岩石の三軸圧縮試験用可視化ベッセルの開発と試用
2.可視化ベッセル

2.1 可視化ベッセルの概要

図1に可視化ベッセルの概略図(a)と写真(b)を示す.このベッセルは,上下の金属板と,透明なアクリル製円筒からなり,M12(JIS)の6本のボルトでアクリル製円筒を締め付ける構造となっている.上の金属板には油圧ポートが設けられており,油圧源からの圧力を導きいれる.油圧源としては,手押しポンプないしサーボ式周圧装置を使用した.また,上の金属板中央に設けられた円孔に直径25mmの押し棒が入る.押し棒と円孔の間の漏れ止めは,2個のオーリングでおこなった.この押し棒で直径25mm,高さ50mmの岩石試験片に荷重を加える.なお,試験片の上下に同径の鋼製円柱を密着させ,試験片と円柱を同時に熱可縮性チューブで覆った.試験片の位置決めは,下板から突き出たピンでおこなった.

中央部の円筒は,ガラス,ポリカーボネートなどの透明な材料と比較・検討の末,入手のし易さ,整形のし易さおよび表面の研磨のし易さからアクリル(アクリライト)製とした.アクリル製円筒の外径は100mm,内径は35mm,高さは50mmである.上下端面は研磨仕上げになっており,設計周圧10MPaでは,周圧が金属板を押し広げようとする力よりボルトの締め付け力が十分に大きいので,上下金属板とアクリル製円筒とのあたり面(接合面)は密着して油の漏れを防いでいる.ただし,用心のため,図に示すように金属板とアクリル製円筒との間にオーリングを組み込んでおいた.

可視化ベッセルの組み立て手順は次のとおりである.
@下の金属板を試験機ないし適当な組み立て台にのせる
A試験片と鋼製円柱を下の金属板にのせ,ピンで位置決めをする
Bアクリル製円筒を下の金属板にのせた後,油を注ぎ込む
C押し棒を付けた金属板をアクリル製円筒にのせた後,6本のボルトを締める

これからわかるように,組み立て手順や,それにかかる手間は通常の金属製ベッセルとさほど変わらない.

2.2 安全性と破壊試験

よく知られていることだが,鋼をはじめとする金属は一旦降伏しても,一気に耐荷能力を失うわけでなく,完全に破壊するまでに多くのエネルギーを吸収する.これに対して,ガラスやプラスティックは,強度はかなり高いものの,一気に破壊しがちである.このため圧力容器の材料として使用するときには,10〜20程度の大きな安全率をとることが多い.今回の可視化ベッセルの設計に際しても,最初は周圧10MPaで安全率10を目標にしたが,種々検討した後に無理なことがわかったので,圧力容器以外の一般的な機械類でよく用いられる安全率4以上で全般的な設計をおこなった.試験室のよく管理された状況下での使用を前提にすれば,この程度の安全率で十分と考えたからである.しかしながら,万一破壊した場合,重大な事故がおきてはいけないので,ベッセル自体の破壊試験をおこない,ベッセル自体が破壊しても周囲に及ぼす影響が少ないことを確認することにした.

破壊試験に先立って吟味したところでは,予想される破壊(損傷)モードとして,@アクリル製円筒の破壊,Aアクリル製円筒と上下金属板との間からの油の漏れ,B上の金属板と押し棒との間からの油の漏れ,の3つが考えられる.この内,最も危険であると考えられるのは,@のモードであり,アクリルの破片が飛び散る可能性がある.一方A,Bのモードでの破壊はそれほど危険ではないと考えられる.

破壊試験では,ベッセル内にダミー試験片を置き,試験機で押し棒の変位を固定した上で,手動ポンプで周圧を増加させていった.試験に供したアクリル製円筒は4本であり,そのうち2本は新品で,残りの2本は使用済のものである.ボルトの締め付けトルクは,トルクレンチで管理して30N・mとした.ただし,破壊モードにはボルトの締め付けトルクが影響する可能性があるので,1試験だけ10N・mとした.

アクリル製円筒によく知られた圧肉円筒の式を適用すれば,内側円孔側面で発生する最大引張応力σと周圧pとの関係は次式となる.

  (1)

ここで,r0,riは円筒の外径,内径である.(1)式のσがアクリルの引張強度75MPa(三菱レイヨン,2001)となる時の周圧は59MPaとなる.そこで,新しい2本の円筒を用いて,周圧を計算値59MPaの約10%増しの65MPaまで増加させたが,2本とも破壊に至らなかったし,AやBの油漏れも見受けられなかった.ただし,ベッセルを解体後観察したところ,金属板と円筒間のオーリングは塑性変形していた.したがって,65MPaのような高い圧力ではある程度時間が経過すると,オーリングからの油漏れが生ずる可能性が高いと判断した.

使用済みのアクリル製円筒は,1本の締め付けトルクを30 N・m,もう1本を10 N・mとして試験をおこなったところ,それぞれ計算値に近い58.7 MPaと55.1MPaとで破損した.破損の状況は,2本とも同じであり,図2に示すように内側から外側に向かって平面状の亀裂が入った.この亀裂が入るとともに,油が噴出したが,人体に損傷を与えるような破片の飛散などはなかった.

破壊試験をおこなった結果,使用済みの円筒でも,設計目標であった10MPaの4倍以上の圧力に耐えることがわかった.また,万一破壊したとしても,油の噴出が生じるのみであることがわかった.