鋼繊維補強モルタルの曲げ試験の数値シミュレーション
2.SFRCの構成方程式

2.1 コンプライアンス可変型構成方程式

構成方程式とは,応力と歪の関係であり,よく知られているフックの法則も構成方程式である.応力と歪以外に,時間の項が考慮されて,常微分方程式や偏微分方程式の形になったのが,この分野で(粘弾性を考える上で)もっとも良く見かける構成方程式であろう.粘弾性とは,最初の弾性率から計算される値より大きな歪が生ずることであり,その歪が時間の経過に伴って生じる現象である.この歪の増加分を,方程式でどのように扱うかによって,@永久歪を考えた構成方程式,Aコンプライアンスの変化を考えた構成方程式,さらにはB両者を考えた構成方程式,と3つのタイプに分かれる.著者は,まず@を提案し(山口ら,1984),ついでAを提案し(大久保ら,1987),最後にBを目指した基礎実験に着手した(何ら,1989).著者の考えでは,歪ないし変位が単調に増加する場合には@とAに関して,機能の差は小さいと考えている.ただし繰り返し応力を受ける場合には,@,Aの両方の現象が現れるため,変位が減少する場合をも扱うにはBを用いることが望ましいが,Bは構成方程式中の常数を求めることが難しい.即ち,永久歪とコンプライアンス(剛性)の両者の変化を分離して把握し,その上で常数を設定することは困難であり,この点でBの実用性には未だ難がある.

本稿では,比較的扱い易い,コンプライアンス(剛性)の変化を考えた構成方程式を用いて検討を進める(大久保ら,1987).このコンプライアンス可変型構成方程式は,一軸応力下では次のようになる(大久保,1992).

dλ/dt=aλσ            (1)

λはコンプライアンスで,歪εを応力σで除した値(ε/σ)である.tは時間である.nは時間依存性の程度を決める定数で,定歪速度試験におけるピーク強度の載荷速度依存性や,クリープ試験における寿命の応力依存性を決定する.mはピーク強度以降の応力−歪曲線の傾きを決める定数で,この値が大きいほどピーク強度以降の応力の低下が急激となる.aはピーク強度を決める定数で,この値が大きいほど強度が低下する.

この構成方程式を一軸応力下で解くには,λの初期値λ0と,構成方程式に含まれる3定数n,m,aの値が必要である.なお,各定数の範囲は,既報(大久保,1992)と同じく下記のごとくである.

a>0,∞>m>―∞,n≧1

λ0は,通常,ピーク強度の 50 %の位置で得られる接線ヤング率の逆数でよい.

2.2 構成方程式中の常数の決定

一軸引張応力下での鋼繊維補強モルタルの定歪速度試験から得られた応力−歪曲線の例を図1(a)に示す(福井ら,1996).なお,使用した試験片は吹き付けにより作製したものなので,異方性がある.図1に示したのは,引張方向に鋼繊維が配向している場合のものである.試験片ごとに異なるが,ピーク強度(A点)までの応力−歪曲線はほぼ直線であり,応力約4 MPaにてピーク強度に達する.その後急激に応力が低下するが,ある値(B点)まで応力が低下すると鋼繊維が引張応力を支えはじめる.B点における応力は試験片ごとに若干ばらつくが鋼繊維混入率 1.5 %の場合,約 3 MPaとピーク強度の 80 %程度であった.なお,0 〜1.5 %の範囲で鋼繊維混入率が変わってもピーク強度はあまり変化しないが,B点の応力は鋼繊維混入率によって大きく変化する.

B点は試験片に亀裂が生じた直後の点であり,以降もさらに変位を増すと,この亀裂開口幅が次第に増し,それにつれて応力が低下していく.B点以降の残留強度領域における状況をみるため,横軸の範囲を広げた応力−歪曲線を図1(b)に示す(福井ら,1996).残留強度領域では弾性歪の占める割合が小さいことと,試験片の長さが100 mmであることを考慮して,この時の横軸の%をmmと読み替え,近似的に亀裂開口幅と解釈してよい.

若干の試行錯誤の後,原点からB点までと,それ以降の残留強度領域を区別して構成方程式を求めることにした.まず,B点までは,(1)式のnとmを20として次のようにする.

dλ/dt=aλ20σ20 (2)

nは圧縮応力下での時間依存性(楊ら,1997)を参考にして仮定した概略値である.また,ピーク強度以降B点までの応力−歪曲線の傾きがほぼ垂直であることから,m/n=1とした.B点のコンプライアンスλBは,混入率0,0.5,1.0,1.5%の時,それぞれ初期コンプライアンスの1/0.8, 1/0.6, 1/0.4, 1/0.2倍とした.このようにλBを選ぶと,B点の応力は,混入率0,0.5,1.0,1.5%の時,それぞれピーク強度の0.8,0.6,0.4,0.2倍となり,実験結果とほぼ一致する.

B点以降の残留強度は,歪の増加にともなって徐々に低下していく.応力−歪曲線の中で,ほぼ直線とみなせるこの部分に対応する構成方程式を,Appendix Tの(A5)式〜(A7)式に示す手順によって求めた.

dλ/dt = a σ20{1+C21(λ/λo)20}  (3)

ここで,ピーク強度以降の応力−歪曲線の傾きは,無次元数C21にほぼ比例する.図1に示す実験結果を参照しつつ若干の試行錯誤をした後,混入率0,0.5,1.0,1.5%の時のC21を,それぞれ0.1,0.004,0.006,0.008とした.

B点以降は構成方程式の関数形を変えた.その際,Appendix Uに示すように(3)式中の常数aを設定して,構成方程式を変えたB点の前後で歪,応力,コンプライアンス,ポアソン比の4値が滑らかにつながるようにした.

応力−歪曲線の計算結果を図2に示した.(a)は歪が 0.5 %までの曲線であり,ピーク強度までほぼ直線であり,その後急激に応力が低下する.しかし,残留強度領域における応力の低下は緩やかであることがわかる.(b)は歪 2 %(変位 2 mm)までの曲線である.図1や既報(福井ら,1996)で示した実験結果と比較してみると,計算結果の方が直線に近く,そのため歪の小さい時の応力がやや大きく,歪が大きくなると応力が小さくなる.より複雑な構成方程式を用いれば,より良く実験結果と一致させることが可能と思われるが,今回は(3)式を用いて議論を進めることにする.

2.3 試験片寸法の考慮

図1に一軸引張試験結果を示したが,前にも述べたように,原点からピーク強度までほぼ直線的に応力−歪曲線が立ちあがった後,B点まで応力が低下する.B点からは,亀裂開口幅(ひび割れ幅)がδの巨視的な亀裂が発達していくことになる.B点以降では,弾性変形よりこのδが大きいので,この領域の変位u1は近似的に次のようにあらわされる.

1 = ε11  = δ   (4)

ここに,L1 は試験片長さである.さて,B点以降の変位は亀裂開口幅に支配されるため,異なる長さLの試験片を用いた場合でも,(4)式と同じようにδで近似できる.

u = εL = δ    (5)

(4)式と(5)式よりδを消去して整理すると,次式を得る.

ε = kε1  (6)

ただし,k=L1 /Lである.(6)式より明らかなように,kが小さくなるとB点以降の応力−歪曲線が急になり脆性的になる.逆にkが大きくなるにつれて,B点以降の応力−歪曲線は緩やかに下がるようになる(大久保・福井,1999).言い換えれば,B点以降の応力−変位曲線は試験片長さによって変化しないが,変位を試験片長さで割った歪と応力との関係は見かけ上,試験片長さの影響を受けることとなる.

 (3)式のように,B点以降の応力−歪関係を仮定したとき,B点以降における応力−歪曲線の勾配はC21 にほぼ比例する.よって,(6)式が成り立つとすれば,kに比例するようにC21を選べばよいことになる.

2・4 2次元モデル(ポアソン比と破壊限接近度)

ここまでは一軸引張試験に基づいて,1次元の構成方程式を考えてきた.これを2次元モデルに拡張する際問題となるのが,横歪(ポアソン比)と破壊基準(破壊限接近度)に関する仮定であるので,以下ではこの2点について考えてみる.

 一般に弾性係数は,破壊の進行にともなって変化していく.圧縮応力下では,破壊が進行するとλが次第に増加し,ポアソン比も増大する.数値計算においてはこれを次式であらわすことを既報(大久保ら,1998a)で提案した.

ν=0.5−(0.5−νC0)λ0/λ (7)

ここでは,有限要素法に応用することを念頭に置いて,引張応力下におけるポアソン比について考察してみる.引張応力下ではマクロな亀裂が一部に入り,他の部分はほぼ初期状態を保つと考える.さて,応力σが加わったときの初期状態における横歪はσν0λ0であるが,一部に亀裂が入ったとしても,試験片ないし有限要素法における平均的な横歪σνλは大きく変わらないと考え引張応力下では次式を使用することにした.

ν=ν0λ0/λ (8)

この式ではλが大きくなるに従ってポアソン比は次第に小さくなっていく.

もう一つ問題となるのが,破壊基準である.一軸引張応力下の構成方程式は(1)式であるが,2次元では圧縮応力下と同様に次式で表現できると仮定した.

dλ*/dt*=(λ*(σ*n (9)

記号は圧縮応力下と同様で,λ*=λ0/λは正規化したコンプライアンスであり,正規化した時間t*は次式であらわされる.

*={m/(n+1)}m/(n-m+1) t/t0 (10)     

なおt0は定歪速度試験で歪が(ピーク強度)×λ0に達するまでの時間である.

(9)式中のσ*は,破壊限接近度である.梁の曲げではほぼ一軸応力状態に近いため,(11a)と(11b)で計算される値の内,大きいほうを破壊限接近度とすることにした.

σ1>0(引張破壊)の場合 σ*= σ1/σt (11a)

 σ1<0(圧縮破壊)の場合 σ*= −σ3/σc (11b)

ここにσ1とσ3は主応力であり,σt,σcはそれぞれ一軸引張強度と一軸圧縮強度である.