インデント型鋼繊維の引抜抵抗に関する研究
4.引抜特性と一軸引張試験結果との関係

4.1 一軸引張試験における最大残留強度

福井ら2)が行った鋼繊維補強モルタルの一軸引張試験から得られた応力−歪曲線の例をFig. 11に示す.使用した鋼繊維補強モルタルの鋼繊維混入率は0,0.5,1.0,1.5%の4種類であり,試験片は吹き付けにより作製したものなので異方性がある.図に示したのは,引張方向に平行な面内に鋼繊維が配向している場合である.鋼繊維混入率の多寡にかかわらず,約4MPaにてA点のピーク強度に達する.その後急激に応力が低下してB点の最大残留強度σBまで応力が低下するが,この最大残留強度は鋼繊維混入率に大きく左右される.最大残留強度はモルタルの寄与分σMBと鋼繊維の寄与分σSBの和と考えられる.

σB=σMB+σSB  (6)

単純に考えて,@鋼繊維は面内配向をしている,A鋼繊維と引張方向とのなす角度をθとして,分布密度関数はf(θ)=2/πと一定(一様分布)である,B最大引抜抵抗に関与する(引抜かれる側の)鋼繊維長lは鋼繊維の半長L0/2以下で,分布密度関数はg(lo)=2/Loと一定(一様分布)である,C鋼繊維の最大引抜抵抗は,埋込角度の影響を受けず(1)式が成り立つ,とすれば次式が成り立つ.

σB=11.8n Lo0.8/S  (7)

nは一軸引張試験終了後に破断した面に現れた鋼繊維の本数であり2),Sは試験片の断面積である.(7)式に鋼繊維長L0と,同一の混入率におけるnの平均値を代入すればσSBが求まる.ただし,福井ら2)と本研究で使用したモルタルの一軸圧縮強度は前者が高く,両者の比Rcは1.2であった.そこで,(7)式の計算結果に1.2を乗じてσSB を求め,これにσMBを足した値を計算値#1(Calculated #1)としてTable 5に示した.

計算値#1は,一軸引張試験から求めた値より15%から30%大きく,(7)式は鋼繊維の引抜抵抗を過大に見積もっていると考えられる.次に,有効な埋込深さは,破断面から載荷方向に測った深さl0cosθと考えて同様の計算を行い,計算値#2(Calculated #2)としてTable 5に示すが,一軸引張試験から求めた値より5%から10%小さくなった.

4.2 一軸引張試験における残留強度と変位の関係

Fig. 6(a)に示した標準的な鋼繊維の引抜抵抗曲線(様式1)では,ピークに達した後,ひび割れ幅Y[mm]のほぼ0.8乗に比例して引抜抵抗P(Y)[N]が減少し,近似的に次式が成り立つ.

P(Y)=Pmax−50・Y0.8  (8)

ただし,(8)式の右辺が負になった場合には,P(Y)=0とした.P(Y)を断面積で除して求めた応力σS(Y)とモルタルの応力σM(Y)を足せば,残留強度σ(Y)となる.Fig. 12に,計算結果と試験結果2)から得られた応力−変位曲線を示した.太線はPmaxとして計算値#1を採用した場合であり,○は計算値#2を採用した場合の計算結果である.

Fig. 12(a)の鋼繊維混入率0.5%では,計算値#1と#2の間に3本中2本の試験結果が挟まれている.しかし1本だけは,計算値#2よりもかなり大きな残留強度を示した.破断面における鋼繊維の本数としては,平均値を用いて計算値#1と#2を求めたが,実際の破断面における鋼繊維の本数はかなりばらつく2).この例の場合には,破断面における鋼繊維本数が平均値より多かった可能性が高い.Fig. 12(b)の鋼繊維混入率1.0%では,4本の試験片中の1本だけが計算値#1よりかなり小さい残留強度となった.この例の場合には,破断面における鋼繊維本数が平均値より少なかった可能性が高い.Fig. 12(c)の鋼繊維混入率1.5%では,3本の試験片とも計算値#1と#2の間に収まった.このように,試験結果には破断面における鋼繊維の本数が原因と思われるばらつきが見られたが,例外的な場合を除いて,試験結果は計算値#1と#2の間に収まるといえよう.