験方法に一工夫を要するかもしれない.

本研究では,4種類の岩石を用いて押し込み試験を行った.その後,厚肉円筒から取り出した試験片について一軸圧縮試験と圧裂引張試験を行い,強度回復が確認できるかを調べた.その結果,土丹,田下凝灰岩,来待砂岩では強度回復が確認でき,その程度は押し込み試験における最大荷重,軸歪,側圧と関係があることがわかった.特に土丹は,押し込み最大荷重が大きいと試料岩石の強度を越えた.一方で三城目安山岩については,押し込み最大荷重を100kN以上にしても,強度が回復してゆく傾向は殆どみられなかった.強度回復の程度は,岩石ごとにかなり異なるといえよう.残念ながら,各岩石のどのような性質が強度回復にどの程度かかわってくるかについては不明である.

試験を実施する前には,土の締め固めが先入観としてあり,粒子表層の電気二重層等の影響で(最上,1974),湿潤状態の方が強度回復し易いのではないかと予測した.この点は,今回実験した岩石に関しては,逆の結果を得た.すなわち,これまでおこなってきた通常の試験と同様に,ヤング率も強度も気乾状態の方が大きかった.

本研究の応用として,例えば高レベル放射性廃棄物をはじめとする廃棄物の地下処分場の長期安定性がある(核燃料サイクル機構,1999).処分場の安定性に対して一般の理解を得ること,また高い見識を持った専門家を充分に納得させ必要があることを考えると,周辺岩盤が次第に弱くなっていき何時かは壊れてしまうとのストーリーは容易でない.このストーリーでは,壊れるがそれは充分長い時間の経過後であるから,心配ないとの説明に終始することになるだろう.その際,坑道の寿命を議論・検討し,ある程度定量的な結論を得る必要があるが,これは相当に困難と思われる.他方,緩み領域の強度が回復することが確かになれば,どのくらいの速度でどのように回復していくか等の定量的な議論はさほど重要で無くなる.ただ単に,やがて回復が見込めることのみを明示することができれば,それで充分に説得力があるし真実に近いと考えている.実際,ドイツ使用済み燃料中間貯蔵施設候補地Gorlebenでは,従来から知られている岩塩の快癒(healing)とそれに伴う浸透率の低下が期待されている(Cristescu & Hunsche, 1999).

本論文で示したのは,これから予定している強度回復に関する研究の第1歩である.今回おこなった試験の問題点の一つは,実際に想定されるより大きな押し込み荷重で短時間の試験しかおこなわなかったことである.強度回復の途上では力学的作用の他に化学的作用が生じている可能性が高い.化学作用には,荷重により加速されるものと,反応速度が荷重に左右されにくいものがあるが,今回の実験では後者に関する検討はなされていない.その結果,本研究で示した強度回復の機構は,実際の場合と異なる可能性を否定できない.したがって,本研究で提案した試験は,建設予定地の粗調査の段階で強度回復の高低を推し量ることはできるかもしれないが,追ってより実際の地圧などの状況に則した試験をする必要があろう.今後の課題としては,押し込み荷重がより低い状態で長時間の実験をおこない,時間依存性について明らかにすることが挙げられよう.