ボタンビットによる削孔の数値シミュレーション
1.はじめに

削岩機で削孔する場合には,いくつかのボタンチップを先端に配置したボタンビットがしばしば用いられる.どの位の径のボタンチップを使用するか,どのようにボタンチップを配置するかには任意性があるが,適当な検討方法が開発されていないため,これらは試行錯誤で決められてきた.本研究ではまず,著者らが先におこなった静的貫入試験結果(大久保ら,1999)を参考にして,基本的な取り扱い方について考えてみる.その後,ボタンチップによる削孔を計算機によってシミュレートした結果について述べる.


2.静的貫入試験のシミュレーション

静的貫入試験(実験の様子)は,図1に示すように,1つのボタンチップを刃物間隔s[mm]ずつ番号順に移動して都合25回の貫入をおこない,真中の3列×3行内(破線内)の平均貫入深さを求めた(大久保ら,1999).使用したボタンチップは,3 mm, 6 mm, 9 mm, 14 mmの4種類である.刃物間隔は,5 mm, 10 mm, 15 mm, 20 mmとした.試料岩石として,三城目安山岩,来待砂岩,稲田花崗岩を用いたが,本稿では稲田花崗岩に限って議論をする.稲田花崗岩の場合には,平均貫入深さT[mm]は次の実験式で近似できた.

T=2.5Q/(d0.50.5)−6    (1)
 ここに,Q[kN]は貫入力,d[mm]はボタンチップの直径である.

数値シミュレーションでは,岩石面を一片が1 mmの正方形の小区画に分割して考える.i回目の貫入試験による,j番目の小区画の貫入深さ増分Δtijを次ぎのように計算する.

Δtij=F・F   (2)

F[mm]は,小区間jにボタンチップの中心があるときの貫入深さ増分である.F[無次元]は,ボタンチップ中心から小区画中心までの距離Lの関数で,0〜1の範囲の値をとるものとする.詳しいことはわからないので,ここでは次式のようにFを計算することにした.

=1−a(L/F) (F>0) (3)

a[無次元]は常数である.ディスクカッタにおける刃物間隔について理論的に検討し,さらに実験的に検証をおこなったRoxborough and Philips(1975)の意見を採用すれば,a = σs/σc =(せん断強度)/(一軸圧縮強度)である.せん断強度に文献(山口・西松,1991)の式を採用すれば下記のようになる.

a=0.5/(Br−3)0.5  (4)

ここでBrはぜい性度である.例として稲田花崗岩について試算してみる.この場合,一軸引張強度は199 MPaで,圧裂引張強度は9.1 MPaである.これより計算されるBr = 21.9を上式に代入して計算すると,a = 1/8.7となる.なお,Roxborough and Philips(1975)によれば,最小値は1/7程度という.

静的貫入試験のシミュレーションは簡単で,図1の実験と同じようにボタンチップの貫入位置を1から25まで変えて25回の貫入試験をおこなうだけである.小区画jの深さは,(2)式より計算される値Δtijを,順次i = 1 から25まで加算して得られるものとした.(2)式中のFを2 mmとして,aを1/5, 1/6, 1/7とした時のシミュレーション結果を,実験から得られた(1)式と比較したのが図2の(a), (b), (c)である.どの図においても刃物間隔が5 mmのとき両者が一致するように(1)式中のQは選んである.図2の結果をみると,稲田花崗岩に関する限り,実験式とシミュレーション結果の傾向はかなり似通っていることがわかる.


3.ボタンビットによる削孔のシミュレーション

前と同様に,孔尻を小区画に分割して考える.小区画の寸法は,縦横とも直径の100分の1とする.n個あるボタンチップの内,i番目のボタンチップによる,j番目の小区画の貫入深さ増分Δtijを次のようにする.

Δtij=F・F   (5)

さらに,j番目の小区画における,1打撃当たりの削孔深さの増分Δtjは,全てのボタンチップの影響を足し合わせたものとする.

Δtj=ΣΔtij (i=1,n)   (6)

図3に今回の数値シミュレーションで想定したボタンビットを示す.外径50 mmで先端部直径8 mmのボタンチップが6個配置されている.図4には,このボタンビットの削孔のシミュレーション結果の1例を示す.1打撃当たりのボタンビット回転角度は20°とした.これよりわかるように,aの値が削孔速度におよぼす影響は大きい.なお,削孔速度は,初期状態からボタンビットが2回転(36打撃)する間の平均値である.多くの場合,外径50 mm程度の小径のボタンビットでは,F=1〜3 mm程度となるよう削岩機とその操業条件が選ばれていると思う.図4でF=2 mmのところを見ると,稲田花崗岩で妥当と思われるa=1/7〜a=1/5における1打撃当たりの削孔深さは1 mm程度である.1分間当たり2500打撃とすれば,削孔速度は毎分2.5 mと実際の値に近い.

上記のシミュレーションでは,2章と同じ方針で計算機シミュレーションをおこなった.しかしながら,ボタンビットの場合には,いくつかのボタンチップが埋め込まれている.このような場合には,削孔深さがより浅い部分から順次ボタンチップがあたることになり,削孔深さの浅いところの方が,削孔深さの増分Δtij が大きい可能性が高い.そこで(5)式のΔtijに ,j番目の小区画の削孔深さtjの関数F2[無次元]を導入する.

Δtij=F・F・F   (5’) 

=1+b(T−tj)/F   (F>0)  (7)

Tは平均削孔深さで,全小区画におけるtjの平均値である.b[無次元]は0〜1の範囲の常数である.図5には,b = 0.9とした時のシミュレーション結果を示す.b = 0.9としたのは,b = 0.0との差を明瞭に示すためである.図4と見比べてみると,同じ条件下ではFを導入した図5の方が,やや削孔速度が小さいことがわかる.


4.まとめ

静的貫入試験のシミュレーション結果は,以前おこなった実験結果と少なくとも定性的には一致するものであった.削孔のシミュレーションについては,今後検討すべき課題が残っているが,今回提案した方法の可能性をある程度示せたと考えている.


参考文献

大久保誠介,福井勝則,大田彰則(1999):資源・素材学会誌[No.9] ,pp.661〜667

Roxborough and Philips(1975): Int. J. Rock Mech., 12, 361-366

山口梅太郎,西松裕一(1991):岩石力学入門第3版,p.144,東京大学出版会(東京)