鋼繊維補強モルタルの耐久性に関する研究
4.海岸飛沫帯でのSFRMの暴露試験

4・1 暴露方法と暴露試験箇所

繊維は,鋼製(厚板切削法で製作された長さ30 mmの三日月形両端フック型:図7(b)参照)とステンレス製(溶解抽出法で製作された長さ30 mmのドックボーン型:図7(c)参照)の2種類を用いた.プレーンモルタルと繊維混入率1 %のSFRMとした.水セメント比60 %,細骨材率100 %の配合で,2種類のブロック(15×15×53 cm,10×10×40 cm)を1996年3月7日に打設した.打設後2週間水中養生をおこなった後,脱枠した.ブロック(15×15×53 cm)から直径3 cm,高さ6 cmの一軸圧縮試験用円柱形試験体を作製した.なお,打込で製作しても図2の吹付と同様に,水平方向に鋼繊維は配向する.一軸圧縮試験では,載荷方向と垂直な方向に繊維が配向している方が繊維の補強効果が大きいため19),ブロックを垂直方向(図2の試験体b)からボーリングした.

千葉県勝浦市鵜原町の太平洋に面した海岸線(外房)において,図12に示すように南向きの護岸下部に試験体を暴露するため,ステンレス製ステージを設けた.ステージは,満潮時でも海面より1 m程度上方にあるので,常時は海水に浸かる位置でないが,大波が押し寄せた場合には海水に浸ることとなる.ステージ上に固定したステンレス製かごの中に円柱形試験体を入れ,ブロック(10×10×40 cm)はステージ上に木材で固定し,1996年5月から暴露を開始した.なお,円柱形試験体の端面が傷まぬように,両端面にプラスチック製のキップを取り付け保護した.

海岸での暴露試験体と比較するため,温度の管理された実験室内(20±4℃)で,同じブロックから作製した円柱形試験体を放置した.

暴露地点に近い勝浦観測地点(北緯 35゚08.9,東経 140゚18.9,標高12 m)における,1979 〜 1996年のアメダスの気象データ20)図13に示す.年間降雨量は1980 mmと3.で述べた本川根に比べ,降雨量は少ない.冬季の月間最低気温も0 ℃以上となっていることから,凍結融解現象は生じないと考えられる.最高と最低気温の差は7 ℃と本川根の半分であり,日平均日照時間は5.6時間で,本川根に比べ0.6時間長い.平均風速は3.2 m/sと本川根の4倍程度である.暴露地点でCO2の濃度測定をおこなったところ,0.04 %であった.

1996年秋,千葉県に大型台風が直撃し,後の調査で波が護岸(高さ9 m)を越えていたことがわかった.試験体を入れたかごが大きく変形し,波によってかごの中で試験体が激しく動いていたことが推定された.それ以降も年1回程度台風が付近を通過し,そのたび試験体は過酷な環境下におかれた.

同じ配合で図12の護岸に吹付工事がなされ,その際に跳ね返り,海岸に落ちた鋼繊維は,1年後には内部まで腐食が進行して,手で簡単に折れた.これらより考えて,かなり腐食が進行しやすい状況であることがわかった.

4・2 円柱形試験体の暴露試験結果

暴露後4.5,12,24,36,60,84,90ヶ月経過した試験体を実験室に持ち帰り,室内に放置した試験体と合わせ,一軸圧縮試験をおこなった.海岸で暴露した場合,日照や降雨の影響で,室内に放置した試験体より含水量が変化しやすい.そこでこの影響を減らすため,3週間程度,実験室で放置してから一軸圧縮試験を実施した.同一条件で3本ずつ試験を実施し,表5および図13に一軸圧縮強度の経年変化を示す.

暴露4.5ヶ月後の試験体は側面が侵食し,やや荒れた状態であった.試験体表面に露出している鋼繊維はすべて錆が発生していたが,ステンレス繊維は見た目の変化はなかった.図14に示すように暴露4.5ヶ月後では室内に比べ,海岸で暴露した試験体の一軸圧縮強度が若干大きい.土木学会22)でも同様の報告がなされており,海岸で暴露したことでセメントの水和反応が促進され,強度の増加が見られたのではないかと考えられる.

12ヶ月暴露した試験体を切断して,フェノールフタレイン法で中性化を調べた結果,表面はすべて中性化されているが,中性化深さは平均で1 mm以下であった.また,切断面に現れた鋼繊維で錆びているのは表面だけであり,内部は健全であった.暴露36ヶ月後まで一軸圧縮強度にはさほど変化は見られなかった.

48ヶ月経過した段階で,試験体側面の侵食はさらに激しくなり,試験体表面の鋼繊維は腐食が進行し,かなり膨張していた.ステンレス繊維の方も,わずかであるが白っぽく変色しており,腐食が見られた.ただし,ボーリングによって試験体を作製したため,側面に現れているステンレスはボーリング時に切断されており,そのため腐食が生じやすかった可能性がある.

60ヶ月を経過した段階で,鋼繊維の試験体の一部でひび割れが見られるようになったが,一軸圧縮強度に変化はみられなかった.

2002年秋(暴露76ヶ月後)の台風でプレーンモルタルの試験体がすべて流されてしまい,これ以降試験をおこなうことができなかった.

84ヶ月経過した鋼繊維試験体の一例を図15(a)に示すが,鋼繊維試験体の表面に錆によるひび割れが目立つ.図15(b)にはその試験体のCTスキャンによる断面撮影結果を示す.図15(b)で白く見えているのが鋼繊維で,試験体内に黒い線状に見えているのが内部に発生したひび割れであり,ひび割れが内部まで進行しているのがわかる.暴露60ヶ月後に比べ,84ヶ月後の鋼繊維試験体の一軸圧縮強度は10MPa低下した.ただし,試験体を切断し内部を観察すると,ひび割れ付近で鋼繊維の錆は見られるものの,ひび割れがない箇所の鋼繊維は健全であった.他方,ステンレス繊維試験体の一軸圧縮強度はわずかに低下した.

暴露90ヶ月後の鋼繊維試験体の一軸圧縮強度はさらに低下し,30MPaであった.ステンレス繊維試験体の一軸圧縮強度はわずかに低下したが,初期の強度と比べ,さほど変化していない.中性化深さはわずかに増加傾向を示し,90ヶ月経過で2 〜 3 mm程度であった.

実験室内に放置した円柱形試験体は,ほとんど錆の発生はなく,8年経過した現在も見た目の変化はなかった.室内で放置した試験体では,暴露後60ヶ月までさほど一軸圧縮強度の変化は見られないが,84ヶ月で一軸圧縮強度は大きく増加し,90ヶ月もほぼ同程度である.この理由は不明であり,今後の推移を調べるつもりである.

4・3 ブロックの暴露試験結果

試験体の寸法によるひび割れの違いを調べるために,10×10×40 cmのブロックも同一地点・時期に暴露を開始した.ブロック表面の侵食や錆の発生状況は,円柱形試験体と同様であった.しかしながら,鋼繊維の円柱形試験体では60ヶ月以降,ひび割れが生じたが,10×10×40 cmのブロックは90ヶ月後もひび割れは見られなかった.この理由として,表面の鋼繊維の発錆による体積膨張力は,試験体の寸法によって変わらないと考えると,その力を受ける面積が10×10×40 cmのブロックでは大きくなるためであると考えられる.

90ヶ月経過した段階でプレーンモルタルのブロックからボーリングをおこない,コアを採取し,5mm間隔に切断した後,日本コンクリート工学協会の規格(JCI SC 4)に基づき,塩化物イオン含有量の測定をおこなった.表層からの距離による塩化物イオン含有量の変化を図16に示す.5 〜10 mmの平均塩化物イオン含有量は約3 kg/mで,30 〜35 mmに至るまで直線的に塩化物イオン含有量は減少し,それより離れると減少率は低下している.土木学会2)は,塩害に関するデータをまとめており,本研究の暴露地点(強風時は海水飛沫を受け,風が弱い時には直接海水飛沫は受けないが,塩化物イオンを含んだ潮風にさらされた環境)で7年経過した場合,コンクリート表面から30 mm,50 mm,80 mmの各位置で,拡散による塩化物イオン含有率は高々90,60,20 kg/mであるとしている.この上限値に比べ,今回の結果はかなり小さい値であった.

鉄筋コンクリートで,錆の発生が顕著となる塩化物イオン含有量は1.2〜2.5 kg/mとされている2).この基準をそのまま適用すると,ブロック表層から2cmまでの鋼繊維に錆が発生している可能性があった.しかしながら,実際にはひび割れ近傍を除くと,鋼繊維は錆びなかったことから,鋼繊維は鉄筋に比べ,錆びにくい可能性がある.

小林ら7)は海洋飛沫帯で5年間暴露しても,鋼繊維は表層部を除いてほとんど腐食しないと報告しているが,今回おこなった7.5年間の暴露でも同様の観察結果となった.この他, 5件の鋼繊維補強コンクリートの暴露試験でも,暴露期間が4年では強度はさほど変化しないと報告されている22).本試験では,5年経過にしてようやく腐食が進行してひび割れが目立つようになり,7年経過して試験体(直径3cm,長さ6cm)の強度が低下した.ただし,現在のところ10×10×40 cmの試験体ではひび割れは観測されていない.