田下凝灰岩の長期クリープ試験と構成方程式
4.構成方程式による検討

4・1 1次クリープをあらわす構成方程式

以下の議論では,簡単のため,荷重条件を一軸圧縮応力下に限ることにする.

既報にてコンプライアンス可変型構成方程式を提案した(大久保ら,1987).この構成方程式は,見かけ上コンプライアンスλ=ε/σが時間とともに変化するとしたもので,取り扱い易い変数分離形の場合には次のように書ける.

(3)

なお,簡単のため(3)式のλはλを初期値λ0で基準化した値(λ=λ/λ0)とする.また,σは応力σを一軸圧縮強度σcで基準化した値(σ=σ/σc)とする.(3)式において右辺が,g(σ) =a(σ,f(λ) =(λのように近似できる場合について,解析(大久保,1992)と数値計算(大久保ら,1998)で調べた.

(4)

その結果,例えば,岩石の一軸圧縮強度の載荷速度依存性がかなりよく再現できること,また,応力―歪曲線についても強度破壊点以降まである程度近似できることが判明した.しかしながら,これをそのままクリープに適用しようとすれば,(4)式から直ちにわかるように,dλ/dtに比例するクリープ歪速度dε/dtは,時間経過にともない単調増加することになる.すなわち,(4)式は1次から3次までのクリープの内,3次クリープ相当分を主たる対象としたものといえる.

これまでの実験結果で判明していることは,極端に高い応力レベルでない限り,載荷後しばらくの間,次第に歪速度が減少する1次クリープないし過渡クリープと呼ばれる区間があることである(たとえばCruden,1971).

1次クリープでは,時間の経過(コンプライアンスの増加)にともなってクリープ歪速度が減少していくことを,構成方程式に取り入れるために,(3)式に立ち返ってf(λ)の関数形を再考することにした.この場合,f(λ)の満たすべき要件の一つは,λの増加にともなって次第に減少していくことである.(4)式の場合にはべき乗f(λ) =(λで近似したので,若干の試行錯誤の後,今回は(λ−1)のべき乗で次のように近似してみることにした.

(5)

まず,応力が一定のクリープの場合について調べる. x=λ−1とおけば,(5)式は次式となる.

(6)

(7)

積分範囲をx=0〜x,t=0〜tとして,結果を整理すると次のようになる.

よって,コンプライアンスとその変化速度は次式となる.

(8)

(9)

初期弾性歪を差し引いたクリープ歪εc(=εc/σcλ0=σ(λ−λ0)/σcλ0)と歪速度は次のようになる.

(10)

(11)

前に述べたようにσは応力σをσcでわって基準化した値である.これと呼応して,上式の歪εも(λ0σc)でわって基準化した値(ε=ε/(λ0σc))である.結果的に(1)式と(10)式,(2)式と(11)式は同じ形の式となり,対応する定数の関係は次のようになる.

前にも述べたように,(1)式と(2)式は従来からよく使用されてきた実験式である.本節の検討では,構成方程式の形を適当に仮定することにより,このごく一般的な実験式と一致する解にたどり着いたわけである.

クリープ応力を変えたクリープ試験をおこない,同じ経過時間におけるクリープ歪ないしクリープ歪速度から,(1)式と(2)式のνを求めることができる.一方,(8)式からわかるように,nを求めるためには,コンプライアンスが同じになったときの経過時間を算出基準とする必要がある.この点は重要なので次節で説明する.

4・2 応力依存性をあらわすパラメータνとn

前にも述べたように,(1)式と(2)式とはよく使用される実験式であり,3.1節で例を示したようにασνとμを実験結果から求めることが可能である.さらに,応力レベルを変えたときのασνの変化からνを求めることができる.応力依存性を決めるべき乗数がどのよう値になるかは粘弾性論では極めて重要あり,その値がどの位であるかによって粘弾性の生ずる機構がある程度絞られる(上田,1974).別のそしてより一般的な言い方をすれば,応力依存性を決める関数が同じであれば,クリープの機構が同じである可能性が高く,その前提のもとに研究を進めるのが妥当であるが,もし,応力依存性を決める関数が異なれば,違ったクリープ機構である可能性が高いので,その場合に即した研究方針を採用すべきであろう.

そこで問題となるのは,応力依存性を決めるべき関数をどのように考え,どのように求めるかである.一つの考え方は,(1)式ないし(2)式のνを重視する考え方であり,νを求めることが比較的容易であることもあって,比較的広くいきわたっている.たとえば,Ranalli(1987)は既往の研究をまとめて表にしているが,それをみると岩塩のνは5.3,花崗岩(気乾)は3.2などで,2〜5の間に入っていることが多い.著者の経験でも,比較的低い応力レベルでのデータを同様に整理すると,ほぼこのくらいの値になる.問題は,ασνのνが,本質的な値なのか,あるいは他の現象の影響が紛れ込んだ値なのかをみわけることである.

今回構成方程式より導いた(8)〜(11)式では,応力依存性はσ1+n/(m+1)のようにあらわさるので,nとmとを当然ながら区別するべき値である.ちなみに,2.2節で述べたクリープ寿命から得られたn=27をnに,3.1節で得られたμをmに,νそれぞれ代入して=1+n/(m+1)を計算するとν=3.7となるが,これは従来の知見の範囲内(2〜5)である.もし,この議論が正しければ,応力レベル30%から高応力レベルまで,同じ応力依存性の関数σnで近似でき,この範囲の応力でクリープの生ずる機構がさほど変化していないと考えて研究を進めることができるし,今後さらに研究が進めば,比較的高い応力レベルでの試験結果を,応力レベル30%程度まで外挿できる可能性もあるといえる.

4・3 歪増分を考えた構成方程式との比較

クリープ歪をコンプライアンスの変化とみなす方式のほかに,非弾性歪ε(irreversible strain)の増加と考える方式もある.後者では(5)式に対応する構成方程式は次のようにかける(大久保・西松,1986).

(12)

これを解いて得られるクリープ歪とその速度は次のようになる.

(13)

(14)

これからわかるように,σにかかるべき数が,1+n/(m+1)からn/(m+1)へと1だけ減少していることがわかる.具体的な数を仮にn=27,m=9として計算すると,3.7と2.7となる.現在適当な手持ちのデータがないのではっきりしたことは言えないが,現在の実験精度で判別できる程度の差があるので,今後比較的短期間でどちらがより真実に近いかがわかる可能性がある.

4・4 応力依存性をあらわす関数に関して

応力をあらわす関数形として,べき乗則のほかに,exp(δσ)とかsinh(δσ)が使われることがあり(たとえばCristescu & Hunsche,1998),どれがよいかについては定説がない.今回提案した構成方程式においても,3者のいずれが正しいかについては,今後さらに広範囲の実験結果を積み重ねて検証していく必要があると言える.以下では,関数形を変えたとき,得られる解にどのような変化が生ずるかについて少し検討してみることにする.

それぞれに対応する構成方程式は次のようになる.

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(16)

解は次のようになる.

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(19)

(20)

これからわかるように,σがそれぞれ exp(δσ)かsinh(δσ)に置き換わるだけである.参考までに記しておくと,非弾性歪εを考えた構成方程式でも事情はほとんど変わらない.ここで重要なのは,exp(δσ)にしてもsinh(δσ)にしても,低応力レベルにおける過渡クリープにおける応力依存性をあらわす中括弧は1/(m+1)乗となる点で(10),(11)式と同じである.