刃物間隔を考えたさく岩機用ボタンチップの静的貫入試験
4.考察

(19)〜(21)式および(22)式を変形して左辺を貫入力とすれば次式となる.

Q = {t/a + (b/a) sn +c/a}d0.5 (23)

Q = {(t+c')/a'}d0.5s0.5 (24)

貫入力Qと貫入深さtに関してはこれまでも多くの議論があったが,表1からもわかるように研究者ごとに少しずつ結果が異なる.結果が異なる原因が,岩石の種類によるものなのか,試験条件によるものなのか,さらにはデータの整理方法によるものなのかは不明であり,まだまだ定説といえるものがない現状である.今回の実験では貫入深さ−貫入力曲線において直線で近似できる部分があることを示したが,より明確な結論を得るには,今後測定結果のばらつきを少なして,相当数の試験を追加する必要がある.最も基本的な事項においても定説のないのが,現象が極めて複雑なこの分野の特徴ともいえる.

貫入力と岩石の一軸圧縮強度の関係についてもこれまで多くの研究がなされてきた.これまでの研究結果をまとめると,おおよそではあるが貫入力と一軸圧縮強度は比例するようである.今回の結果でも,三城目安山岩と来待砂岩では,この事実が成り立った.稲田花崗岩は,基礎式が異なるので明瞭な比較がし難いが,刃物間隔10mmの場合を他岩石と比較すると,おおよそこの関係が成り立つ.いずれにしろ,破壊モードは複雑であり,せん断破壊や引っ張り破壊も入り混じっているので,貫入力と一軸圧縮強度が正確に比例するとはいえないと考える.

次に,貫入力と刃物の代表寸法dに関して考察する.今回の結果によると,ボタンビットの場合はその先端部の直径を代表寸法とすれば,貫入力はd0.5に比例した.表1でまとめたように,これは,切削で使用するツールビット,ポイントアタックビットでも成り立つし,トンネル掘進機でよく使用されるディスクカッタでも成り立つことがこれまでの研究でわかっている.本研究では,これまで広い範囲で成り立つとされてきたこの点が,ボタンチップでも成り立つことを指摘したといえる.

能率良く刃物間隔を調べる方法が開発されなかったので,刃物間隔の影響に関するこれまでの研究結果は極めて少ない.今回実施した方法では,5×5=25回の貫入をもって,1条件の試験とした.できる限り多くの貫入試験をおこなうことが望ましいが,これでも通常の試験の25倍の手間を要するので現実的には,適当な妥協点であったと実験後も考えている.実験結果によれば,三城目安山岩では(23)式でn=2としたときが最もよく,来待砂岩ではn=1.5とした時がよかった.前にも述べたが,この両岩石では貫入深さ−貫入力曲線の直線部の傾きが刃物間隔によらないことである.他方,稲田花崗岩では,直線部の傾きが刃物間隔に依存するので(24)式をもって近似することにした.(24)式をみると貫入力Qがd0.5 s0.5に比例するという点では,Sanio(1985)や巽ら(1995)の見解と一致する.

貫入深さと貫入力に関する議論は,未だ困難な点が多く,早急に明快な答えを出すことは無理なので,以下ではSanio(1985)の提案した興味深い考え方を検討し,今後研究を要する点を指摘することにした.

Sanioは引張破壊によってチップが形成されると考えて基礎式を導いた.最初に置いたのが次の3つの仮定である.

仮定1:刃物直下の岩石がまず圧砕される.この圧砕された領域は静水圧状態となっており,まわりの岩石に引張破壊を生じさせる.

仮定2:圧砕領域断面は円形である.その半径は,切り込み深さtに比例しqtとなる.

仮定3:単位幅あたりの押し付け力Q'は次式となる.

Q' = 2 t tan(φ/2) σ (25)

ここに,σは圧砕領域内の圧力である.ここまでの仮定は大筋で納得できるものであり,ディスクカッタのみでなく,ボタンチップの貫入に対しても適用できそうに思われる.

ついで,Sanioは次の仮定を置いた.

仮定4:Ouchterlonyの意見を採用して,次式を仮定する.

qt = k c0.5 (26)

ここに,kは破壊靭性値(critical stress intensity factor),cはクラック長さであり,(25)式と(26)式よりSanioは次式を得た.

Q' = k/q tan(φ/2) c0.5 (27)

(27)式で問題となるのが,Q'がc0.5に比例していることであり,この点は今後検討すべき重要な事項であり,理論的な検討を進める際の大きな岐路となる仮定であると考える.Q'はcに比例するとの考え方も有力であろうし,適当なオフセットを加えて(c+const.)のべき乗となる可能性もある.いずれにしろ,(27)式の段階における考察が重要であり,今後の理論的な展開の要であると著者らは考えている.

Sanioは,ここで仮定5をおいている.

仮定5:クラック長さc(x)は,ディスクカッタと岩石が貫入し始めた位置x=0から切削方向に測った距離xに比例して増加し,貫入深さが最大値tとなるディスクカッタ中央x=(dt - t2)0.5で刃物間隔sと等しくなる.

c(x) = sx/(dt - t2)0.5  (28)

これを代入して,(27)式を積分すると次式を得た.

Q = (2/3) (k/q) tan(φ/2) (dt − t2)0.5 s0.5 (29)

通常dに比べてtは小さいので,(29)式は次のように近似できる.

Q = (2/3) (k/q) tan(φ/2) (dts)0.5 (30)

実用性を考えて,ポイントロードインデックスを使用してあらわすと(6)式になる.

さて,ここで問題となるのが(28)式の妥当性である.この点は,Sanioが対象としたディスクカッタと,本研究の対象であるボタンチップとで多少異なる可能性があり,さらに岩石によってもかなり異なる可能性がある.いずれにしろ,考えられる仮定に相当な幅があり,先に上げた(27)式の検討に継ぐ重要性を持つ将来の検討課題と著者は考えている.