TBMの掘削抵抗を利用した岩盤分類(平谷トンネル)


3.工事概要とTBM

本研究では,平谷水力発電所新設工事の導水路トンネルのTBM掘削結果を対象とする.平谷水力発電所は,図1に示すように長野県南部と岐阜県境に位置する矢作川上流の上村川と合川から最大8.5立方m/sを取水し,3本の導水路トンネルにより最大8,100kWの発電を行うものである.TBMで掘削した区間は,平谷トンネルと合川トンネルのうち3032mであり,その岩種区分を表1に示す.中生代の天竜花崗岩が主体で,トンネル壁面の観察で領家変成岩が現れた区間は全体の25%程度であった.天竜花崗岩は,主として石英,長石などの鉱物粒子が大きい粗粒花崗岩で,一部に黒雲母,角閃石などの有色鉱物の含有が少ない優白色花崗岩と,鉱物粒子が細粒の細粒花崗岩からなる.天竜花崗岩の室内試験における一軸圧縮強度の最大は230MPaであり,比較的硬質な岩盤であった.領家変成岩としては,片麻岩,ホルンフェルス,変輝緑岩などが認められた.岩盤等級は,ハンマー打診での反発度・音色による風化度合いと,割れ目間隔により,表2に示す電中研式によって分類した.なお,以下で述べる距離程とは,平谷トンネルの坑口から130mのTBM発進地点から,合川トンネル方向に測った距離を表す.

表3にTBMの諸元を示す.一部に断層破砕帯などの弱層部が存在することが予想されたため,図2に示すような,フルシールドタイプのTBMを採用した.掘削径は2.6mであり,直径394mm(15.5in)のディスクカッタを19個,カッタヘッドに配置した.

式(3),(4)から,岩盤強度を推定するために必要な変数は,推力,トルクおよび切り込み深さである.容量1.029MNの油圧シリンダ4本によって推力を加えるので,各々の油圧シリンダの圧力に断面積を乗じた値を加算して推力FNを求めた.カッタヘッドは,2台の電動機(各150kW)によって駆動されている.電動機の力率は負荷によって変化するため,事前に電動機ごとに電流とトルクの関係を把握しておき,掘削中は比較的測定しやすい電流を計測してトルクに換算した.なお,式(2)のトルクTRは掘削に要したトルクであるが,無負荷回転時にも摩擦などの損失があるので,電動機の消費電力から無負荷回転時の消費電力を引いた値よりトルクを換算した.切り込み深さpは,カッタヘッド回転数と掘進距離から求めた.カッタヘッド回転数は累積回転計により,掘進距離は推力用のシリンダの変位を変位計により測定した.

さて,式(3),(4)より岩盤強度を消去すると,次式が得られる.

TR / (FN p^0.5) = c2 / c1(5)

式(5)より,TR / (FN p^0.5)は岩盤特性の影響を受けない定数となる.よって,もしこの値が大きく変動する場合には,データが正しく測定できているかどうかを吟味する必要がある.すなわち,TR / (FN p^0.5)と,各測定項目(推力,トルク,切り込み深さ)や距離程との関係を調べ,何らかの異常や不自然な傾向が見られた場合には,そのデータが正しく測定できていない可能性が高いので,測定方法や算出方法に関して見直す必要がある.

著者らは,これまで10本のトンネルの掘削データを整理し,上記に関する検討を行ってきており,各測定項目に関していくつかの留意点を見出した.

1)推力 岩盤強度が小さくなると,TR / (FN p^0.5)が小さくなることがある.例えば,泥岩のように粘着力の高い岩盤を掘削した際,シリンダの圧力から求めた推力においてTBM本体側部の岩盤との摩擦力が無視できなくなるためである.この場合には,摩擦力を別の方法で測定し,推力を補正する必要がある.

2)トルク 電動機の電流から,検定表(換算表)に基づいてトルクを計算している.実機に搭載した状態で検定することが望ましいが,実際は電動機単体の電流とトルクの検定表しか入手できないことが多い.そのため,インバータ制御によってカッタヘッドを低速回転した時などに,無視できない誤差が生じる.このような場合には,実機の無負荷回転を行って,オフセット(機械損失)を測定し,これを差し引くことである程度対処できる.

3)切り込み深さ カッタヘッドの累積回転数を測定していない場合には,掘進距離と掘進時間から掘進速度を求め,カッタヘッド回転速度で割って切り込み深さを求めることがある.掘削時間や停止時間の正確なデータの入手は困難であり,できれば累積回転計を装備することが望まれる.

4)距離程 距離程によって,TR / (FN p^0.5)が変化することがある.例えば,カッタの形状や,掘削ずり排出用のスクレーパの形状を変えたりした時である.式(3),(4)でc1,c2はTBMの諸元が変化しない場合に限って定数とみなせるが,装備が変われば当然変化するため,式(5)のc2/c1も変化してしまう.そのような場合には,新たにc1,c2を設定し直す必要がある.

今回のTR / (FN p^0.5)はばらつきはあるものの,過去に整理したものに比べ比較的少なく,しかも測定項目に関して系統的な傾向はなかったため,正しく測定できていると考えている.なお,掘進中の推力,トルクおよび切り込み深さはデジタルデータとして取り込み,1ストローク(同じグリッパ位置で掘削した距離に相当し,約1m)の間での平均値を求め,以降ではその値を用いて検討していくことにする.