TBMの掘削抵抗を利用した岩盤分類(平谷トンネル)


6.岩盤強度とカッタヘッド回転速度の関係

カッタヘッド回転速度を岩盤強度(岩盤特性)に応じて変化させることにより,次のような利点を得ることができる.@低速回転の場合には高トルクを発生させることができ,高トルクが必要な粘着力の大きい岩盤も掘削することができる,Aずりの取り込み量を制御することによって切羽の崩壊を防ぐ,B適切な回転速度を選んでカッタ摩耗を押さえつつ,目標とする掘進速度を実現できる.そのため,最近のTBMではカッタヘッド回転速度を可変とする機構を有しているものが多く,本TBMでもその機構を有している.しかしながら,実際,回転速度をどのように調整して施工されているのかなど基本的な事項についての報告や研究はほとんどみられない.そこで本章では,実用上重要なカッタヘッド回転速度に関する検討を行う.

図3に距離程2500〜2900mの掘進速度の変化を示した.距離程2700〜2800mの間では,掘進速度は0.6mm/s程度であり,それ以外の区間ではほぼ1mm/sと一定である.TBM工法では,掘削ずりの排出能力や,支保の建て込みなど後続作業の追従性から,掘進速度が制限される.そのため,施工上,通常掘進する速度(ここでは標準掘進速度と呼ぶ)をあらかじめ設定し,この速度をなるべく維持しようとすることが多い.本トンネルでは1mm/sを標準掘進速度としてTBMを操作したので,ほとんどの区間でこの標準掘進速度となった.しかし,2700〜2800mでは岩盤が強固であるため,推力やトルクの限界から切り込み深さが小さくなり,標準掘進速度を満たすことができていない.

図3に距離程2500〜2900mのカッタヘッド回転速度の変化を示した.本トンネルでは施工中,TBMのカッタヘッド回転速度は毎分4,6,8,10回転の4段変速である.なお,3章の最後に示したように,データは1ストローク中の平均値である.図では岩盤強度の増減に伴い,回転速度も同じように増減させていることがわかる.すなわち,岩盤が強固になれば回転速度を大きくし,軟弱であれば回転速度を小さくしている.その傾向を調べるため,図6にカッタヘッド回転速度と,推力より推定した岩盤強度の関係を示す.図では,岩盤強度が大きくなるに従い高速回転で掘削していることがわかる.これは,岩盤強度が大きくなると,推力やトルクの限界から切り込み深さが小さくなるので,回転速度を上げることにより掘進速度を維持しようとTBMを操作した結果である.逆に岩盤強度が小さくなると,トルク,推力とも余裕が現れるので,低速回転でも標準掘進速度を満足することができる.さらに,低速回転ではカッタ摩耗の抑制と,ずりの取り込み量を制限し切羽崩壊を防ぐ意味もあるため,なるべく,低速回転を採用している様子がわかる.

図7に掘進速度と回転速度の関係を示す.カッタヘッド1回転あたり,同じ切り込み深さで維持していれば,回転速度に比例して掘進速度は増加することとなる.しかし図7で,8rpm以下では掘進速度は一定で,10rpmでは掘進速度は小さくなる様子をうかがうことができ,上記の内容と一致している.

以上の事項を整理するため,図8に掘進速度と岩盤強度の関係をカッタヘッド回転速度ごとに示す.なお,図には推力ないしトルクの上限から決まる限界曲線もそれぞれ実線と破線で示した.式(2)からわかるように,トルクと岩盤強度より切り込み深さが計算できる.切り込み深さと回転速度の積が掘進速度となるため,各回転速度におけるトルクの上限から,岩盤強度に応じた掘進速度の上限が決まる(実線).次に,回転速度によって推力の上限は変化しないので,式(1)からわかるように,切り込み深さの上限は岩盤強度のみによって決まる.こうして決まった切り込み深さと回転速度により,推力の上限で決まる限界曲線が求まる.図では,岩盤強度が60MPa以下で掘進速度は1mm/sとほぼ一定であるが,岩盤強度の増加に従い,掘進速度が小さくなっていることがわかる.また,岩盤強度が増加するに従い,回転速度も増加していることがわかる.岩盤強度が60MPa以下の軟弱部では,切り込み深さが大きくなるため,なるべく掘進速度を一定にするように回転速度を小さくしていることがわかる.これに対し硬岩部では毎分10回転の高回転速度で掘削を行っても,岩盤が強固になるにつれ掘進速度は小さくなっており,170MPa以上では出力可能な推力により,それ以下ではトルクにより制限を受けていることがわかる.

TBMでは操作室にある,推力,トルクおよび掘進速度の指示計や,排出される掘削ずりを見ながら回転速度や掘進速度の操作を行う.図6〜8の結果から具体的に操作状況を考えてみると,岩盤強度が大きい時には,回転数を10rpmとして,推力あるいはトルクを制限値近くになるようにし,掘進速度をなるべく大きくする.そのため,図8に示したように10rpmでは推力あるいはトルクの限界曲線に近い,掘進速度と岩盤強度の関係となる.逆に岩盤強度が小さいと推力やトルクに余裕があるので,標準掘進速度を満足する両者の組み合わせに選択の余地があり,Aで記した切羽の安定性,Bと関連するビット消費量の観点から比較的低速回転を選ぶ.以上の操作を行うことによって,図8の結果となったと考える.ただし,掘削当初はTBMの操作には慣れておらず,図8のように回転速度を的確に選定できておらず,数百m程度掘削していくうちに,試行錯誤的に把握している結果もうかがわれた.この点は,他のTBMの掘削データを整理しても現れている.

標準掘進速度は,掘削ずりの排出能力や,支保の建て込み能力などの後続設備に依存し,硬岩を掘削した場合,標準掘進速度からの低下度合いは推力とトルクの設計値に依存する.そのため,計画段階では図8の設定(標準掘進速度,推力およびトルクの設計値)としてどの程度にすれば最適であるかを的確に判断する必要があろう.

さて,国内でのTBM工法の多くは軟弱な岩盤を含むため,支保を行うことを前提としている.そのため,掘削径によって変化するが,標準掘進速度は通常1mm/s程度の数字となっている.他方,海外での事例で多いが,軟弱な岩盤がほとんどなく無支保を前提としている場合には,標準掘進速度はもっと大きな値を設定している.例えば,1997年当時,掘削径4〜5mのクラスで掘進速度の世界記録を樹立したリバーマウンテントンネルでは,できうる限りTBMの能力を大きくし,それに見合う掘削ずりの排出システムを導入し,標準掘進速度を2.5mm/sに設定している(青木・西岡,1997).このように軟弱な岩盤がほとんどなく,無支保で高速掘進が可能となるような場合には,カッタヘッド回転速度を最大にして掘進速度が最大となるように掘削が行われる.そのため,カッタヘッド回転速度を変化させる必要性はなく,TBMの構造も可変となっていない.すなわち,国内のように軟弱な岩盤が多く,支保を前提としてTBMが用いられている場合に限って,TBMの能力に余裕が現れるため,軟弱な岩盤では低速回転,硬質な岩盤では高速回転と,カッタヘッド回転速度を可変にすることに意味が現れる.本章の最初にあげた4つの利点も,軟弱な岩盤と硬質な岩盤が混在しているために現れるものである.