鋼繊維補強モルタルの耐久性に関する研究
3.法面での吹付SFRMのひび割れ調査

1994年4月に静岡県蒲原郡中川根町の県道の補修工事で,図5に示すように,長さ100 m,高さ20 m,傾斜65°の法面にプレーンモルタルとSFRMがそれぞれ1000 mずつ吹付施工された.施工地点に近い本川根観測地点(北緯 35゚05.9,東経 138゚07.9,標高290 m)における,1979 〜1996年のアメダスの気象データ20)図6に示す.図6では月間の降雨量と,月間最高および最低気温を示した.年間降雨量は2,840 mmと日本では比較的降雨量が多い地域である.1,2,12月に月間最低気温が0 ℃以下となっており,年に数回は凍結融解現象が生じている可能性が高い.日平均の日照時間は5.0時間,平均風速は0.8 m/sであった.施工地点は,比較的交通量の多い片側1車線の道路をはさんで,大井川に面した西向きの法面であり,午後には日照を受ける.法面付近でCO2の濃度測定をおこなったところ,0.03 %と標準的な値であった.

吹付モルタルの配合はプレーンモルタル,SFRMとも,セメント:細骨材=1:3,水セメント比0.60,細骨材率100 %である.鋼繊維は図7(a)に示すインデント型を用い,SFRMの鋼繊維混入率は1 %である.プレーンモルタル施工部は補強用に金網とボルトを設置した後,エア式により厚さ8 cmで吹き付けた.2日程度で幅4 m程度を上から下に順次吹付をおこない,さらに順次横方向に移動しながら施工をおこなった.他方,SFRM施工部は補強用ボルトを設置した後,ポンプ式により厚さ7 cmで吹き付けた.高所台車によって,横方向に吹付をおこない,順に上下方向に移動しながら施工をおこなった.

この際,吹付施工と並行に木製のパネルに吹付試験体を作製し,種々の試験(一軸引張試験,一軸圧縮試験,曲げ試験など)をおこなった結果18,19,21)表4に示す.いずれの強度も2.の峩朗鉱山坑道のモルタルに近い値である.

図8にSFRM施工部とプレーンモルタル施工部の境界付近を示すが,向かって右側がSFRM施工部で,左側がプレーンモルタル施工部である.左側で白く見えているのが,修復工事の跡である.プレーンモルタル施工部は上下方向に長い帯状に吹付施工をおこなったため,乾燥収縮によって上下方向に引張応力が作用しやすくなり,水平方向にひび割れが多く見られた.そのため吹付2 週間後に修復工事がおこなわれた.他方,修復工事の際にSFRM施工部では明瞭なひび割れは発生していなかった.このことより,SFRMでは初期の収縮ひび割れの抑制に効果のあることがわかる.

SFRM施工部とプレ−ンモルタル施工部の境界からそれぞれ左右に30 mの区間,路面からの高さ0.5 〜 1.5 mの1m区間において,1997年11月11日(吹き付け後 約3.5年経過)に法面のひび割れ状況を調査した結果を図9に示す.プレーンモルタル施工部で修復工事がなされたひび割れは図9には含めていない.

単位面積あたりのひび割れ長さの和を求めると,プレーンモルタル施工部で290 cm/m,SFRM施工部で89 cm/mと3倍程度,プレーンモルタルのひび割れが多い.

路面から1 mの高さでひび割れ間隔を測定した結果,プレーンモルタル施工部では平均値53.4 cm(標準偏差37.7 cm),SFRM施工部では平均値139.3 cm(標準偏差150.1 cm)であった.ひび割れ間隔のヒストグラムを図10に示す.(a)に示したプレーンモルタル施工部では,ひび割れ間隔は25〜50cmの頻度が最も大きく,最大で180 cmであった.(b)に示したSFRM施工部の場合もひび割れ間隔25 〜 50 cmの頻度が最も大きいが,最大で570 cmと裾の広い分布となっている.SFRM施工部では広い範囲内でひび割れがない箇所が見られる一方,ひび割れが集中している箇所が見られるといえる.これはひび割れが発生した箇所の法面の変形が大きかった可能性が高い.

観測箇所からひび割れを約20点ずつ選んで,ひび割れ幅をクラックゲージで測定した結果を図11にヒストグラムで表した.プレーンモルタル施工部では平均値0.28 mm(標準偏差0.15 mm),SFRM施工部では平均値0.21 mm(標準偏差0.10 mm)とややSFRM施工部のひび割れ幅の方が小さい傾向が見られた.

2000年10月24日(吹付後約6.5年経過)に法面のひび割れ状況を調べ,1997年から2000年の間に新たに発生したひび割れを図9に太線で示す.両者ともひび割れ数は3本の増加とあまり増えていないが,プレ−ンモルタル施工部の8 m,14 m,17 m付近で多くの水分が染み出しており,ひび割れ幅は0.6mm程度に拡大していた.他方,SFRM施工部では水分の染み出しは見られなかった.

図9に示すようにプレーンモルタル施工部ではT字型のひび割れが多く見られたのに対して,SFRM施工部では交差したひび割れが見られた. SFRM施工部ではひび割れ中の鋼繊維により既存のひび割れをまたいで応力が作用するため,複雑に交差したひび割れが発生しているものと考えられる.このことから,ひび割れが発生しても,ひび割れに沿ったせん断応力が0となっていないことがわかり,法面の保護工として望ましいものであると考えられる.