鋼繊維補強モルタルの耐久性に関する研究
1.はじめに

鋼繊維補強モルタルSteel Fiber Reinforced Mortar(以下,SFRMと呼ぶ)は,モルタルに鋼繊維を混入して,延性やひび割れに対する抵抗性を増したものであり,その利点を活かしてトンネルの支保工や覆工,法面の保護工,道路舗装などに用いられている1).このような用途においては,長期にわたる耐久性が求められ,SFRMにも数十年以上の耐久性が要求されている.

鉄筋コンクリートは,高アルカリ性環境のため,鉄筋の表面に不動態皮膜が形成され,鉄筋が錆びにくい環境にある.しかしながら,時間の経過とともに二酸化炭素の侵入によってコンクリートの中性化が進行したり,海岸付近では塩化物イオンがコンクリート中を拡散したりすることにより,鉄筋の皮膜が破壊され,腐食が進行していくため2),環境によっては,鉄筋の錆による体積膨張で短い期間でも,コンクリートが破損することが知られている3).SFRMは組成的に鉄筋コンクリートと同様であるため,経年的に腐食が進行することが考えられる.

コンクリートの耐久性として,1)中性化,2)塩害,3)凍結融解,4)化学的侵食,5)アルカリ骨材反応,が問題となっており2),SFRMでは中性化4−6),塩害7−11),凍結融解4,5,12,13),化学的侵食14)に関して研究報告がみられる.例えば,中性化に関して,横須賀6)は20年間屋外および標準水中養生した試験体の中性化深さを測定した結果,両者とも数mm程度と小さく,強度試験を実施しても両者には大差ないと報告している.塩害に関して,小林ら7,8)は海洋飛沫帯でSFRMの5年間の暴露試験をおこない,鋼繊維は表層部を除いてほとんど腐食しないのみならず,SFRM中の鉄筋の腐食を抑止する効果があると報告している.従来の研究の多くは,コンクリートに鋼繊維を混入することにより,表層部の鋼繊維が錆びるだけで,耐久性に問題があるとの報告はみられない.

土木学会コンクリート委員会2)は,コンクリートの劣化機構は複雑であり,耐久性に関する多くのデータを集め,検討する必要があると述べており,なるべく多くの調査・検討が必要である.しかしながら,SFRMの歴史は浅く,まだデータ不足の感がある.例えば,従来の研究は,試験体の屋外での暴露試験や,促進中性化試験や凍結融解試験のように腐食しやすい環境下での試験体の加速試験が主におこなわれており,現実に問題となる実施工での耐久性調査を含めた研究は,著者の知りうる限り報告されていない.

そこで,本研究では著者らが実施した以下に示す,3つのSFRMの耐久性調査を実施した結果について述べる.
a)1977年4月に坑道に吹き付けたSFRMのボーリング調査(北海道上磯郡):日本初の吹付SFRMの施工がおこなわれた峩朗鉱山の坑道から,SFRMを採取し,その経年変化を調べた.
b)1994年4月に山間部の法面に吹き付けたSFRMのひび割れ調査(静岡県蒲原郡):法面の保護工としてSFRMおよびプレーンモルタルを施工した,静岡県県道のひび割れ状況を調査し,両者の比較をおこなった.
c)1996年3月からの海岸飛沫帯における長期暴露試験(千葉県勝浦市):外房海岸の海岸飛沫帯に試験体を暴露し,一軸圧縮強度や腐食状況の経年変化を調べた.

本研究の特徴として,
1)環境の異なる,3地点(坑道,山間部,海岸部)で耐久性を調べたこと
2)実施工を含めた調査であること,さらに経過年数が長いこと(北海道上磯郡,静岡県蒲原郡)
3)8年間という長期にわたり暴露試験をおこない,ほぼ1年ごとに8回の一軸圧縮強度を採取し,強度の変化を調べたこと(千葉県勝浦市)
が挙げられる.