刃物間隔を考えたさく岩機用ボタンチップの静的貫入試験
2.貫入力に関する従来の研究

2.1 静的貫入試験

本研究と最も関係の深い静的貫入試験に関する過去の研究を検討した.

佐々木ら(1961)は,刃先角φの一文字ビット(Car bit)を使用して静的貫入試験をおこなった.使用したのは,軟質砂岩,硬質砂岩,花崗岩,鉛合金である.試験結果より次式を提案している.

Q = a tan(φ/2) d t  (1)

ここに,a[kN/mm2]は常数である.

Wijk(1989)は,先端が平らな棒を用いた静的貫入試験をおこなった.試験結果より,掘削体積比エネルギーEs[kN/mm2]を次のようにあらわした.

Es=σc /κ   (2)

無次元量κは貫入試験より得られ,1から3の値をとるとしている.Wijkは,κを"Brittleness index"と称した.κは,岩石の掘削に対してHughes(1972)が提案した無次元量"Comparative Efficiency of the Operation " Nf と同じである.

Nf = σc / Es = κ       (3)

"Comparative Efficiency of the Operation" に対して,"掘削能係数"との和訳を西松が与え,機械化掘削におけるNf は,1から3程度の値をとると指摘した(西松,1972).

2.2 ディスクカッタによる圧砕

TBMによく用いられるディスクカッタの岩石圧砕は,岩石の破壊モードが圧砕であるという点において本研究で取り上げた静的貫入試験とある程度関係があると思われる.

Roxborough(1975)が理論的に導いた式は,tが小さいとき次のように近似できる.

Q=0.004 tan(φ/2)σc( d )0.5 t1.5   (4)

なお,常数0.004は無次元である.

西松(1975)は,ディスクカッタを用いた実験結果より次式を得た.

Q=0.007σc(d)0.5t   (5)

なお,常数0.007の単位はmm0.5である.

大久保(1990)は,ディスクカッタの主分力P[kN]と背分力Q[kN]について過去の研究をまとめたが,切り込み深さt[mm],ディスクカッタ径d[mm],刃物間隔s[mm]の3者を考慮した式を提案していたのはSanioであった.Sanio(1985)が理論的に導いたのは次式である.

Q = 0.12 tan(φ/2)Is( s d t )0.5   (6)

ポイントロードインデックスIs=σc/22 [kN/mm2]を代入すると次式を得る.

Q = 0.0055 tan(φ/2)σc( s d t )0.5   (6')

なお,常数0.0055の単位はmm0.5である.

巽放鳴,佐藤一彦らは,1992年から1995年にかけて研究成果を発表した.その対象は,TBMのディスクカッタである.その内,第6報(巽放鳴ら,1995)では,これまでの試験結果をまとめた次式を提案している.

Q = KT tan( φ/2 )( s d t )0.5   (7)

(7)式は,KT =0.0055σcとおけば,Sanio(1985)の見解と一致する.

2.3 切削

岩石の切削における背分力Q(押し付け力)も,ある一定の切込み深さを得るための岩石面への押し付け力という点で,今回の実験の貫入力と関係があると考えられる.

鈴木ら(1965;1966;1968a;1968b)は直刃ビットに関する一連の研究をおこなった.

P = a1 t + b1 (8)

Q = a2 t + b2 (9)

ここで比例常数a1,a2とb1,b2の単位は,それぞれkN/mmとkNである.上式が,解析的,実験的な検討から得た結論である.論文中の実験結果を見ると,主分力Pと背分力Qは引張強度σtにほぼ比例する.

西松ら(1979)は,直線単独溝切削実験をおこなった.使用したのは,刃幅12から60mmの6種類の超硬合金チップ付直刃ビットである.切り込み深さを2から20mmまで変えた.使用した岩石は伊豆青石(凝灰質砂岩)で,一軸圧縮強度38.2MPa(390 kgf/cm2),圧裂引張強度5.0MPa(50.7 kgf/cm2)である.貫入力と関係の深い背分力Q[kgf]は次式より計算できるとした.

Q = 73.6( d t )0.49      (10)

ただし,t[cm]は切り込み深さで,d[cm]は刃幅でこれを刃物代表寸法とした.ここで注目すべきは,背分力Qが刃幅dの0.49乗に比例することである.単位を,Q[kN], t[mm], d[mm], σc[kN]とし,さらに0.49乗を近似的に0.5乗で置き換えると次式を得る.

Q = 0.0019σc( d t )0.5   (11)

なお,常数0.0019の単位はmmである.

西澤(1991)は,ポイントアタックビットを用いて田下凝灰岩と河津凝灰岩の切削実験をおこなった.切り込み深さは,2から10mmである.まず,主分力は切り込み深さにほぼ比例するとした.

P = a t    (12)

ここに,a[kN/mm]は常数である.背分力について明確な結論を得ていないが,データをみると下記の通りである.

Q = a t = a t0.5〜1.0 (13)

切り込み深さの小さいとき(t < 5mm)のbは1に近いが,切り込み深さが大きい場合には0.5に近い.この結果は,中島ら(1972)の主分力の結果とほぼ一致する.

刃物間隔に関する情報は極めて少ない.まず,Evans(1972),Hurtら(1980)が理論的に導いた最適刃物間隔の式を紹介しておく.

s = 0.5d[ (1+20t2/d2)0.5 + 1]   (14) または,

s /d = 0.5[ (1+20t2/d2)0.5 + 1]   (15) 

Roxborough(1972; 1973; 1981; 1982)は,岩石や石炭を対象とした多くの実験を行い,簡明な最適刃物間隔を提案している.

s − d = a t (1.5 < a < 2.0) (16) または,

s/d = a t/d + 1 ( 1.5 < a < 2.0 ) (17)

なお,Continuous Minerを使用した場合s/dの最適値は

s/d = 2.0 t/d + 1 (18)

であるとRoxborough(1981)は述べている.

2.4 過去の研究のまとめ

検討結果を,貫入力Q[kN]の計算式の提案者ごとに表1にまとめてみた.2番目は,式中の比例常数である.なおtan(φ)は,通常1程度である.3番目より,いずれも,背分力は一軸圧縮強度の1乗に比例するとしていることがわかる.4番目は,刃物間隔の何乗に比例するかを表しており,Sanio(1985)と巽ら(1995)は,刃物間隔の0.5乗に比例するとしている.5番目は,刃物の代表寸法の何乗に比例するかを表しており,佐々木らを除いて0.5乗としていることがわかる.6番目は,貫入深さ(切り込み深さ)の何乗に比例するかを表している.提案者ごとにかなり違うが0.5−1.0の範囲におさまっている.右端は,使用したビットである.

貫入,切削,圧砕を合わせて総合的に考えようとする研究は少ないが,宇賀ら(1986)は,岩石の特性をドリラビリティ常数で整理すると,さく岩機(貫入)とTBM(圧砕)の使用実績がうまく整理できると報告している.表1の結果をみても,貫入力Qが,一軸圧縮強度σcに比例する点,刃物の代表寸法dの0.5乗に比例する点では,貫入,切削,圧砕の貫入力の間にある程度の関係があることを示唆していると考える.ただし,貫入深さtに関しては研究者ごとに結果が異なっており,今後の検討が必要であると思われる.