田下凝灰岩の長期クリープ試験と構成方程式
2.実験

2・1 経緯

試料岩石の候補としては使用経験が深い三城目安山岩と田下凝灰岩があげられたが,比較的小さなクリープ応力で済む田下凝灰岩に決めた.試験装置としては,重錘式,油圧式,空気圧式の3者を候補として検討した.重錘式は充分な防振を施した基礎が必要であるため,費用の点で無理と考えてまず候補から外した.油圧式と空気圧式は,両者とも長期試験が可能であると考えたが,最終的には空気圧式にした.その最大の理由は,万一の故障時の配管や部品の購入がより速やかだと考えたからである.しかし,これは著者のおかれた当時の状況下における判断であり,現在では油圧式でもほとんど変わらないと考えている.

次なる検討課題は試験機室の問題であった.温度のみならず湿度も厳密に制御された部屋が望ましいが,これは初期投資額の点でも,また試験中にかかる空調機の電力代の点でも無理なことがわかった.せいぜい可能なのは業務用空調機の導入であったが,これまでの経験からしてこの程度の空調では,歪速度10−10/s程度が精一杯であり,世界的に最高水準であるとともに著者らが実現したいと考えた歪速度10−12/sの測定は難しいと判断した.そこで試験片全体を水の中につけた完全湿潤状態でのクリープ試験を,かなりの試行錯誤と予備試験の末に選択した.特にわが国の場合,地下水位が高く,地下構造物は,どちらかというと,湿潤状態に近いことが多いとの考えももちろん判断材料に加味しての結果であった.

次に検討したのは,変位(歪)の測定方法であった.いくつかの選択肢を予備試験などで検討したのち最後に可能性のあるものとして残ったのが,差動変圧器と歪ゲージ式変位計であった.両者とも充分に注意して使用すれば,1μm以下の分解能が可能であることがわかり性能としては優劣つけがたしとの検討結果であった.最終的には歪ゲージ式の変位計を使用することにしたが,その理由は@著者の使用経験がより長く細部にわたって動作原理等を承知していた,A安価であること.Aについて少し申し添えておきたい.変位計にしろ対応したアンプにしろ,一式だけならなんとか購入できるが,実は同じ製品でも一つずつ特性が異なるので,著者等は,同一の製品を5〜10程度購入し,個別に評価試験をして適当な使用方法を決めている.最も良いものを長期試験用にして,安定性の悪いものは短期の試験用にすることが多い.このような使用方法のため,安価であることは相当に重要であった.

変位計を歪ゲージ式とした後の課題は,歪ゲージ式アンプの印加電圧を直流にするか,交流にするかの選択であった.これも事前に評価試験をおこなったところ,ゲインの変化は直流が少なく,零点の変化は交流が少ないとのごく常識的な結果を得た.総合的に考えて両者の差は少ないと思われたが,@交流式のアンプを使用すると,外部キャリブレータによるゲインの検定に際して,R(抵抗)のみではなくC(浮遊電荷容量)まで考慮せねばならないため相当の注意が必要なこと,A直流の場合,信号伝送線の接続部がわずかでも劣化すると熱起電力が大きくなる懸念があるが,充分に注意を払えば克服できることから,最終的に直流式のアンプを使用することにした.

最後にどのような水を使用するかの検討をおこなった.これに関しては,著者らの経験は浅く,従来の文献をまず調査することにした(例えばVutukuri et al, 1974).その結果では,pHなどがどのように影響するかについての一般的な定説はどうもなさそうだとの感触を得た.これも実状にあわせての配慮からであったが,pHの常時制御は費用の面で事実上不可能であったので,妥協案として,購入したpH7のイオン交換水に大気中の二酸化炭素が溶け込み,pHが安定するまでしばらく試験室内に放置してから,クリープ試験で使用することにした.その時のpHは5.7であった.なお,試験中,水面から水が蒸発していくので継ぎ足す必要があるが,その際にもこうしてpHが安定した水を継ぎ足すことにした.なお,田下凝灰岩の場合には,試験片を浸した水のpHは殆ど変化しないし,色の変化もなかった.

こうした準備期間を経た後,1994年後半より第1回の試験を開始した.試験は順調であり特に問題となることもなかったが,計算機と連結したCRTだけは焼きつきがはなはだしかったので途中交換した.約2.5年経過後に,変位の測定値が不自然な動きを示すようになったのでやむを得ず試験を中止した.中止後に調査した結果では,歪アンプの出力用のオペアンプが故障していた.これに関してメーカに問い合わせたところでは,例のあまりない故障とのことであった.あとで述べるような若干の改良の後,第2回の試験を行い現在までにほぼ3年が経過した.2本ではあるが,これまでに例の少ない3年という期間にわたるデータが得られたのでここに発表することにした.

2・2 試料岩石

表1に田下凝灰岩の気乾と湿潤状態の特性を示す.これからわかるように,田下凝灰岩は気乾状態での一軸圧縮強度が16MPaとかなり弱い岩石である.ことに,湿潤状態下では,強度も剛性も顕著に低下することがわかる.この田下凝灰岩について著者は,比較的高い応力レベルではあるが,多くのクリープ試験をおこなってきている.特に,秋(1995)は湿潤状態での短期間ではあるが詳細なクリープ試験のデータを採取した.秋がおこなったのは,クリープ応力レベル92%から63%までの間である.ちなみに,92%と63%での幾何平均寿命は3.68sと1.11×10s(1.5日)で,そのは3×10程度であった.

本研究では,クリープ実験に際してクリープ応力レベルを30%(9.1×0.3MPa)に選んだがその理由は次のとおりである.@長期に使用することを前提とした構造物の安全率は2以上に取られるであろう.この観点からすれば,クリープ応力を4.5MPa以下にすることが適当であろう.A現在の地下空間利用の要請から考えて,凝灰岩に期待される深度はさほど深いとは思われず大体100mくらいまでであろう.その時の地圧は2〜2.5MPaである.以上2点を勘案して切りのよい数字を選択すると,応力レベル30%(2.73MPa)が第一候補としてあがった.秋(1995)によれば,前述のように,応力レベル92%から63%まで29%低下すると寿命は3×10倍となった.高い応力でのクリープ寿命から,低い応力レベルでの寿命を外挿するのは困難だが,寿命が仮に応力比のn乗に反比例すると考えればn=27となり,これからクリープ応力レベル30%での寿命を推定すると200万年弱となる.

図1には田下凝灰岩の完全応力ー歪曲線を示すが,これからわかるように,田下凝灰岩はクラスTの特性を持ち,一軸圧縮試験ではせん断面にそってマクロな破壊をすることが多い.3次クリープ開始時の歪についてはいくつかの意見がある。たとえば,Wawersik(1971)らは,強度破壊点以前の応力−歪曲線上からクリープ試験は出発し,強度破壊点以降の応力−歪曲線と交差するまでにクリープ歪が大きくなると,3次クリープがはじまるとしている.この意見に従えば,田下凝灰岩の応力レベル30%におけるクリープ試験では,クリープ歪6〜8×10−3で3次クリープがはじまる.福井ら(1989)は,強度破壊点を起点とする除荷曲線と交差するまでにクリープ歪が大きくなると,3次クリ−プがはじまるとしている.後者の考え方では,1.5〜2×10−3だけクリープ歪が増加すると3次クリープがはじまることになる.

試験開始時点でこれ以上の情報はなく,クリープ応力は見切り発車で30%として試験を開始した.

2・3 実験装置

図2に空圧式クリープ実験装置を示す.基本的には既報(大久保・西松,1986)で述べたものと同じであるが,一つ一つの機器や部品の選定には充分に気を配ったつもりである.コンプレッサーは,市販のタンク容量30dmで最大常用圧力1MPaのものを使用した.これは,2回目の試験の最中に破損した.破損はモータに繋がった動力線が焼き切れるというものであった.おそらくモータ軸受けの油が切れて焼きついたものと思われる.なお,コンプレッサーは,上限と下限圧力を設定し,圧力が下限まで下がるとモータが回転をはじめ,上限に達するとモータの回転が止まる.概略の連続モータ回転時間は1分程度で,次回の運転までの時間は2〜3時間である.減圧弁は,米国Bellofram社製のもので,出口圧力を0.014〜0.84MPaの範囲で設定でき,設定圧の長期変動は0.001MPa程度であった.空気圧シリンダーは,Bellofram社製の有効受圧面積141cmのものであり,ベロフラムと呼ばれる一種の風船がシリンダー内にあり,空気の漏れ止め用のシールが使われていないので,圧力×有効受圧面積でもって荷重が精度良く計算できる.

変位計は,(株)東京測器研究所製の測定範囲±2mmシングルカンチレバー式のものを使用した.歪増幅器は,(株)共和電業製の印加電圧が直流式のものを使用した.これは,前述のように途中で1回の交換を要した.このアンプの出力を,(株)アドバンテスト製のディジタルボルトメータに導き,さらにGPIBにて計算機に取り込んだ.

圧力は,減圧弁で制御されるが,モニター用として歪ゲージ式の圧力計とブルドン管式圧力計(0.5級)で常にモニターした.