岩石の強度とクリープ寿命の分布特性に関する一考察
2.理論的な背景

用語と記号の説明を主たる目的として,確定論と確率過程論について述べる.ただし,両者の全般を網羅するのではなく,本論文で特に重点を置く構成方程式(確定論)と2状態1段ポアソン過程(確率過程論)に絞って述べることにする.

2.1 確定論(構成方程式の定数)

確定論では,個々の試験片の強度があらかじめばらついていると考えて,適当な分布(例えばワイブル分布や対数正規分布)を用いて検討することが多い.ここでは,試験片強度のばらつきを構成方程式中の定数にどのように反映させるかを考えてみる.構成方程式としては,大久保6)が提案したコンプライアンス可変型構成方程式を取り上げる.

 (1)

λは,その初期値λ(ヤング率の逆数)で無次元化した無次元化コンプライアンス(=λ/λ)である.mは応力−歪曲線の形状を左右する定数で,この値がおおきいほど強度破壊点以降の応力低下が急激になる.nは,破壊現象の応力依存性を左右する定数で,この値がおおきいほど非線形性が高くなる.定数αと破壊現象の進む速度は比例するので,クリープ寿命は1/αに比例し,強度σcは(1/α)1/(n+1)に比例する6).強度の載荷速度依存性,クリープ寿命の応力依存性を含めて,Table 1にまとめて示す6).

構成方程式には,m,n,αの3つの定数が含まれるし,他に試験条件のCも変動する可能性がある.そこでこれらが変動したときの強度に及ぼす影響を調べてみた.定応力速度試験では,応力速度をC=(dσ/dt)として,強度σcは次式であらわされる.

  (2)

基準値を仮にn=40,m=20,C=1MPa/s,α=1(MPa)-nsとした例を示すが,Table 2(a)に示すように,nが35から45と相当に変動しても強度の変化はわずかである.ほぼ同様なので数値例は示さなかったが,mが変動しても強度の変化はわずかである.また,Table 2(b)に示すように,応力速度Cが±5%変動したとしても,強度の変化は±0.12%と小さい.基準値を変えて計算しても,m,n,Cが考えられる範囲で変動したときの強度の変化は高々0.2%程度であり,実際の試験における4〜10%程度におよぶ強度のばらつきを説明できない.なお,定応力速度試験について検討したが,定歪速度試験についても同様の結論が得られる.

そこで,1/αが形状母数b/(n+1)のワイブル分布に従ってばらつくと仮定して議論を進めることにした.このように仮定すると,Table 1に示すようにクリープ寿命は形状母数b/(n+1),強度は形状母数bのワイブル分布に従う.なお,1/αの分布としては,正規分布や対数正規分布も考えられるが,扱い方や数値計算法に関して大きな違いはないことを断っておく.

2.2 確率過程論(2状態1段ポアソン過程)

強度試験,クリープ試験などにおいて,荷重の加わった試験片の内部では,微小亀裂の発生や伸展,さらには主亀裂への結合などが段階的に生じており,一般的にはi+1状態i段確率過程として扱うべきであろう.しかしながら,取り扱いが煩雑でかえって本質を見失うおそれがあるので,本論文ではもっとも簡単で解析的に扱える2状態1段ポアソン過程についてのみ検討することにした.この2状態1段ポアソン過程で,強度と寿命のばらつき,気乾状態と湿潤状態でのばらつきの比較,異なる岩種間でのばらつきの比較は可能と考える.

2状態1段ポアソン過程について,次のように記号を定めて議論を進めることにする.

p(t):時刻tまでに破壊がおこらない確率(残存確率)

r(t):遷移確率

q(t):頻度分布.破壊がtとt+dtの間で発生する確率

q'(σ):頻度分布.破壊がσとσ+dσの間で発生する確率

クリープ実験ではr(t)は一定とみなすと,寿命は次式のポアソン分布に従う5).

(3)

この場合には,縦軸をp(t)の対数,横軸をtとしたp-t線図は直線となる.また,簡単な計算より寿命の平均値は,1/rであることがわかる3).

強度試験では,応力の増加にともなってr(t)が変化する.定応力速度試験では,応力速度をCとして,σ(t)=Ctと書ける.ここでr(t)を次のように置くことにする.

(4)

若干の計算の後に,強度は次式のワイブル分布に従うことがわかる3).

(5)

(5)式中の尺度母数aと形状母数bは次のようになる.

また,強度の載荷速度依存性,クリープ寿命の応力依存性に関しては,Table 1に示すようになる3).なお,確定論で導入したパラメータnと確率論で導入したnは,両者とも強度の速度依存性やクリープ寿命の応力依存性を等しく説明する共通のパラメータとなっており,以下で示すように,強度とクリープ寿命からもとめられるnは多くの場合によく一致する.