岩石の三次クリープと寿命の予測
1.はじめに

岩盤の長期安定性を評価するために,岩石のクリープ特性に関する研究は数多く行われている.歪み速度が減少する一次クリープでは,経過時間の対数に比例して歪みが増加し,やがて歪み速度が一定となる二次クリープを迎える.その後,歪み速度は次第に増加する三次クリープとなり,最終的に破壊が生じる.

著者らは,三次クリープが破壊現象と密接に関係しているとの観点から,三次クリープを中心に研究を行ってきた.本報告では,まず自然乾燥状態でかつ一軸圧縮荷重下での岩石のクリープ特性についての概略を述べ,その後,破壊寿命の予測について述べる.


2.クリープ特性

2.1 クリープ歪みの経時変化(福井他,1989a)

一次クリープでは,クリープ歪みεは経過時間tの対数に比例する.

ε=−a・log(t)           (1)

他方,三次クリープでは,クリープ歪みは残存寿命T(T=tF−t)の対数に比例する.ただし,tFは寿命である.クリープ歪みと残存寿命の例を図1に示す.この関係は次式で表される.

ε=−a・log(tF−t)+b      (2)

(1)式を時間で微分すると次式が得られる.

(tF−t)・(dε/dt)=C   (3)

2.2 応力−歪曲線との関係(福井他,1989a)

図2はクリープ歪み速度とクリープ歪みの関係を片対数グラフ上に示したものである.一次クリープではクリープ歪の増大によりクリープ歪速度の対数はほぼ直線的に減少し,ある点で最小となり,三次クリープでは逆にクリープ歪速度は増大する.このことは(1),(2)式を変形することによっても得られる.図2にはクリープ応力を変化させた場合も示しており,クリープ応力が小さくなると,最小クリープ歪速度となるクリープ歪が若干大きくなる.

図3にクリープ歪速度が最小となる時の応力と歪の位置を,応力−歪線図上に▲で示す.図中の破線は強度破壊点からの除荷曲線である.最小クリープ歪速度となる点は,破線で示した強度破壊点からの除荷曲線上にならぶ.

また図3にはクリープ破壊1s前の応力と歪の位置も■で示しているが,ほぼ強度破壊点以降の応力−歪曲線上にならぶ.

2.3 クリープ応力とクリープ寿命の関係

三城目安山岩の一軸圧縮強度とクリープ応力の差と対数表示したクリープ寿命の関係を図4(大久保・秋,1989)に示す.大久保・秋(1989)では,一軸圧縮試験の載荷速度依存性とクリープ試験の応力依存性の関係について簡単な仮定のもとで,次式を導いている.

= exp{δ(σF−σC)}/(C'・δ) (4)

ただし,σFは載荷速度C'の時の一軸圧縮強度,σCはクリープ応力である.図には載荷速度依存性より求めたδを用いて(4)式より推定したクリープ応力とクリープ寿命の関係も示した.多少,(4)式の推定値の方がクリープ寿命を過小評価しているが,かなり近い値である.クリープ試験より,図4の関係を求めることは非常に長期の実験が必要となる.しかし(4)式を用いた推定は載荷速度依存性を調べるだけでよく,2,3日程度の試験によりδを求めれば,クリープ応力とクリープ寿命の関係が定まる.

2.4 クリープに影響を与える条件

○水分の影響(福井他,1989b)

岩盤は湿潤状態にあることが一般的である.そこで,完全湿潤状態でクリープ試験を行った結果,クリープ特性はほとんど変化しないことがわかった.図4には湿潤状態の場合の試験結果も示しているが,両者の差は見受けられない.三城目安山岩を用いた場合,完全湿潤状態では自然乾燥状態に比べ一軸圧縮強度は30%程度低下しているにもかかわらず,クリープに関しては強度の絶対値の変化で整理できる.

○側圧の影響(趙他,1995)

三城目安山岩を用いた趙他(1995)の結果では,側圧が大きくなるとクリープ歪が大きくなる傾向は存在するが,図4および(3)式は成立している.

○変形により応力が変化する場合(福井他,1992)

実際の鉱柱などでは,その変形に伴い荷重の解放が生じ,荷重も変位も変化する.簡単な例として,クリープ状態にある鉱柱に弾性体の支保を施したとすると,鉱柱の変形に伴い,荷重が支保に移行し,鉱柱の荷重が減少する.鉱柱は,クリープと応力緩和の中間的な変形が生じる.このように実際の岩盤では,時間の経過とともに応力も歪も変化している場合がむしろ普通であると考えられる.そこで,次式で示されるような条件下で時間依存性試験を行った.

Δσ=γ・k・Δε           (6)

ただし,Δσ,Δε,γ,kはそれぞれ応力の増加量,歪の増加量,変形方向を決定する定数,岩石の剛性である.その結果はクリープ試験と似ており,クリープと応力緩和の中間的な変形でも供試体が破壊する場合が存在し,(2)および(3)式が成立した.


3.クリープ寿命の予測

岩盤内構造物を構築する場合に,次の2つの異なった段階でのクリープ寿命の予測が要求される.まず第一は岩盤内構造物の設計段階である.この際,得ることができるのは,供試体での一軸圧縮強度,クリープ特性などの岩盤物性および地圧などの境界条件であるが,物性および境界条件は正確なものではなく,かなりの不確定要因を含んでいる.第二は実際に構造物を施工した後の安定性評価段階である.この場合には実際に作用している応力下での岩盤の変形性を計測することができる.

3.1 構造物の設計段階

岩盤を弾性体として計算し作用する応力を求め,クリープの影響として破壊応力の何%かを削減し,数値計算結果に対して破壊するかどうかを判定する場合が多い.

この設計段階で指針となるのは,図4のクリープ寿命とクリープ応力の関係である.実際に作用する側圧下で強度の載荷速度依存性を調べることにより図4の関係を得ることができる.そこで,その構造物の耐用年数を決定すれば,クリープに対する強度の低減量を決定することができる.

この場合,問題となるのは図4はあくまでも平均寿命であり,強度のばらつきに起因した寿命のばらつきが3桁程度も存在する点である.安全性を考慮した場合には,図4より2桁程度寿命が短いとして設計することが必要であろう.

3.2 計測段階

岩盤が三次クリープである場合には,(3)式を用いれば残存寿命を推定することができる.

岩盤内構造物に作用する荷重の作用開始時点を特定することは,ほとんど不可能である.たとえば鉱柱の場合には採掘が付近で行われている間は,鉱柱に作用する荷重は変化し続ける.よって(2)式ではクリープ寿命の推定は難しい.(3)式の有用性はクリープ歪速度というその時点の変形性のみにより,クリープ寿命が推定できる点である.

(3)式を用いて寿命を推定する方法を以下に示す.クリープ歪速度が増大している区間において(減少している区間のデータは除く),計測したクリープ歪速度と時間を(3)式に代入し,残差二乗和が最小となるようにクリープ寿命と定数Cを決定する.この場合には計測時間が長いほど誤差は減少する傾向にあり,できるだけ長期計測をすることにより,より正確な寿命の予測が可能である.図5に供試体で行ったクリープ試験結果より求めた推定寿命と実際の寿命の関係を示す.かなりの精度で一致していることがわかる.推定誤差などの詳細は文献(大久保・西松,1992)を参照されたい.

ここで注意しなければならないのは,(3)式は三次クリープで成立するという点である.クリープ歪速度が増大している場合にしか定数Cとクリープ寿命の推定はできない.6種類の岩石に関して実験した結果,(3)式の定数Cは1.7〜10.4×10−5の範囲であった(福井他,1989).Cの値は5×10−5と既知であるとし,クリープ歪速度を(3)式に代入すれば,残存寿命の推定範囲は真値の1/3〜3程度である.このように定数Cを既知としてしまえば,三次クリープでなくとも,クリープ寿命の最低限度について把握することができる.一回の計測でクリープ寿命の最低限を決定することができるということは,安全性をはっきりさせる上で重要である.


4.原位置での変位測定

川上ら(1996)は,レーザ変位計によって切羽の変位挙動を4つのトンネルで計測した.図7に,掘削終了時からの経過時間と変位速度の関係を示す.A,B,Cトンネルでは経過時間の対数に比例して,変位速度は減少しており,一次クリープと同様の関係が見られる.他方,Dトンネルでは変位速度が1.5×10s程度で最小となり,その後,変位速度は次第に増加していき,切羽の中央部で破壊が生じた.図8に変位速度と残存寿命の関係を示す.図では,三次クリープと同様に(3)式が成立している.この関係から切羽の破壊時刻も(3)式より求めることができる.

ここでの測定は,作用している荷重に対して,鉛直の方向の変位を測定しているので,室内試験では側方向の変位を測定していることを意味する.三次クリープでの側方向の歪みを測定したSingh(1975)の報告では,軸方向と側方向の定性的な特性は比較的似ており,側方向の歪みが軸方向の歪みの4倍程度となっている.図8の結果を側歪みにすることはできないので,代表寸法として切羽高さ5mを取り,これで割った値を仮に側方向の歪みとする.例えば,破壊の100s前での側方向の歪みは,2×10−4−1となる.著者らが行った一軸圧縮クリープでの破壊100s前の軸歪み速度は10−6〜10−7s−1程度であり,側方向の変位であることを考えても,Dトンネルでの変位速度はかなり速いことがわかる.この理由としてはいくつか考えられるが,切羽の破壊が局所的に生じており,測定点がその破壊が生じた領域のほぼ中央で測定したため,全体として見た場合の変位速度に比べて大きくなったことがあげられる.


5.おわりに

岩石の三次クリープ特性および,その特性を利用したクリープ寿命の推定について述べてきた.  (3)式は,一軸引張クリープ(秋他,1995),斜面崩壊(斉藤,1981)に関しても成立しており,かなり広範囲の条件下でも成立している.過去の履歴を把握することができなくても,現在の状態によりクリープ寿命が推定できる点で,(3)式は実用上,有用な式である.斜面崩壊の場合(斉藤,1981),(3)式の定数Cの値が岩石の数十〜百倍程度であり,比較的容易に測定することが可能であるため,実際に応用された例も存在する.計測装置の発達により,微小な変位速度を測定することが可能となってきており,(3)式に基づいた岩盤内構造物の寿命の推定が可能となってきている.


参考文献

大久保誠介・西松裕一(1992):資源と素材,108,p.141-145 

大久保誠介・秋皙淵(1993):資源と素材,109,p.917-922 

大久保誠介・秋皙淵(1994):資源と素材,110,p.533-538 

秋皙淵・大久保誠介・福井勝則(1995):資源と素材,111, p.31-36 

趙顕・大久保誠介・福井勝則(1995):資源と素材,111, p.543-548 

福井勝則・大久保誠介・西松裕一(1989a):資源と素材, 105,p.521〜526 

福井勝則・大久保誠介・西松裕一(1989b):第21回岩盤力学に関するシンポジウム,p.476〜480 

福井勝則・大久保誠介・西松裕一(1992):資源と素材,108, p.543〜548 

斉藤迪孝(1981):土と基礎,28,p.77〜82 

川上純・飯星茂・池田宏・福井勝則(1996):土木学会第51回年次学術講演会V-B61,p.122〜123 

Singh,D.P.(1975):Int.J.Rock Mech.Min.Sci.& Geomech. Abstr,12,p.271-276