長尺さく孔におけるさく孔深さの影響
4.さく孔速度の変化に関する考察

4.1 孔壁との摩擦

さく孔深さ50 mでロッドは17本となり,ロッド重量は3.5 kNに達するので,ロッド長がある程度になるとたわんで孔壁に接触する.さく孔深さの増大による回転トルクの増大は,ロッドと孔壁の摩擦によるものと考えられる.

図6には破線で近似曲線も示したが,鈴鹿花崗岩では50 mのさく孔深さの増加により回転トルクは38 Nmの増加である.これがロッドと孔壁との摩擦であるとすると,摩擦力は38 Nmをロッド連結部の半径23 mmで除した1.7 kNとなる.この1.7 kNがロッド重量3.5 kNに対する摩擦力であると仮定すると,摩擦係数は0.5となり,摩擦係数としてはやや大きめの値となる.鮎川層群では50 mのさく孔深さの増加により回転トルクは19 Nmの増加であり,これより計算した摩擦力および摩擦係数はそれぞれ0.8 kN,0.25と鈴鹿花崗岩の約半分となる.おそらく,鈴鹿花崗岩では硬質のずりがロッドと孔壁との間にかみ込み易いので,みかけの摩擦係数が大きくなったと推定される.

なお,オイラーの式によって座屈の計算を行うと,両端固定の場合でロッドの座屈長は6.5 mとなるが,試算によればロッドを孔壁に押しつける力は,ロッド重量に起因する力に比べ小さいため,無視した.

さく孔方向の摩擦係数もほぼ同じと考えると,ロッドと孔壁の摩擦力はスラスト10 kNの8 〜 17 %であり,ビット先端でのスラストがこの分低下していることが考えられる.

大久保13)は摩擦力を考慮したさく孔過程の数値計算を行い,スラスト10 kNに対して,摩擦力3 kNでもさく孔速度の低下は1 %であるとしており,ロッドと孔壁の間での摩擦のさく孔速度への影響は小さいものと考えられる.

4.2 ロッドでの弾性波の減衰

長尺さく孔では,数多くのロッドがロッド連結部によって継がれる.ロッド連結部でインピーダンスが変化するので,弾性波の一部が反射し11),ねじ部での減衰も生じる12).Lundberg11)はインピーダンスの変化を考慮した数値計算によりさく孔深さによるエネルギー効率の変化について報告している.大久保ら14,15)はロッドとロッドの突き合わせ部分をばねでモデル化し,ロッド連結部を通過した弾性波の波高およびエネルギーは減少し,波長は長くなることを指摘している.

今回はさく孔深さ50 mで17個のロッド連結部が存在する.ロッド連結部1個あたりのさく孔速度の減衰率を1.5 %とした場合のさく孔速度を図4に階段状の実線で示した.大局的には階段状の減衰曲線はさく孔速度の低下傾向を表現しているといえる.大久保ら15)はスリーブ式継ぎ手のエネルギーの減衰率を実験的に調べ,2.9 %であったとしている.掘削体積比エネルギーが一定であると,エネルギーとさく孔速度の減衰率は同じとなるので,さく孔速度の減衰率も2.9 %となる.今回のロッド連結部はインピーダンスが大きく変化するスリーブ式継ぎ手ではないため,効率的であったことを考慮すると,妥当な結果であると考えられる.

4.3 反射波との干渉

ロッドを伝播した弾性波の一部は岩盤で反射し戻ってくるが,その一部は再度反射し,反射波として伝播する.長尺さく孔では,この反射波と打撃による弾性波の干渉が考えられる.1分あたりの打撃数を3,500とすると打撃間隔は17 msであり,43 mのロッドを弾性波が往復する時間と打撃間隔はほぼ一致する.ロッド長43mの場合,さく孔深さは38 〜 41 mに相当し,図4の測定結果ではこの区間においてさく孔速度が大きくなっていることがわかる.この43 mの1/2の21 m(2往復)や1/3の14 m(3往復)のロッド長でも反射波との干渉が生じる可能性がある.図4でこれらに対応する区間を示したが,2往復となるさく孔深さ16 〜 19 mおよび3往復となる10 〜 13 mにおいて,さく孔速度は確かに極大値をとっている.

このように反射波との干渉によって,さく孔速度が変化するかを調べるために,大久保13)で提案したさく岩機のモデルを用いて数値計算で検証することにした.ただし,さく岩機の数多くの常数はお互い複雑に関連し,その常数を決定することは別途に多くの実験データを要するため,今回の数値計算では大久保13)と同じとした.そのため,打撃数は本研究の3,500 bpmに比べ,2,250 bpmと少ない.また,4.2で述べたように,ロッド連結部での弾性波の減衰を考慮することとし,3 mあたり1.5 %減衰するとした.数値計算結果を図10に示す.図ではさく孔深さ12 mまではさく孔速度が低下し,その後30 mまでは徐々に増加し,その後減少に転じている.打撃数2,250 bpmの場合,ロッドを2往復伝播するさく孔深さは30 m付近となり,反射波の干渉によってさく孔速度が増加する現象を表している.ただし,さく孔速度がさく孔深さにより複雑に変化しており,その詳細は今後の課題としたい.

反射波との干渉によるさく孔速度の変化は比較的容易に想像できるが,過去の研究でこの影響が表れることを明示した原位置測定結果は著者の知る限りなく,本研究ではじめて指摘した事項と考える.

4.4 さく孔深さの影響の除去

さく孔速度Vを,さく孔深さLとそれ以外(岩盤特性,測定誤差など)σによるものに分離する.

V=f(L,σ)  (1)

ここで,Lとσが変数分離形で表されるとすると次式となる.

V=f1(L)・f2(σ)  (2)

何回か行ったさく孔試験において,さく孔深さLでのさく孔速度の平均値Vave(L)は次式となる.

Vave(L)=f1(L)・f2ave(σ)  (3)

ただし,f2ave(σ)はf2(σ)の平均値を表す.さく孔速度V(L)をVave(L)で正規化したV(L)は次式となる.

(L)=f2(σ)/f2ave(σ)   (4)

本研究のようにデータ数が多い場合には,大数の法則によりf2ave(σ)はほぼ一定値と考えられるので,V(L)はf2(σ)に比例することとなり,さく孔深さの影響は現れないはずである.

図11に鈴鹿花崗岩でのさく孔深さごとのV(L)の累積確率を示すが,さく孔深さの影響は小さいといえよう.さく孔深さごとのさく孔速度の平均値と,標準偏差の関係を図12に示す.図でばらつきはみられるものの,平均値と標準偏差には原点を通る比例関係が見られる.変動係数(=標準偏差/平均値)も示したが,ほぼ0.25と一定値となった.よって,式(2)のように,さく孔速度に対するさく孔深さの影響は変数分離形で表される可能性が高い.