講座 全断面トンネル掘進機(TBM

1.はじめに | 2.TBMとは | 3.TBM工法の特徴 | 4.掘進速度の向上に関する課題 | 5.TBMの新たな展開とまとめ | 引用文献

表1 | 図1 | 図2 | 図3 | 図4

TBMの写真例(1-5)     


 1. はじめに

 全断面トンネル掘進機(Tunneling Boring Machine:略してTBMと呼ばれている)の歴史的な開発経緯については斉藤ら(1969)Stack(1982)およびトンネルボーリングマシン入門連載講座小委員会(1995a)に詳細に記述されている.Stack(1982)によれば,TBMの原型は19世紀半ばにMausが開発したrock-tunneling machineである.この機械はさく岩機と似た機械をいくつも組み合わせた形式でさく孔した後,割岩によって岩盤を掘削する様式であった.その後,多くの改良がなされたが,実施工に耐えうるものはなかなか開発できなかった.1950年代にRobbins社によって現在のTBMに近いmodel910-101が製作され,実施工に成功を収めた.それを改良したmodel131-106は掘削工具としてディスクカッタを用いており,機構的には現在のTBMとほぼ同じである.1960年代に入ると,数社でTBMが製作されるようになり,普及しはじめた.

 さて,多数のディスクカッタを取り付けたカッタヘッドを岩盤に押し込みながら回転させることによって全断面を円形状に掘削する機械を国内ではTBMと呼んでいるが,英語でTunneling Boring Machineと言った場合には,シールド機械を含めた全断面トンネル掘進機という広い意味で用いられている.本稿では国内で標準的に用いられている狭い意味でTBMと呼んでいる機械に関して述べることにする.TBMではディスクカッタで押し込む力(推力)を張り出したグリッパシューと岩盤との摩擦力によって支える点が,セグメントによって推力を支えるシールド機械と機構的に異なる.ただし最近では,岩盤シールド機械(シールド機械の掘削工具の一部をディスクカッタで置き換えた機械)や,TBMでもセグメントに推力を保持させることもできるようにした機械のように,シールド機械とTBMの両者の特徴を持つものも開発されており,両者の区別は明確なものではなくなってきている.

 斉藤ら(1969)およびトンネルボーリングマシン入門連載講座小委員会(1995a)によれば,国内においてはTM230G1964年に新居浜水路トンネルではじめて導入され,300m弱を掘削している.その後,1973年まで20件程度の施工が行われたが,日本の複雑な地質にTBMが適さないという理由で,1973年の青函トンネルの施工以降,しばらく空白の期間が見られた.しかし,1978年の下郷発電所の斜坑掘削を契機として,日本の地質環境にあったTBMの開発や支保方法の改良が進み,1983年以降,施工例が徐々に増加しはじめた.さらにここ数年は急激に増加しており,硬岩トンネルの施工方法としてまずTBM工法が検討されるほどTBMは一般的になってきた.

 TBMの最大の特徴は高速施工性にある.海外では直径4.3mのトンネルを月進1513mで掘進した事例(青木・西岡:1997)もあり,国内でも現状の計画段階では月進300500m程度に設定されている.他方,最大の欠点は断層破砕帯や軟弱層に遭遇した場合,カッタヘッドが回転できなくなったり,グリッパシューによる反力がとれなくなるなど何らかのトラブルが発生しやすい点である.しかも全断面掘削機であるため補助工法を取りにくく,数週間からひどいときには1年程度,掘削が停止したりすることもある.このため,日本の地質に対してTBM工法は向かないと言われていた時期もあったが,シールド工法で培った技術を導入することによって克服されようとしている.

本稿では,まずTBMの構造に関する概略を述べ,次にTBM工法の特徴と利用実績について紹介する.最後に掘進速度の向上に関しての技術的課題を述べることにする.


2. TBMとは

  TBMの構造図の一例を図1に示す.TBMでは,次の事項を繰り返すことによって掘進を行う.

@ディスクカッタを岩盤に押し込む力を岩盤との摩擦力で支えるために,機体側部のグリッパシューを張り出しトンネル側面に押しつける.

Aカッタヘッドを回転させながら,推進ジャッキによってカッタヘッドを岩盤に押し込み岩盤を掘削する.

B掘削されたずりは,カッタヘッドにあるスクレーパによってカッタヘッド後方のベルトコンベヤに搬送され,ずり運搬用トロッコなどの後方設備により坑外に搬送される.

C推進ジャッキが最大押し出し量(1m強程度)に近づくと,カッタヘッドの回転を停止し,グリッパシューを引き戻す.カッタヘッドの近くにある盛り替え用の小型グリッパシュー(サポート)を張り出し,岩盤との摩擦力を反力として,推進ジャッキを引き込むことによって,後続部を前進させる.

  TBMは,機構的に大きく掘削機構,推進機構,ずり排出機構の3つに分けることができる.また,電源・ポンプ装置・操作室などの設備は,本体後方の後続台車に装備し,本体と一緒に進んでいく構造となっており,この後方設備は100m近くに及ぶこともある.

a)掘削機構

 現在のTBMは,掘削工具として図2に示すようなディスクカッタ(直径300500mm)を用いる.カッタヘッドの回転によって,ディスクカッタは岩盤に押しつけられながら回転する構造となっており,偏摩耗(ディスクカッタに偏った摩耗が生じること)の防止と冷却効果があり,ディスクカッタの寿命を延ばす機構となっている.ディスクカッタの刃先が摩耗した場合には,新しいディスクカッタと交換することとなるが,先端のカッタリング以外は再利用される.ディスクカッタを岩盤に押し込みながら(貫入量は岩質にもよるが315mm程度),カッタヘッドが回転(1回転あたり520s312rpm)程度.インバータ制御によって回転速度は可変)することによって,ディスクカッタは切羽に対して同心円状に回転しながら,岩盤を掘削していく.図3にディスクカッタによる掘削機構を示す.ディスクカッタと岩盤が接触する付近では,応力が高くなり圧砕される.硬岩ではこの領域から隣接溝に向かって亀裂が進展し,side break(隣接破砕)が生じて岩片として掘削が行われる.side breakによる掘削がTBMの特徴であり,なるべく効率よくside breakが生じるように配慮され,5090mm程度の間隔になるようにディスクカッタはカッタヘッドに取り付けられている.TBMでの掘削方法は,シールド機械のバイトカッタや自由断面掘削機のポイントアタックビットによる切削方式に比べ,最も硬岩掘削に適しており,一軸圧縮強度が200MPa程度であれば亀裂のない岩盤でも十分掘削が可能である.

b)推進機構

 推進機構は,カッタヘッドを押す推進ジャッキと,その反力を支えるグリッパシューからなる.反力を得るためにグリッパシューで岩盤を押す際,トンネル壁面に損傷が生じないようにすることが重要であり,軟弱な岩盤が予想される場合には,あらかじめグリッパシューの面積を大きくしておく工夫がなされる.また,グリッパシューを張り出しても必要とされる推力が得られない場合やトンネル壁面の損傷が危ぶまれる場合には,シールド機械のように支保としてセグメントあるいはライナーを利用し,支保を押す機構を有したTBMもある.グリッパには反力を得るため以外にも,掘削時の振動抑制や方向制御などを目的として機体前部に小型のグリッパ(フロントサポートと呼ばれる)がある.カッタヘッドに作用する力は必ずしも均質に作用しないため,掘進中は姿勢・方向に関する制御が必要である.制御方法としては,グリッパシューや推進ジャッキによるものであり,掘進中のTBMの操作としては重要である.

c)ずり排出機構

 掘削されたずりはカッタヘッドにあるスクレーパによって,カッタヘッド内に取り込まれベルトコンベヤに投入されて,後方設備により坑外に搬送される.TBM工法では掘進速度が速いため,効率的なずり搬送システムが必要となる.ずりの運搬として,トンネル径が2m程度であると流体(スラリー)輸送,それ以上ではレール式(トロッコ)輸送が主であり,タイヤ式はほとんど用いられていない.最近,連続ベルトコンベヤ方式が国内でも用いられるようになり,トンネル長が23km以上であれば,連続ベルトコンベヤ方式でも経済的に見合うとされている.連続ベルトコンベヤ方式では延ばすべきベルトをストック領域(ベルト貯蔵装置)に貯えておき,TBMが前進するとストック領域のベルトが自動的に延長されることによって,ベルトコンベヤを停止する必要はない.また,ストック領域にはベルトを数百m程度確保でき,1週間〜1月に1回,ストック領域へベルトの増設を行う.ずり出しに関して,トロッコ待ちなどの掘削の停止を必要としないため,連続ベルトコンベヤ方式は今後有望であろう.ずりの形状であるが,強固な岩盤では平べったいずりが発生し,逆に軟弱な岩盤では大きなゴロ石や粒度の小さいものが多いことがTBM工法での特徴である.そのため掘削中,ずりの形状を見て現在の切羽の様子を推測することが経験的に行われている.またずりとして排出されるもの以外に,硬質で湧水の少ない岩盤では粉塵の発生が多い.そのため,集塵機が設置されている.カッタの冷却も兼ねて切羽に散水することもあるが,粘土を含む場合には,ディスクカッタに粘土がへばりつく状態となり偏摩耗の原因となるので,岩質を見極めて散水する必要がある.


3.  TBM工法の特徴

3-1 特徴

 TBM工法の長所としては以下の事項があげられる.

a)  高速掘進が可能である.連続的に掘進が行えることから工期の短縮が可能である.

b) 安全性が高い.円形断面であり余掘りもほとんどないため,力学的に安定である.また直接,切羽に人間が近づくことがない点もあげられる.        

c)   支保が軽減できる.発破工法などに比べトンネル周辺のゆるみ(損傷)領域が小さいので,支保を軽減できる.

 他方,短所としては以下の事項があげられる.

a)   断層破砕帯・軟弱層などではトラブルが発生しやすい.

b)    コストが高い.TBM本体や組立,運搬などのコストが高いため,短いトンネルでは適用しにくい.          

c)   断面形状が制約される.基本的に円形断面しか掘削できないため,用途が制限される.

3-2 用途と施工実績トンネルボーリングマシン入門連載講座小委員会:1995b

 鉱山での使用実績として,海外では坑道掘削に二十数件程度の実績があるが,国内では1件だけの事例しかなく,ほとんど土木用トンネルに利用されている.TBM工法では最終断面として円形が望まれる用途に利用しやすいため,国内では上下水道や発電用水路が全体の工事数の34程度を占めている.鉄道トンネルに関して国内ではあまり実績がないが,英仏海峡トンネルではTBMの有用性が示されている.道路トンネルにおいては例えば,直径5mの舞子トンネル(花崗岩)ではずり排出用の導坑としての掘削が行われ,湯田第二トンネルの先進導坑(直径3.5m)では軟弱な凝灰岩層を含む複雑な地層を計画工期内で貫通し,複雑な地質でもTBM工法が可能であることが示された.この他,第二東名・名神高速のトンネルの先進導坑にも多く用いられている.TBMでの掘削径としては,国内では3m以下が圧倒的に多い.これは中小水力発電所や都市近郊での下水道が多いためである.他方,海外では掘削径34mのものが全体の半数程度を占めているが,8m以上が10%程度もあり,国内に比べて大口径TBMによる施工が多い.国内でも最近,直径8.3mの滝里導水路トンネルが貫通しており,現在飛弾トンネルで直径12.84mTBMが計画されているように,大口径化の傾向は見られる. 掘削長に関しては,海外では20kmを越えるものがあるのに対して,国内では7km以下が最長であり,平均でも海外の半分以下となっている.TBM本体の費用や組立などの時間を考えれば,長距離掘削の方が施工単価を低減できるため,例えば飛弾トンネルのように10km以上の長距離トンネルも今後増加することが望まれる.

 3-3 支保

 TBM工法の場合,発破工法に比べ,1)余掘りがほとんどなく平滑な円形となるため応力が均等に作用しやすい,2)周辺岩盤が損傷しにくい,の2点の理由で支保を軽くできるとされている.しかし,TBMでの掘進は非常に高速であるため,支保の建て込み速度が掘進速度に追いつかない場合には,支保がトンネルの掘進速度を規制することとなる.このため,TBM工法において支保の役割は重要である.TBM工法の支保としては,軽い方から吹き付けコンクリート,ロックボルト,H鋼,あるいはその組み合わせが主である.ECL工法(現場打ちのコンクリート)を用いることもある.建て込み速度の問題から鉄筋コンクリートは用いられていない.ただし,後から二次覆工を行う場合には用いることもある.高速に支保を建て込む必要から,なるべくその岩盤に見合った支保を用いることが求められる.数段階の岩盤分類ごとに支保パターンを事前に決定しておき,施工中は岩盤観察により岩盤分類を行い,支保パターンを決定している.支保の目的の1つは天盤からの落石防護である.天盤の曲率半径(トンネル径)が大きくなると,落石は生じやすくなる.そのため,同じ岩盤であってもトンネル径が大きくなると,支保を重くする必要がある.今後,TBMの大口径化が進んでいく際には,重要な問題となるであろう.


4. 掘進速度の向上に関する課題

  TBMの平均掘進速度は,純掘進速度(カッタヘッドを回転させ掘削している時の推進速度)と稼働率の積で表現されることが多い.稼働率は海外では3550%であるのに対して,国内では2035%程度であり,国内での効率性が悪いことが指摘されている(トンネルボーリングマシン入門連載講座小委員会:1995b).この原因の1つとしては,国内では2交代制であるのに対して,海外では3交代制を取っており,実質上の施工時間の差によることがまず挙げられる.また国内では海外に比べ地質が複雑で断層破砕帯・軟弱層が比較的多く,この対応に時間を要し稼働率が低下していることもあげられる.TBM工法において掘進速度を向上させるには,断層破砕帯・軟弱層の対応を迅速にして稼働率を向上させる方法と,純掘進速度を増加させる方法が実施されている.

4-1 地質調査と断層破砕帯・軟弱層の対応

  TBM工法では施工が開始されると機体を大幅に改造することは不可能であり,設計したTBMの仕様に基づいて掘進を行っていくことになる.そのため,事前にトンネルの地質調査を行い,岩盤特性・湧水状況などを把握し,その結果に基づいてTBM工法が適用可能かどうか判断される.適用可能な場合は,その仕様が決定される.事前の地質調査は,地表踏査,原位置弾性波速度調査,ボーリングおよび一軸圧縮試験などの物性試験が主であり,これに基づいて地質図が作成される.これは通常のトンネルの事前調査と同じであり,実際にトンネルを掘削していく段階で予測していた地質と異なることもありうる.そのような場合,TBMの仕様が現実の地質に適合できなくなることもあり,掘進速度が低下する原因となるので,地質調査は非常に重要である.TBM工法に関してまず重要な項目としては,断層破砕帯や軟弱層がトンネルにどのような状態で,どの程度存在するかである.硬質な岩盤であれば,他の工法に比べてTBM工法は圧倒的に掘進速度は速いが,断層破砕帯や軟弱層では逆に補助工法が取りにくいため他の工法の方が有利である.そのため,数多くの断層破砕帯や軟弱層が現れるような場合には,TBM工法より他の工法が選択される.また,数が少なくても大断層があるような場合には,TBMが突破できるかの検討が重要である.この点に関し,TBMをシールド枠にいれたシールド型がTBMに取り入れられるようになって,断層破砕帯や軟弱部にかなり対応できるようになってきた(区別するために,シールドがないものはオープン型TBMと呼ばれている). TBM工法では順調に進めば,1週間に100m程度の掘進が得られる.そのため,施工時の切羽の前方調査はかなり遠くまで確実に把握できる方法が求められている.この点を満足する手法としては,TSPTunnel Seismic Profiling)と呼ばれている反射法の弾性波探査がある.原理的には,トンネル側壁で振動を起こし(主に発破振動),反射してくる弾性波をとらえ,破砕帯や岩質の変化などによる境界の位置を推定し,反射面の前後での弾性波速度の大小で岩盤の強弱を判断して,岩盤特性を調べるというものである.TSPでは,切羽前方の数十mから百数十m程度の測定が可能であり,大まかな反射面および弾性波速度の把握が可能となっているが,精度的にはまだ問題がある.特に層境がトンネル軸と平行に近い場合に誤差が大きく,せっかくTSPで破砕帯の存在を確認しながら,まだ十数m先だと思って掘進していたら,破砕帯に遭遇してしまった例もある.しかし現状では,このTSPが最も精度よく破砕帯などをとらえることができ,今後も利用されていくものと思われる.実施工では十m程度の誤差があるとの認識から,破砕帯に近づいてくると掘削を中断してTBMから先進ボーリングを行い,切羽の様子を調べることがよくなされている.このため掘削は中断され,時間が消費されてしまい,高速施工の点からは問題となっている.軟弱層が切羽前方に存在することが確認され,TBMでの掘削が難しいような場合や,すでに軟弱層が切羽に現れ掘削不可能となった場合には,補助工法が用いられる.補助工法としては,まずTBMからボーリングを行い,ウレタンなどの薬液を注入して軟弱層を強固にする工法がとられる場合が多い.被り厚が小さい場合には,地表からボーリングを行うこともある.事前にこのような処置を施した場合にはさほど問題なく軟弱層を通過できる.しかし,切羽が大幅に崩落した後では,ウレタンなどの注入の効果は小さく,再度掘削を再開できるまでかなりの時間を要する.シールド型TBMで,軟弱岩盤が側壁や天盤でくずれてきてシールドが締め付けられて,TBMの推力を最大としても,TBMが動かなくなった場合の処置は難しい.推進ジャッキを追加して推力を大きくして動かすことが考えられるが,最悪の場合にはTBM周辺を切り広げることもある.

 4-2 純掘進速度とビット摩耗

TBMの純掘進速度は次式で表現できる(大久保:1990;福井・大久保:1997).

純掘進速度∝(推力)・(カッタヘッド回転速度)/(岩盤強度特性) あるいは

純掘進速度∝(推力)0.5・(カッタヘッド回転速度)/(岩盤強度特性)

推力と純掘進速度の関係は,ディスクカッタを用いた室内試験結果(例えば,Roxborough and Phillips:1975; Sanio:1985)に基づくものであり,岩盤強度特性とは岩石としての強度(例えば一軸圧縮強度)以外に亀裂などが存在した場合には純掘進速度が増加するため,両者をあわせた形で岩盤強度特性としている.さて上式からわかるように,純掘進速度を上昇させるには推力およびカッタヘッド回転速度を増加させればよい.ベアリングで支えることができる荷重の限界からディスクカッタで押せる荷重には上限値が存在する.そのため,ディスクカッタの上限荷重とカッタ数の積以上の推力をかけることができない.そこで,カッタ径を大きくすることによって最大推力を増加させることが行われている.表1にカッタ径と上限値の関係の一例(南・森岡:1999)を示す.以前は直径300mm前後が主流であったが,最近では徐々に大型化が進み一部では,483mm19inch)の直径のものも用いられるようになってきた.他方,カッタヘッド回転速度でも,ディスクカッタのシール部での回転速度の制約があり,最も外側のディスクカッタの回転速度がこの上限値となるように,最大カッタヘッド回転速度は設計されている.この点も,カッタ径を大きくすることによって,回転速度の上限値が上昇することとなる.以上のように,純掘進速度を上昇させることを目的として,カッタ径を大きくすることが行われている. しかし純掘進速度を速くしても支保の建て込みやずり排出が間に合わなければ,掘進速度を早くする意味がない.例えば,松本ら(1998)TBMの掘削データを整理して,岩盤が比較的軟質(断層破砕帯ではなく)になると,掘進速度が一定になるようにTBMの操作を行っていることを示しており,設計段階で支保やずり排出を含めた総合的な設定が必要となる.さて硬質な岩盤ではビット摩耗の問題がある.硬岩の掘削ではディスクカッタの摩耗が激しく,その費用が大きくなるだけでなく,ディスクカッタの交換時間も重要な問題点となっている.ディスクカッタを摩耗させやすい岩石としては,花崗岩などの硬質で石英成分を多く含んだもの(特に50%を越えているもの)があげられる.現在のディスクカッタの刃先角は180°に近いものが主流であり,摩耗によってカッタの高さは減少していくが,その形状はさほど変化しない.そのため,カッタの摩耗によってもさほど掘削抵抗に変化はみられない.カッタリングの交換は,摩耗長を測定することによって管理されており,摩耗長が15mm程度(カッタ径によって異なる)で行い,数個程度を一度に交換する.他方,砂岩や泥岩などで石英含有率は大きいが強度的にさほど大きくない岩盤(一軸圧縮強度50MPa以下)の場合,カッタの刃先中央部ではさほど摩耗は生じない.しかし,side breakによってカッタの刃先側面をこするように岩片ができるため,カッタ刃先側面の摩耗が進行する.そのためカッタ先端が鋭くなるような摩耗状態も存在する.摩耗においてもう1つ問題となるものに偏摩耗がある.偏摩耗はディスクカッタ取付ケースの内面に岩盤がへばりついて,ディスクカッタが回転できなくなり,同じ場所で絶えず岩盤を掘削することによって起きる.この場合,カッタの温度が上昇するため,極端に摩耗が進行し,知らずに掘削を続けると軸受まで損傷することもある.偏摩耗が生じた場合には掘削抵抗が大きくなるので,その変化から偏摩耗に気がついた例もあるほど影響が大きい.岩盤としては泥岩などの粘性的挙動を示すものが,軸受にへばりつきやすい.

表1 カッタ径と,最大荷重・速度の関係.南・森岡(1999)より引用

カッタ径(mm)

    (inch)

305

12

394

15.5

432

17

483

19

最大荷重(kN) 125 176 216 314
最大速度(m/min) 75 130 150 180

 


5.   TBMの新たな展開とまとめ

 5-1  新たな展開

今までは標準的なTBMについて述べてきたが,3章で述べたように国内においても今後,大口径掘削や長大トンネルの掘削においてTBMが用いられるケースが増大すると考えられる.この他,TBMから派生した掘削機械がいくつか存在するので,簡単に紹介する.

a)斜坑TBM

 斜坑TBMは主に地下発電所の斜坑の建造に用いられている.ずり排出の問題で切り上がり(上方に向かっての掘進)となっており,滑落防止用の対策およびずり排出方式以外は通常のTBMとほぼ同じである.

b)リーミングTBM

 リーミングTBMは,地下発電所の斜坑TBMを掘削した斜坑をパイロット坑として拡幅するために用いられており,パイロット坑にずりを落とすことによって,切り下がり方式を可能としている.この他に既設の水平トンネルの拡幅に用いられた例もある.

c)楕円断面TBM

TBMでは断面形状が円形となるため,道路や鉄道では不必要な掘削を行ってしまうことが原因で,なかなか採用されなかった.そこでカッタヘッドを前に倒した形の楕円断面TBMの開発が行われた.カッタヘッドを傾けることによって掘削断面が楕円となり,用途の拡大が望まれ,また切羽を押さえ込む形となるため,切羽の安定性の向上も望める.

d)モービルマイナー

全断面掘進機ではなく自由断面掘進機であるため,TBMと呼ぶことはできないが,掘削工具としてディスクカッタを用い,TBMと同じ掘削機構で掘削を行う機械にモービルマイナーがある.図4に高取山トンネルで利用されたMM130Rを示す.先端のカッタヘッドにディスクカッタが取り付けられており,カッタヘッドが回転することによって縦方向に掘削を行う.このカッタヘッドを左右上下に動かすことによって,自由な断面形状を掘削することができる.モービルマイナーの1号機および2号機は,カッタヘッドを左右にだけ動かせる型のもので,それぞれマウントアイザ鉱山,パスミンコ鉱山の坑道掘進での実績が見られる.

5-2 まとめ

本講座では,全断面トンネル掘進機(TBM)の概略を述べてきた.TBMというと,うまくいけば月進1km以上の驚異的な掘進速度が得られるが,失敗すると機械を放棄するようなことも生じる危険性があるため,‘ばくち’的な掘削機械であるという印象が過去にあった.しかし月進1kmという数字は非常に魅力的である.長距離であるがために,経済的に掘削が不可能とされていたトンネルを安価に掘削できる可能性があり,TBMは今後のトンネルや資源開発のニーズを掘り起こす可能性を秘めている.そのため,シールド型をはじめとする,断層破砕帯・軟弱層対策がある程度,身を結んだ結果,TBM工法は標準的に用いられようとしている.また,オープン型TBMでも多くの改良がなされ,地質対応性が向上している.しかしながら,まだ軟弱層に遭遇し,長期にわたりその対策を行なければならかった事例がいくつもあり,今後も技術的な改良が望まれる.


引用文献

 青木謙治・西岡和則(1997):トンネルと地下,Vol.28[No.11]p.49-55

福井勝則・大久保誠介(1997):トンネルと地下,28[No.2]p.123-131

建設機械化研究所(1996):硬岩トンネル自由断面掘削機(MM130R)性能確認試験報告書,日本建設機械化協会

松本一騎・福井勝則・大久保誠介・水上雅裕・今井裕二・酒井照夫・浅井秀明・西澤 泉(1998):平成10年資源・素材学会春季大会講演集,Vol.T,p.14-17

南 好人・森岡享一(1999):建設の機械化,3月号,p.5763

大久保誠介(1990):資源と素材,106[No.6]p.341-346

Roxborough, F. F. and Phillips, H. R. (1975)Int. J. Rock Mech. Min. Sci. & Geomech. AbstrVol.12p.361-366

斉藤 徹・島田隆夫・吉川恵也・月岡 照(1969):トンネルの機械化掘削,p.1-8,山海堂

Sanio, H. P. (1985)Int. J. Rock Mech. Min. Sci. & Geomech. AbstrVol.22[No.3]p.153-161,

Stack, B.(1982)Handbook of mining and tunneling machineryp.138-293Wiley

トンネルボーリングマシン入門連載講座小委員会(1995a):トンネルと地下,Vol.26[No.10]p.69-74

トンネルボーリングマシン入門連載講座小委員会(1995b):トンネルと地下,Vol.26[No.11]p.77-83

トンネルボーリングマシン入門連載講座小委員会(1996):トンネルと地下,Vol.27[No.1]p.77-84