鋼繊維補強モルタルの曲げ試験の数値シミュレーション
3.2次元FEM

3.1 FEMモデル

既報(大久保ら,1998b)で述べた4点曲げ試験と同じく,試験片寸法 10 cm× 10cm× 40 cmでスパン(支点間距離) 30 cmを想定してモデル化することにした.ただし計算時間を節約するため,計算モデルでは,両端の 5 cmずつを省略し支点間のみをモデル化することにした.よって2次元モデルの寸法は,図3に示すように 10 cm× 30 cmとなる.計算モデルを高さ方向に19分割,長手方向に33分割して約0.52 cm× 0.91 cmの長方形を作り,さらにこの長方形を対角線で2分割した三角形要素を有限要素法の最小単位とした.なお,以下の計算では,一貫して平面応力とした場合の計算結果を示す.念のため平面歪でも計算をおこなったが,ピーク強度と残留強度がわずかに増加するだけで,平面応力と平面歪の間に大きな差はなかった.

境界条件は次のように定めた.載荷点は高さ方向変位速度一定, 支点は高さ方向変位固定とした.なお,載荷点変位速度は毎秒1μmであり,鋼繊維混入率0 %の供試体の場合には約1分でピーク強度に達する.

初期ヤング率 25 GPa,初期ポアソン比0.20,一軸圧縮強度55 MPa,一軸引張強度3.7 MPaとした.これらはまとめて表1に示した.

構成方程式に関しては,nは一貫して一定値20とした.破壊限接近度は,|σ/σt|(引張破壊)と|σ3/σc|(圧縮破壊)の内,大きな方とした.ポアソン比は,圧縮破壊ではこれまで通りν= 0.5−(0.5−νo)(λo/λ)= 0.5{ 1−(λo/λ)}+νo(λo/λ),引張破壊では,ν=νo(λo/λ)とした.

三角形要素の寸法は 0.52 cm(高さ)× 0.91 cm(スパン方向)であり,で考察したようにB点以降における応力−歪曲線の傾きはかなりなだらかになると考えられる.以下では,(6)式中のk=L/L1においてL=0.91 cm,L1=10 cmとした.さらに有限要素法の計算で用いるC21は,k(=1/11)に比例するとして,上記の値を1/11倍した.この点については,考察にて触れる.

3.2 計算結果

図4に,4点曲げ試験で得られた荷重−たわみ曲線の例を示す(大久保ら,1998b).横軸にとったたわみは,スパン中央における値である.実験は,1つの混入率あたり5 〜 6回おこなった.実験結果はかなりばらついたが,図4にはこの内,中庸と思われるものを示した.試験片は,吹き付けによって作製されたものであり,鋼繊維は長手方向に配向しているので,図1に示した鋼繊維が長手方向に配向した一軸引張試験結果を適用するのが適当と判断した.なお,実験に関する詳細は既報(大久保ら,1998b)を参照されたい.

図5(a)に,鋼繊維混入率 0 %の時の計算結果を示す.横軸は,図4と同じくスパン中央における値とした.たわみが 0.05 mmでピーク荷重に達し,その後,荷重は急激に低下する.図には亀裂長さも示した.これは正確にいうと,コンプライアンスがλB以上になった要素の内,最も上部にある要素の梁下面からの距離であり,正確には破壊要素の到達高さというべきかも知れない.図からわかるように,ピーク荷重に達する直前から,亀裂がスパン中央下面より発達する.図4に示した実験結果と比較すると,ピーク荷重以降の荷重−たわみ曲線が急なことがわかる.実験は通常の万能試験機を使用したので,実験結果のピーク強度以降における曲線は試験機剛性である疑いが強いと考える.

図5(b)に,鋼繊維混入率 0.5 %の時の計算結果を示す.荷重は最初鋼繊維混入率が0 %の時と同様に上昇していくが,たわみが 0.05 mm付近で亀裂が梁の高さの半分程度の5 cmまで急激に入り一旦荷重が低下する.その後,荷重は少しずつ上昇し,たわみが 0.1 mm程度でピーク荷重に達する.このときの亀裂長さは,梁の高さの 80 %ほどの 8 cmである.その後,たわみが 0.5 mm程度になると亀裂は梁高さの 95 %以上に達する.鋼繊維が含まれていない場合と顕著に異なるのは,その後もかなりの荷重が残ることである.このような傾向は,図4に示した実験結果でも見受けられた.

図5(c)に,鋼繊維混入率 1.0 %の時の計算結果を示す.鋼繊維混入率が 0.5 %の時と比べてより強度が増すとともに,たわみが 0.3 〜 0.8 mmの間の荷重がほぼ一定であることがわかる.図5(d)に示したのは,鋼繊維混入率が 1.5 %の時の結果であるが,強度がより高くなっていること,また亀裂の進展がより遅れることがわかる.

図6に曲げ強度の実験結果と計算結果を示した.なお,実験結果は5 〜 6回の試験の平均値である.これからわかるように,曲げ強度は,計算結果の方がわずかずつ大きいが,定性的な傾向は実験結果とかなり良く一致しているといえよう.

次ぎに,次式で定義される曲げタフネス係数δb[MPa]を図7に示した(鋼材倶楽部,1995).曲げタフネス係数は(12)式からわかるように,靱性を評価する係数として,鋼繊維補強モルタルではよく用いる係数である.

δb=150 Tb / (bh)  (12)   

ここに,Tb[MN]はたわみがスパンの1/150となるまでに要するエネルギー,b[m]とh[m]は,梁の幅と高さである.Tbは載荷点におけるたわみがスパンの1/150(2 mm)となるまでの荷重−たわみ曲線下部の積分値を用いるのが最も望ましいが,スパン中央のたわみが 2 mmとなるまでの荷重−たわみ曲線下部の積分値を用いることも次善の手段として可能とされている(鋼材倶楽部,1995).実験では,載荷点の変位は測定しておらず,スパン中央のたわみを測定しているので,実験値は後者のみとなる.なお,この場合も,実験結果は5 〜 6回の試験の平均値である.計算結果は,載荷点のたわみを使用した時の値と,スパン中央のたわみを使用した時の値との両方を示した.図よりわかるように,スパン中央のたわみを利用した時の値の方が大きいが,これは同時点で比べるとスパン中央たわみの方が,載荷点のたわみより大きく,荷重が下がりきらない部分を積分しているからである.図7からわかるように,計算結果と実験結果との傾向はある程度一致しているといえる.