硬岩用自由断面掘削機の掘削体積比エネルギーと岩盤物性
3.掘削エネルギーと掘削体積比エネルギー

単位体積の掘削に要するエネルギーを掘削体積比エネルギーと称する(Teale,1965;西松,1972).掘削体積比エネルギーは,掘削能率を検討する目的でしばしば使用されるが,その計算方法は一定しておらず,特に掘削エネルギーの算出には色々な方法がある.本研究では,純粋に岩盤に対して消費されたエネルギーを,掘削エネルギーとすることにした.本掘削機において岩盤の掘削に消費されるエネルギーは,1)カッタホイールを切羽に押し込むためのエネルギー,2)カッタホイールを切羽に沿って水平に移動させるエネルギー,3)カッタホイールの回転に要するエネルギー,の3つに分類することができる.これに対応して岩盤を掘削する際,ディスクカッタに生じる力は,1)所定の切り込み深さを維持するための力 F1 ,2)水平方向に移動させる力 F2 ,3)鉛直方向に移動させる力 F3 ,の3つの分力にわけることができる.これらの力の大きさは,切り込み深さなどの条件によって変化するが,通常の掘削における設定であれば,F1 が最も大きく,F2 および F3 はほぼ等しく,F1 の 10〜20 % 程度である(Fangmingら,1992).これらの力を移動距離で積分したものが掘削エネルギーとなる.切羽1周を掘削する場合の移動距離は,1)では切り込み深さ相当(10〜30 mm),2)ではカッタホイール中心部の移動距離(約 20 m),3)ではカッタホイール外周の回転距離(約 300〜400 m)となる.単純に力と距離を掛けてエネルギーの概算を求めると,3)によるエネルギーが最も大きい.1)による消費エネルギーは3)に比べて 0.1 % 以下であり,2)では3)に対して 5〜7 % となる.このように,掘削に要するエネルギーの大部分はカッタホイールの回転エネルギーであるので,掘削エネルギーを求める際には,1),2)のエネルギーは省略することにした.

2台の三相電動モータによってカッタホイールを回転させているので,各々の電動モータに電力計を設置し積算電力量を測定するすることによって,カッタホイールの回転エネルギーを測定した.負荷が小さいと電動モータの力率が小さくなるため,カッタホイール空転時の所要エネルギーを求めることが難しい.そこで,切り込み深さを変化させた掘削を行い,空転時のエネルギーを推定することにした.切り込み深さを変えた掘削試験を3地点でおこなった.図-5に,カッタホイールが切羽を1周(図-3で位置1から4まで)する間のカッタホイール回転エネルギーを示す.カッタホイールの空転時のエネルギーは切り込み深さ 0 mm の時であるので,図-5の結果を外挿して求めることにする.外挿の方法にはいくつか考えられるが,ここでは簡単に実線で示すように直線で近似して求めることにした.図からカッタホイールを空転させるために要するエネルギーは 6.5 MJ であることがわかる.よって掘削エネルギーはカッタホイール回転エネルギーから,カッタホイール空転エネルギーを差し引いたもので表すことができる.掘削体積比エネルギーは,その掘削エネルギーを掘削体積(切り込み深さ×掘削断面積)で除した値となる.

図-5 掘削エネルギーに対する切り込み深さの影響

上記の掘削エネルギーには,切羽下部に溜まったずりを,パドルで掻き上げて排出するためのエネルギーも含まれている.このずり排出のためのエネルギーを参考までに見積もるため,パドルの効くフロア部と効かないアーチ部の掘削体積比エネルギー(100 m 区間の平均値)を比較したところ,フロア部の方が約 3 MPa 程度大きかった.

推力用シリンダのストロークは 150 mm であり,150 mm 弱の掘削が終了すると,クローラによって本体を前進させる.前進後最初の掘削時の切り込み深さは切羽全体で一定とならぬことが多かった.そこで,20 〜50 mm 掘削し切り込み深さが一様になるまでのデータは検討の対象としないことにした.また,トンネル側壁部はゲージカッタで掘削されて輪郭が整えられるので,他の部分より多くのエネルギーを要する.そこで,トンネル側壁から 340 mm 以内の部分の掘削体積比エネルギーは検討の対象としないことにした.

本掘削機ではカッタホイールの移動速度を変えると掘削溝間隔が変わる.そこで,掘削溝間隔と掘削体積比エネルギーの関係について吟味した.図-6に,切り込み深さを 20 mm とし,掘削溝間隔を変えた時の掘削体積比エネルギーの一例を示す.図-6の横軸はカッタホイールが切羽を1周する掘削時間を表す.図では,切羽1周に要する掘削時間が短くなれば掘削体積比エネルギーは若干減少している.その理由は,カッタホイールの移動速度の増加で掘削溝間隔が増加し,サイドブレークによる掘削比率が増え,掘削体積比エネルギーが減少したと考えられる.しかし,図-6に示した以外にも数回同様の試験を行ったが,その大部分で上記の傾向は定性的には存在しているものの,ばらつきが大きかった.移動速度を速くした場合にはサイドブレークで破砕される部分の凹凸が大きくなり,掘削体積を切り込み深さと掘削断面積の積で求めたため,ばらつきが大きくなったものと考えられる.今回の掘削では,切羽を1周させる時間は一部の試験的な掘削を除けば 150 〜 180 s 程度であるので,図-6の結果を見ても,カッタホイールの移動速度の影響は小さいといえる.

図-6 カッタホイール移動速度を変化させた場合の掘削体積比エネルギー