岩石の一軸引張試験のシミュレーション
3.亀裂進展の構成方程式による検討

(1)構成方程式とシミュレーションプログラム

大久保ら4)は,亀裂の進展長が小さい間に応力拡大係数は急速に増加し,亀裂が大きくなると応力拡大係数の増加率が小さくなることと,応力拡大係数が載荷速度に影響されることを考慮して,次式を提案している.

Δda/dt=Kn/A(Δa)   (2)

  (3)

ただし,Δaは亀裂の伸び,m,n,c1,c2は定数である.

シミュレーションには亀裂が試験片の中央に一つだけ存在する試験片モデルと,試験片の片側に一つだけ存在する試験片モデルを用いた.また,シミュレーションを行うにあたり,以下のような仮定をした.

@ 亀裂は試験片中に一つだけ存在し,その方向は荷重方向に対して直交している.
A 二次元平面歪状態である.
B 長手方向無限遠方において一様な引張応力が作用している.
C 試験片の材質は均質な線形弾性体である.

亀裂が中央にある場合,亀裂先端の応力拡大係数は線形破壊力学5)によると次のようになる.

  (4)

2a/W=ζとおくと

F(ζ)=  (5)

ただし、Wは試験片の幅、σは無限遠方での一様応力、 aは亀裂長である。また、クラックが中央にある場合、亀裂が進展することによるコンプライアンスの変化は、線形破壊力学によると次式で表される。

  (6)

ただし,E'=E/(1−ν)であり,E,νはそれぞれヤング率,ポアソン比であり,Bは試験片の厚みである.(2)式から(6)式までを順次繰り返し計算すれば,一軸引張試験中の除荷コンプライアンスを求めることができる.

今回のシミュレーションは実験と同様に,2章で述べた応力帰還制御を用いてシミュレーションを行ったが,中央に亀裂があるモデルについては強度破壊点以降で応力がある程度小さくなると亀裂進展速度が非常に大きくなる.そこで,中央に亀裂がある場合は,亀裂進展速度を一定にしたシミュレーションも行った.また,初期亀裂長を0.05mm,0.1mm,0.5mm,1mm,5mm,10mmの6段階に変化させた.

(2)応力−歪曲線

シミュレーションから得た応力−歪曲線を図4(a)〜(c)に示す.ただし,応力−歪曲線の形状だけを評価するために,歪εは強度破壊点の歪εtで,応力σは強度σtで規格化してある.図には2章の実験結果も同時に示した.シミュレーションでは弾性体を仮定しているので,実験結果の歪には弾性歪ε1を用いた.(a)は中央に亀裂があるモデルで応力帰還制御を用いた結果,(b)は中央に亀裂があるモデルで亀裂進展速度を一定にした結果,(c)は片側に亀裂があるモデルで応力帰還制御を用いた結果である.どの図においても内側の曲線から外側の曲線に向かって,初期亀裂長が0.05mmから10mmのシミュレーション結果である.

初期亀裂長が小さいものほど応力−歪曲線は脆性的になり,大きいものほど延性的になる.どのシミュレーションにおいても強度破壊点以前では,初期亀裂長が1mmと5mmの曲線の間を通る.強度破壊点以降については,どのシミュレーションにおいても歪が減少するという点では実験結果と一致しているが,減少の度合いは異なる.

今回のシミュレーションでは,載荷開始から強度破壊点を過ぎてある程度応力が低下するまでは,実験による応力−歪曲線を大まかには再現できた.しかし,特に強度破壊点以降については,実験結果とよく一致する応力−歪曲線は得られなかった.二次元平面歪状態であることや,試験片が線形弾性体であること,あるいは無限遠方での一様応力などを仮定したことが影響していると考えられる.

(3)除荷コンプライアンスの検討

シミュレーションから得た応力と除荷コンプライアンスの逆数の関係を図5(a)〜(c)に示す.ただし,応力とλ-1の関係を表す曲線の形状だけを評価するために,応力σは強度σtで,λ-1は強度破壊点の除荷コンプライアンスをλtとしてλt-1で規格化してある.図には2章の実験結果も同時に示した.(a)は中央に亀裂があるモデルで応力帰還制御を用いた結果,(b)は中央に亀裂があるモデルで亀裂進展速度を一定にした結果,(c)は片側に亀裂があるモデルで応力帰還制御を用いた結果である.どの図においても内側の曲線から外側の曲線に向かって,初期亀裂長が0.05mmから10mmのシミュレーション結果である.

どのシミュレーション結果においても強度破壊点以前では,初期亀裂長が1mm以下の場合,λ-1はほとんど変化しない.実験結果では強度破壊点におけるλ-1は初期の70〜80%であり,初期亀裂長が5mm又は10mmのシミュレーション結果が実験結果に近い.他方,強度破壊点以降では,初期亀裂長が小さいものの方が実験結果に近い.

強度破壊点以前では初期亀裂長が5mmあるいは10mmの結果が実験結果に近いとの結果を得た.直径25mmの試験片中に初期の状態で5mm以上の亀裂が存在しているとは考えにくいかもしれないが,等価的にこの程度の大きさの弱部が存在する可能性はある.次に,別の説明を試みる.現実の試験片には微小亀裂が無数に存在するはずである.実験結果においてλ-1が初期 の80%程度になるのは,多数亀裂の進展のためとも考えられる.

強度破壊点以降は大局的に見れば実験結果とよく一致していると言える.これは,最終的に破断面を形成する一つの亀裂が,強度破壊点以降の挙動を支配するためと考えられる.また強度破壊点以降では,片側に亀裂がある場合のシミュレーション結果は特に実験結果とよく一致していた.このことから,実際の試験においても試験片の端から亀裂が進展していく場合が多いのではないかと考えられる.