岩石の強度とクリープ寿命の分布特性に関する一考察
5.考察

5.1 周圧の影響

一軸圧縮応力下における強度やクリープ寿命のばらつきに関する研究はかなりなされてきたが,三軸圧縮応力下におけるばらつきの研究は少ない.しかし,地下の応力状態は三軸応力であり,三軸応力下でのばらつきの議論は重要と考えられる.

良く知られているように,Griffithはクラックが進展しはじめる条件について検討を加えた.これを引き継いでMcClintock and Walsh16)やWalsh & Brace17)は,閉鎖したクラックの進展について議論した.その検討結果によれば,周圧pでの強度CMは次式となる.

  (6)

ただし,Cは一軸応力下での強度,μはクラック内面間の摩擦係数である.また,ここでいう強度(minimum value of the fracture stress)とは,亀裂が進展しはじめるときの応力であり,通常の物質では,これより若干高い応力になってはじめて試験片の破壊が生じる.しかしながら,(6)式は実験結果をかなり良く説明しているし16)17),古くからしばしば使用されている直線包絡線説との整合性もよいので,以下でおこなうような定性的な検討には十分と考える.

単純に考えれば,三軸圧縮応力下での強度のばらつきは,

(右辺第1項のばらつき)+(右辺第2項のばらつき) =(一軸圧縮強度のばらつき)+(μに起因するばらつき)×p (7)

となるはずである.もし,μに起因するばらつきが無視できるときには,標準偏差は周圧によらないことになり,変動係数は強度の増加に反比例して低下する.

今回の検討対象とした3岩石中の幌延泥岩では,周圧により顕著に変動係数が低下した.幌延泥岩は泥土が圧縮脱水しながら固化したものと類推され,Fig. 9 に示す薄片の写真からわかるように,粒径の揃った微小粒子の集合体で,三城目安山岩と田下凝灰岩に比べ均質性が高い.これから考えて試験片内におけるμのばらつきは比較的小さく,(7)式右辺第2項のμに起因するばらつきも小さい可能性がある.なお,三城目安山岩と田下凝灰岩の薄片の写真は既報18)を参照されたい.

三城目安山岩と田下凝灰岩では,変動係数や形状母数bは周圧によりおおきく変動することはなかった.μに起因するばらつきが比較的おおきいことが一因として考えられる.三城目安山岩は,空隙を多量に有する灰白色安山岩で,ガラス質の石基中に,紫蘇輝石,普通輝石,斜長石,磁鉄鉱の斑晶を含む18).また,田下凝灰岩は,空隙率が20〜30%程度の多孔質であり,溶結構造と思われる流理面が見られる.大谷石の下位の層準に位置する凝灰岩であるが,大谷石に比べて特に方解石が発達して硬くなっている部分がある18).以上からわかるように,幌延泥岩と比較して両岩石とも不均質といえ,摩擦係数μのばらつきもおおきい可能性がある.

参考までに, Weibull分布を仮定して,3岩石の実験結果から計算したC,μおよびμ'=2μ /{ (1+μ2)1/2 - μ}の尺度母数と形状母数をTable 6に示す.幌延泥岩のμの尺度母数は,0.8であり,田下凝灰岩の0.6と三城目安山岩の0.9の中間となった.いずれのμも岩石を互いに擦り合わせたときの摩擦係数より相当におおきいが,これは既に指摘されていることである16).また,幌延泥岩のμの形状母数が49.5とおおきく,ばらつきが小さいことが目立つ.三城目安山岩と田下凝灰岩のμの形状母数はそれぞれ17.0と16.3であり,かなり似た値となった.

以上では,亀裂の大きさと同程度の寸法における摩擦係数のばらつきにおいて,幌延泥岩と他の2岩石では差があるのではないかとした説明をした.もう一つ考えられる説明は,破壊様式が幌延泥岩と他の2岩石とではやや異なることを根拠としたものである.幌延泥岩では,一軸圧縮応力下および三軸圧縮応力下における破面はかなり明瞭で,他の2岩石と比較して凹凸の少ないせん断面が形成される.この場合には,亀裂と同程度の局所的な摩擦係数のばらつきではなく,ある程度の大きさを持った面上の平均値がみかけの摩擦係数として破壊に関与してくると考えられる.良く知られているように,平均値のばらつきは個々の局所的なばらつきよりも小さいので,幌延泥岩では,三軸圧縮応力下での強度のばらつきが比較的小さかったと考えられる.

三軸圧縮応力下での強度のばらつきは,いずれにしろ摩擦係数のばらつきと関係が深いと考える.以上では2つの可能性を指摘しておいたが,第一は,亀裂長さと同程度の寸法で考えた微視的な摩擦係数のばらつきである.第二は,局所的ではなくかなりの範囲にわたる巨視的な摩擦係数のばらつきである.さらに,両者が,ともに関与し複合している可能性もある.

摩擦係数のばらつきの原因は大別して,岩石組織自体のばらつきと含有物・介在物のばらつきとにわけられると考えている.後者について述べると,例えば試験片内の水分の偏在などが候補としてあげられるので今後検討していくつもりである.

5.2 寸法効果

試験片で測定した強度を岩盤内構造物に応用するとき重要なのが,寸法による特性の変化で寸法効果と呼ばれている.寸法効果のうち,特に重要でこれまでに多くの研究がなされてきたのが寸法の増大による強度の低下であり,10種類の岩石を用いた試験結果をまとめて次式が提案されている19).

  (8)

極値統計学では,個々の試験片の強度がワイブル分布に従う場合には,(強度の最小値)∝1/(試験片個数)1/(b+1)となる.構成方程式と極値統計学の融合に関して定説はないが,もし仮に,構成方程式中のαが試験片体積Vに比例するとすれば,Table 1に示した次式が成り立つ4).

  (9)

Table 3に示した一軸圧縮応力下での試験結果では,bの範囲は10〜33であり,(9)式中のべき数1/(b+1)は0.029〜0.091となる.また,bの単純平均値は22であり,これに対応するべき数1/(b+1)は0.043となる.(8)式で示された結果と比べると,若干の差はあるがほぼ妥当な結果が得られたといえる.今後の検討が必須であることはいうまでもないが,構成方程式を有限要素法プログラムに組み込んで数値計算をおこなう場合には,要素の体積に比例してαを変えることも考えられる.

確率過程論でも,遷移確率mが試験片体積Vに比例すると考えることが多い3).この考えを採用すれば,定応力速度試験で(4)式が成り立つときには,次の関係が容易に証明できる3).

  (10)

Table 3に示した結果では,nの範囲は16〜41であり,(10)式中のべき数1/(n+1)は0.024〜0.059となる.また,bの単純平均値は30であり,これに対応するべき数1/(n+1)は0.029となる.よって,確率過程論から予想される寸法効果は,実際の寸法効果よりやや小さいことになる.確率過程論が厳密に成り立つのは均質な岩石ブロックから切り出した試験片を使用した時であり,実際には,強度のばらつきの場合と同様に寸法効果の場合にも,確率過程論から導かれる寸法効果は下限を与える可能性がある.確率過程論の立場より説明すれば,本質的な強度のばらつきにもとづく強度低下は(10)式であらわされるが,実際にはこれに加えて場所ごとの強度のばらつきにもとづく強度低下があり,加算した強度低下が実際にはあらわれることになる.

以上の議論でもっとも大きな仮定は,構成方程式のαないし遷移確率が対象とする物質の体積に比例するとしたことである.確率過程論では,1つの亀裂の遷移からマクロな破壊が発生すると考える.亀裂の数は体積に比例するので,遷移確率が体積に比例することになる.構成方程式におけるαは,(2)式からわかるように強度を決めるとともに,強度試験中の非弾性歪のおおきさも左右する.したがって,体積によりαを変える事は,非弾性歪の寸法効果を認めることになる.今回文献等を検索した限りでは,これの真偽を検証できる実験結果を見出せなかったので,今後の検討課題としたい.