鋼繊維補強モルタルの曲げ試験の数値シミュレーション
4.考察とまとめ

本研究では鋼繊維補強モルタルの引張応力下における構成方程式と,その応用として4点曲げ試験の有限要素法による数値実験をおこなった.引張応力下における脆性材料の挙動は,実験が困難なため充分な検討が加えられてきたとはいえない.鋼繊維補強モルタルも例外ではないが,最近著者がおこなった一軸引張試験結果(福井ら,1996)を基礎にし,鋼繊維補強モルタル用に引張応力下でのコンプライアンス可変型構成方程式を開発した.開発にあたって問題となったのは下記の点である.

まず,図1のように,ピーク強度を越えた後,B点まで急激に応力が低下するが,残留強度領域における応力の低下は小さい.検討の結果,B点までとそれ以降を分けて別々の構成方程式とすることにした.B点までの構成方程式のパラメータを求める手順は,従来の圧縮応力におけるそれと大きく変わるものではなかった.しかしながら,ピーク強度以降の応力−歪曲線を近似することが困難であったので,新たにAppendix Tに示した方法を開発した.

次に問題となったのが,構成方程式を切り替えるときの応力,歪,コンプライアンス,ポアソン比の連続性であった.できる限り滑らかに接続するのが妥当と考えてAppendix Uに示した方法を提案した.この方法を採用すると,上記4つの値およびそれらの時間に関する微分値も連続する.ただし,種々の考え方や可能性があり,今後の検討が必要と考えている.

長さ 10 cmの試験片を用いて一軸引張試験をおこない,その応力−歪曲線にだいたいあてはまるように構成方程式中の常数を定めた.例えば,鋼繊維混入率が 0.5 %のときの(12)式中のC21は0.004であった.このC21は,ピーク強度以降の応力−歪曲線の傾きに大体比例する.C21を0.004としたときの4点曲げ試験の荷重−たわみ曲線の計算結果を図8に示すが,これよりわかるように,ピーク強度を越えた後,急激に荷重が低下してゆき図4に示した実験結果とは大幅に異なる.これは,既に2.3で述べたように,亀裂が局所的に集中しているので,要素長さが小さい場合にはこれを考慮して補正をしなければならないためである.単純に考えれば,ピーク強度以降の応力−歪曲線の傾きをk=L1/L倍すれば良さそうであるが,これを確かめるためにkを1/2, 1/4, 1/8, 1/16とした結果を図8に示した.これからわかるように,kが小さくなりピーク強度以降の応力−歪曲線の傾きが緩やかになるにつれて,荷重−たわみ曲線のピーク荷重以降の傾きも小さくなっていく.この結果と実験結果を見比べるとkが1/8と1/16の間とするのが良さそうである.また,横軸に1/kをとった時の曲げタフネス係数を図9に示す.実験におけるタフネス係数は3.54 MPaであり,これからみてもkが1/8と1/16の間とするのが良さそうである.他の混入率の時についても同様な検討をしたところもほぼ結果は同じであり,kをどの位にすれば良いかは特定できないが,だいたい上記の範囲であることはわかった.そこで,Lとして要素の長手方向の長さ 0.91 cmとして計算したk=1/11を一貫して用いることにした.ただし,この値には任意性があり,さらにデータを積み重ねて適切な計算方法を検討する必要があると思われる.

有限要素法に拡張するにあたって,ポアソン比をどのように仮定するかが問題であった.理論的な考察より(8)式を仮定した.この仮定は,巨視的な亀裂が支配的である場合には良い精度で成り立つと思われるが,それまでの過渡的な状態で適当かどうかは不明である.今後実験的に確かめる必要があるが,簡単ではないと考える.

有限要素法による計算結果をみると,荷重−たわみ曲線はある程度再現でき,したがって曲げ強度や曲げタフネス係数も実験結果とかなり良く一致した.その意味では,本稿で提案した引張応力下での構成方程式と,それを応用した有限要素法の計算結果は,妥当であったと考えている.ただし,曲げ試験に関する基礎データが不足しており,今後より精度を高めた計算法を開発するには,新たな実験を行う必要があると感じた.

本研究を通じて,あらためて引張応力下における実験結果は不足していることは痛感した.例えば,@載荷速度を変えた一軸引張試験,A試験片の寸法を変えた一軸引張試験,などを今後行う必要があると感じた.本稿で示した,1次元構成方程式は,定性的には実験で得られた応力−歪曲線を再現するが,時間依存性をあらわす常数nなどについては今後の実験により訂正する必要があるかもしれない.