土丹の力学的特性と構成方程式
2.実験

2−1 土丹試料<>/a

試料岩石として用いた土丹は,2000年8月下旬に,横浜市内で採取した.採取地点の土被りは約50 mであり,切り出した岩石ブロックの寸法は20×20×45 cmであった.岩石ブロックは濃灰色でやや緑色を帯びており,表面全体が濡れていたので,採取後直ちに濡れた布で包み,さらにビニール袋に入れて密封した.ブロックの方向性は不明瞭であったので,方向性を考慮しないでボーリングした.ボーリングしたコアより,直径25 mmの円柱形試験片を作成した.試験片は自然含水状態を維持するために,湿った布に包んだ後さらにビニール袋に入れて保存し,試験直前にビニール袋から取り出して試験に供した.表−1に,実施した試験,試験条件,試験片寸法,試験片個数,実施時期などを示す.また,表−2に比重などの物性値をまとめた.

2−2 一軸引張試験

一軸引張試験には,著者らが設計した10 kNサーボ制御式試験機を使用した.試験方法は既に発表済みであるので1)図−1(a)を参照しながらごく簡単に手順のみ述べることにする.

@エポキシ系接着剤を試験片端面と上下プラテン(載荷板)に塗る.接着剤は,トイレや浴槽のタイル貼りに用いる市販品である.
A試験片を上下プラテン間に挿入する.
B試験片に50 Nの圧縮力を加えたまま,接着剤が乾くまで待つ.なお,試験片が乾燥しないように,濡れたガーゼで試験片を包み,さらにビニール袋で覆った.
C一軸引張試験を実施する.

図−1(b)に試験後の試験片の写真を示すが,この例では試験片のほぼ中央で破断した.破断面には多少の凹凸が見られるが,比較的滑らかであった.注目すべきは,最終的な破断面の上下に,これと平行な亀裂が何本か観察できることである.これは現在の破壊力学の知識では説明し難いことであり,マクロな破断面ができる過程がかなり複雑であることをうかがわせるものである.

図−2には,一軸引張試験で得られた3本の応力−歪曲線を示す.なお,上下プラテン間の変位を差動変圧器で測定し,これから横軸の歪を計算した.ピーク強度は平均して約0.3 MPaであり,その時の歪は600μst(600×10−6)前後である.ピーク強度を過ぎた後,応力は急激に低下するが,ピーク強度の30 〜 50 %程度になると極めて徐々にしか下がらなくなる.比較的強度の低い岩石の圧縮試験では,同様な残留強度が観察されることがあるが,一軸引張試験でこのように大きな残留強度の存在がこれまでに指摘されたことを著者らは知らない.歪が2000μstに達したときの値は,最も大きいものでは0.18 MPa,最も小さいものでも0.09 MPaであった.これを平方メートル当たりに換算すると,18 t / mと9 t / mとなる.

2−3 圧裂引張試験

10 kN万能試験機(ねじ式)を用いて,載荷点変位速度5 μm / sにて圧裂引張試験をおこなった.20個の試験片の平均を求めてみると0.65 MPaとなり,先に述べた一軸引張強度の約2倍となった.従来の研究でも,圧裂引張試験と一軸引張試験の結果には,若干の相違がみられることがあるが2),このように大きな相違はめずらしい.相違の原因として,@プラテンとの接触部が圧縮破壊する.Aプラテンとの接触部が塑性変形して面接触となる.B残留強度の影響,が考えられる.@とAは,一軸圧縮強度と一軸引張強度の比である脆性度が小さい場合に生じるが,表−2からわかるように土丹の脆性度は13.8と10を越えており,@とAの影響は比較的小さいと考えられる.また,試験後の試験片を観察したところでも,プラテンとの接触部や破断面において特別に変わった状況はみられなかった.

Bについて少し補足説明をしてみよう.円柱試験片を直径方向に圧縮すると,円柱の中心軸で引張応力が最大となり,中心軸から離れるに従って応力が低下する2).もし,ピーク強度に達した後,載荷能力が急激に低下するとしたら,中心部で発生した亀裂がただちにマクロな亀裂に発展する可能性が高い.この場合には,一軸引張強度と圧裂引張強度との差は少ないと予想される.一方,土丹のように残留強度が残る場合には,中心部がピーク強度に達したとしても直ちにマクロな破壊に結びつかず,一軸引張強度より圧裂引張強度が大きくなる可能性が高い.ここで述べた,両強度の相違に関する議論は,長い間続けられている難しい問題であり,定量的な議論は計算機シミュレーションなどを加えた別稿で披露する予定である.

2−4 一軸圧縮試験

1500 kNサーボ制御式試験機を用いて一軸圧縮試験をおこなった.まず,もっとも実施が容易でまた経験も多い,定歪速度100μst / sでの試験を3回おこなった.試験は順調であり,図−3に示すようにピーク強度以降の応力−歪曲線も問題なく得られた.

さて,最近盛んになってきた計算機シミュレーションをおこなうためには,いくつかの情報が必要であるが.著者らの考えでは,@弾性定数2つ(例えばヤング率とポアソン比),A強度,B脆性的か延性的(ピーク強度を過ぎた後,急激に応力が低下するかどうか),C時間依存性の程度(クリープ挙動を見込まなければならないかどうか)が必要な情報としてあげられる.@とAは,これまでの試験から容易に計算できる.また,Bはピーク強度以降も含めた応力と歪の関係(完全応力−歪曲線)を得たので,充分な情報といえる.問題は残るCに関する情報をどのようにして得るかである.

岩石の時間依存性に関する検討は,今後の地下空間の開発において,次第に重要性を増すものと予想している.これまでの時間依存性挙動に関する情報の求め方は主として二つある.一つは,載荷速度を4段階程度に変えて強度試験をおこなうと,載荷速度が速いほど強度が増加することを利用する.増加の程度は,岩石ごとにことなり,その程度が大きいほど時間依存性の強い岩石といえる.もう一つよくおこなわれる方法は,載荷荷重を数段階に選んでクリープ試験をおこない,破壊するまでの寿命(時間)の差異から,その岩石の時間依存性を求めるものである.なお,載荷速度依存性から求めた情報と,クリープ試験からもとめた情報との間には互換性のあることはわかっており3),両者とも充分な試験片の個数と時間があるときには好適な手段といえる.しかしながら,一軸圧縮試験片は5本しか用意できず,しかも既に通常の試験で3本を消費してしまったので,残り2本でおこなえる試験方法を考え出す必要があった.

そこで,図−4に示すように,まず,定歪速度100μst / sで試験を開始し,次に定歪速度10μst / sに下げる.下げた歪速度で,過渡応答がおさまってほぼ落ち着いたら再度歪速度を100μst / sにあげて,この歪速度で落ち着くまで待つ.このように歪速度を上下させて得られたのが図−4に示した応力−歪曲線である.この試験の詳しい検討はこれからの問題であるが,載荷速度(歪速度)の上下によって明瞭に応力が変化しており,これは,岩石のもつ載荷速度依存性を示すものと考えた.図に示す二つの破線は,それぞれ100μst / sと10μst / sで落ち着いたときの曲線を繋いだものであり,これらを,100μst / sと10μst / sで得られた応力−歪曲線とみなしてデータの整理を試みることにした.

充分な試験片の数が確保できなかったことと,温度および湿度を長期間にわたって保てる試験室を確保できなかったことからクリープ試験はおこなわなかった.ただし,クリープ試験における挙動が,これまでに他岩石で経験したものと異なるかどうかをみるため,試験片1本だけではあるが一軸圧縮応力下で多段階クリープ試験をおこなった.試験では,まずクリープ応力1 MPaとして1時間試験をおこない,次に1 MPaだけクリープ応力を増して1時間クリープ試験を行ない,その後クリープ応力をさらにあげて3 MPaとした.その結果得られた結果を図−5に示す.なお,図−5の横軸は時間の対数であり,時間はそのクリープ応力に設定した直後を原点とした.また,縦軸は過渡応答がほぼおさまる経過時間1秒後における歪を原点として描いた.図よりわかるように,クリープ応力が3 MPaまでのクリープ応力曲線はわずかに下に凸ではあるが,経過時間の対数にほぼ比例して増加する.載荷後しばらくの間,歪が経過時間の対数にほぼ比例する傾向は,これまでデータを収集してきた殆どの岩石において成り立つことであり,この点からすれば,土丹もごく通常のクリープ挙動を示したといえる.

クリープ応力を4 MPaとしたところ,約3000秒経過後に破壊した.クリープ歪と残存寿命(破壊するまでに残された時間)の関係を図−6に示すが,これまでにおこなってきた岩石の場合と同様に,クリープ歪と残存寿命の対数とは,最初と最後を除いて直線関係が見られた.この直線となる範囲においては,クリープ歪速度と残存寿命とは反比例する.

以上で述べた多段階クリープ試験の結果からすると,土丹の示すクリープ特性は,これまで著者らが主としておこなってきた硬岩のクリープ特性4)と定性的に一致していることがわかった.

2−5 三軸圧縮試験

500 kNサーボ制御式試験機を用いて,周圧2,4,8 MPaで三軸圧縮試験をおこなった.その際,図−7に示す著者らが開発した可視化ベッセルを使用した.これは外周部が透明なアクリル製であり,内部の試験片が変形していく様子がわかるものである.

図−8に応力−歪曲線を示すが,ピーク強度に達した後も応力の低下は極めて少ないことがわかる.また,差応力であらわしたピーク強度の平均値は,周圧によってほとんど変化しなかった.試験片の変形状況を観察したところ,9本中の6本が図−9(a)に示すように,交差するすべり線が観察される付近が横に膨らんだ形となった.残る3本は,周圧2,4,8 MPaでそれぞれ1本ずつ観察され,図−9(b)に示すように1本の明瞭なせん断面が形成されていた.