インデント型鋼繊維の引抜抵抗に関する研究
3.試験結果

3..1 モルタルの力学試験結果

Table 3にモルタルの力学試験結果をまとめて示す.一軸圧縮強度は,最初の14日間,材齢に従って増加していくが,その後の変化は比較的小さい.詳しく見ると,21日目から28日目にかけて若干低下する傾向が見られる.同様の傾向は,コンクリートを空中養生した場合に得られることが知られている10).圧裂引張強度も最初の14日間,材齢に従って増加していくが,その後の変化は比較的小さい.なお,一軸圧縮強度,圧裂引張強度ともに,実際の現場で用いられる標準的なモルタルと大きな違いはないと考えている10).

3.2 引抜抵抗曲線

最大引抜抵抗の材齢による変化をFig. 4に示すが,モルタルの一軸圧縮強度と同様に,最初の14日間,材齢に従って増加していくが,その後の変化は比較的小さい.そこで,以下の検討では,7日目の試験結果は採用せず,14日目以降の試験結果については,ほぼ同等であるとみなして区別しないことにする.

Fig. 5に第1回の鋼繊維引抜試験で,材齢28日目に得られた標準的な引抜抵抗曲線を示す.最初,ロードセルによって測定された引抜抵抗は,差動変圧器によって測定された変位に比例して増加していく.引抜抵抗が100N程度になると,次第に引抜抵抗曲線の傾きは緩やかになっていき,変位0.5から2.0mmで最大引抜抵抗に達する.その後,引抜抵抗は徐々に減少していき,変位6.5から9.5mmで零となる.以上で述べた引抜抵抗曲線の傾向は,材齢によってほとんど変化しなかった.第2回や第3回の試験で得られた引抜抵抗曲線の傾向も同様であった.

最大引抜抵抗に達した後の引抜抵抗曲線は,試験片ごとにかなり異なる.そこで,Fig. 6に示すように,引抜抵抗曲線をその形状によって4つの様式に分類した.
様式1:最大引抜抵抗に達した後,引抜抵抗が徐々に減少する.  
様式2:最大引抜抵抗に達した後,引抜抵抗がほぼ一定となる区間がある.  
様式3:鋼繊維が破断する(Fig. 7).  
様式4:円柱状のモルタルの小片が鋼繊維とともに抜ける(Fig. 8).
Table 4からわかるように,4つの様式の内,様式1が全体の80%を占めており標準的な様式といえよう.様式3と4は,少数ではあるが,鋼繊維が徐々に抜けるという想定していた引抜形態にはならなかった例といえる.なお,様式3で得られた最大引抜抵抗から鋼繊維の引張強度を計算すると1.1GPaとなるが,これは繊維状の普通鋼としては妥当な値といえる.

3.3 最大引抜抵抗と引抜エネルギー

Fig. 9に最大引抜抵抗Pmax[N]と鋼繊維のモルタルへの埋込深さl[mm]との関係を示す.なお,横軸の埋込深さは引抜試験後に実測した値であり,±2mm程度のばらつきがみられる.様式1については,若干上に凸の曲線となり,最小二乗法で近似すると下記が得られた.

Pmax=37・l0.8  (1)

この場合の決定係数は0.49であった.なお,(1)式の他に直線近似も試みたが,決定係数は0.41と(1)式の場合よりわずかではあるが小さかった.

Pmax/l=37/l0.2  (2)

(2)式左辺は単位長さ当たりの最大引抜抵抗であり,これは(2)式右辺のべき数0.2で示されるような寸法効果を示すといえよう.岩石をはじめとする脆性材料の強度も,代表長さの0.1から0.3乗に反比例して低下することが多く11),今回得られたべき数0.2は標準的な範囲内にあるといえよう.

(2)式の両辺を,鋼繊維の周長=π・(換算直径)=3.14×0.6[mm]で割って,見かけの付着力τmax[MPa]を求めると次式となる.

τmax/l=20/l0.2  (3)

(3)式で埋込深さを10mmとすれば,見かけの付着力は12.4MPaとなり,これはモルタルの一軸圧縮強度σcと圧裂引張強度σtから計算されるせん断強度の約1.5倍である11).

Fig. 9からわかるように,様式2は(1)式の近似曲線より少し下に位置し,最大引抜抵抗が比較的小さかったことを示す.一方,様式3は近似曲線より上に位置し,鋼繊維とモルタルとの付着抵抗が大きかったことを示す.様式4は近似曲線の周りに分布し,この観点からみれば,様式1と変わらなかった.

Fig. 10に引抜エネルギーと埋込深さとの関係を示す.引抜エネルギーE[N・mm]は,引抜抵抗曲線の下部面積(試験開始から引抜抵抗が零となるまでの積分値)とした.様式1については,若干下に凸の曲線となり,最小二乗法で近似すると下記が得られた.

E=16・l1.7  (4)

様式1の場合には,最大引抜抵抗Pmaxを高さとし,底辺の長さがlである三角形の面積から引抜エネルギーEを計算してみると次式となる.

E=0.5・Pmax・l=19・l1.8  (5)

単純な計算であるにもかかわらず,得られた(5)式は,(4)式と大きく違わないことがわかる.

様式2の最大引抜抵抗は比較的小さかったにもかかわらず,引抜エネルギーはほぼ近似曲線上に位置する.最大引抜抵抗が小さいことは,鋼繊維とモルタルとの付着が不十分であったことを意味するであろう.それにもかかわらず,引抜エネルギーは正常と思われる様式1と同等であることは,興味深い.現場で鋼繊維を用いた場合,場所ごとの付着力のばらつきがあったとしても,ある程度の安定した効果が期待できる可能性があり,今後検討する価値のある現象といえよう.

様式3の最大引抜抵抗は比較的大きかったが,鋼繊維の破断により極めて小さな変位しか生じないので,引抜エネルギーは小さい.様式4の最大引抜抵抗は様式1とほぼ同じであったが,試験半ばで円柱状のモルタルの小片が鋼繊維とともに抜けてしまい,比較的小さな変位で引抜抵抗が零となるので,引抜エネルギーは近似曲線より下に位置する.