鋼繊維補強モルタルの曲げ試験の数値シミュレーション
Appendix T 実験より求めた応力−歪曲線に計算結果を一致させる方法

定歪速度試験より求められた応力−歪曲線と,構成方程式を用いて計算した応力−歪曲線とが一致するように,構成方程式の関数形とパラメータの値を求めることを検討してみる.コンプライアンス可変型構成方程式の場合,定歪速度における応力−歪曲線を解析的に取り扱うことは困難であり,実験結果と一致するように構成方程式の関数形とパラメータの値を求めるのは数値計算によることが多かった.しかしながら,現象の非線形性が高いので,数値計算によりこれらを求めることは時間がかかるし手順も面倒である.そこで,条件を限りかつ多少の誤差を許すことにして,解析的に構成方程式の関数形とパラメータを求めることにした.このようにして求めた構成方程式を使用して定歪速度における応力−歪曲線を計算し,それが実験結果とよく一致していれば以降の議論でもそれをそのまま使用すればよいし,さらなる一致が必要なときには求めた構成方程式を初期値として,従来通りの手順で数値計算による構成方程式の精密化を図ればよい.

定歪速度における応力−歪曲線と,コンプライアンス変化速度一定での応力−歪曲線は,条件(例えば適用できる歪の範囲)を限ればほぼ一致する.この性質を利用して,解析が容易なコンプライアンス変化速度一定での応力−歪曲線と,実験結果とが一致するように構成方程式中の関数形とパラメータの値を求める.コンプライアンス可変型構成方程式は次ぎのように書ける.

dλ/dt= a・σf(λ) (A1)

ここでcλを,定まったコンプライアンス変化速度とすれば,コンプライアンス変化速度一定条件下での応力−歪曲線は次のように書ける.

λ = a・σf(λ) = a・σf(ε/σ) (A2)あるいは,

1/σ =(a/cλ)f(ε/σ) (A2')

よって,応力−歪曲線が実験結果と一致するようにf(ε/σ)を求めれば,コンプライアンス変化一定速度の条件下では実験結果を再現し,定歪速度の条件下では実験結果をある程度再現する構成方程式の関数形とパラメータの値が求まることになる.なお,f(ε/σ)を求める手法は既存の数値計算法により可能である.

歪速度に注目して,上記の手順で求めた構成方程式の適用範囲について吟味をする.ε=λσなので,これを時間tで微分すると次式を得る.

dε/dt=λ・dσ/dt+σ・dλ/dt=λ・dσ/dt+cλσ (A3)

ピーク強度以降に焦点を絞ることにして,ピーク強度以降の応力−歪曲線の傾きを−βとすれば,dσ/dt=−βdε/dtである.これを(A3)式に代入して整理すると次式となる.

dε/dt=cλσ/(1+λβ) (A4)

ピーク強度以降σは減少し,λは増大するので,σ/(1+λβ)は次第に小さくなっていく.したがって,応力−歪曲線の全域に亘ってdε/dtとcλが比例すると考えることは出来ない.たとえばピーク強度付近では,σ=σt,λ=λ0,β=0としよう.その後,歪が増して応力が低下し,σ=σt/3,λ=3λ0,β=−1/λ0になったとしよう.これらを(A4)式に代入すれば,ピーク強度ではdε/dt=cλσtであり,応力がピーク強度の1/3となったときはdε/dt=cλσt/12となる.定歪速度試験で,ある歪に達した時の応力は(dε/dt)1/nに比例するので,dε/dtが1/12倍となった時の応力は,n = 20とすれば0.0883倍となる.よって,範囲をσ=σt〜σt/3に限定すれば,コンプライアンス変化速度一定と定歪速度試験における応力の差が高々 12 %で収まる.適用範囲と誤差に関する同様の議論は,ピーク強度σtを出発点としたときに限らず,ピーク強度以降の任意の応力を出発点としたときにも成り立つ.ある程度の注意は必要であるが,このようにコンプライアンス変化速度一定と定歪速度での応力−歪曲線は,応力(場合によっては歪)でその適用範囲を限ればかなり良く一致する.これは,(A1)式のnは通常のモルタルや岩石では数10と大きく,そのため歪速度が多少変化しても応力の変化は小さいためである.したがって,nが小さい物質に対しては,適用範囲が狭くなるか,あるいは誤差が大きくなる.

例としてピーク強度以降の応力・歪曲線が次式であらわされる直線となる場合を考える.

σ=1−100ε (A5)

ε=λσを代入して整理すると次式となる.

σ=1−100λσ あるいは σ =1/(1+100λ) (A6)

これを(A2)式に代入すると次式を得る.

(a/cλ)f(λ) =1/σ =(1+100λ) (A7)

この手順にしたがってf(λ)を定めたときの結果の一例が図2である.