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3.ヤング率の載荷速度依存性

本章では,今回おこなった実験の他,山口(1980)と秋(1995)がおこなった結果もあわせて,ヤング率の載荷速度依存性について検討する. 表1に,検討の対象とした7種類の岩石の一軸圧縮強度とヤング率の載荷速度依存性に関する試験の一覧を示す.なお,また,試験片はどの場合も直径2.5 cm,高さ5 cmであった.
3.1 三城目安山岩
これまでのデータの蓄積がもっとも多い三城目安山岩についてまず検討する.三城目安山岩には流理面が存在して,これと直角方向(Z方向)の特性と, これに沿う方向(X方向とY方向)の特性とが若干異なる.秋(1995)の検討結果によれば,一軸圧縮強度の差はないが, 圧裂引張強度の場合は流理面にそって引張破壊が生ずる時の強度が他に比べて20%ほど小さい. 秋(1995)はヤング率の載荷速度依存性に対しても3方向の実験結果を得ている.それを整理して図5に示した. 一つの点は,試験片6個以上の平均値をあらわす.これは,従来の実験方法を踏襲したものであり, 試験片をいくつか用意しておき載荷速度を変えながら試験をおこなったものである.なお,変位はサーボ試験機に装備されている差動変圧器によって測定し, その測定結果から50%接線ヤング率をもとめた.この結果より,載荷速度が増加するとヤング率が上昇することがわかる. また,方向性による差異はほとんど認められない.これは,一軸圧縮強度において方向性が認められなかったことと整合性のある結果である. さらに,秋(1995)は湿潤状態で同様の試験をおこなった.その結果も同じ図5に掲載してある.これからわかるように,湿潤状態でもヤング率の載荷速度依存性が認められる.方向性はないとして全ての試験結果から, 気乾状態と湿潤状態における実験式を最小自乗法でもとめてみると次のようになった(表1).

気乾状態:E50=0.18 log(dε/dt)+10.4  (1)
湿潤状態:E50=0.25 log(dε/dt)+10.0  (2)
両式の左辺は差動変圧器で測った50%接線ヤング率E50で,単位はGPaである.以下においても,差動変圧器で歪をもとめた場合には接線ヤング率を, 歪ゲージで歪をもとめた場合には割線ヤング率を示す.差動変圧器で歪をもとめた場合には,試験片端面がプラテンと密着するまでの変位が紛れ込んでしまい, 正確な割線ヤング率をもとめ難いため,接線ヤング率を用いた.(1),(2)式中のdε/dtの単位は1/sである.右辺第二項の10.4と10.0は,dε/dtが1/s のときのE50となる.図5における近似曲線の傾きは,気乾状態で0.18であり,湿潤状態で0.25であった.

秋(1995)の実験結果は,5年間ほど同様の試験を続けた結果でありかなりの信頼性があると考えているが,微妙な試験だけに他の試験結果と比べて総合的 に判断する必要がある.そこで,今回おこなった実験結果と山口(1980)の結果も表1に示す.また,図6に規格化した形で示した.規格化したのは, 3者の使用した岩石ブロックの特性が少しずつ違うためであり,規格化することによって,絶対値の差の影響を抑えるためである. なお規格化は,dε/dtが10−4/sの時の50%ヤング率で割っておこなった.ただし,今回おこなった試験については, ある歪速度での(E50/E10)を,dε/dtが10−4/sの時の (E50/E10)で割ってE50を計算した.

表1図6を参照しつつ,気乾状態における結果を検討することにする.規格化したヤング率E50の近似式と相関係数 r は次のようになる.
本実験: r =0.98
50=0.021 log(dε/dt)+1.08  (3)
秋: r =0.99
50=0.019 log(dε/dt)+1.08  (4)
山口: r =0.74
50=0.037 log(dε/dt)+1.17  (5)
山口(1980)の結果のみ,相関係数が若干小さく,載荷速度依存性も他より大きめの値となっているが,本実験と秋の実験とは良く一致しているといえよう.(3)式あるいは(4)式によれば,三城目安山岩のヤング率は,載荷速度が一桁あがる毎に約2%ずつ上昇することになる. 三城目安山岩の一軸圧縮強度の載荷速度依存性は秋(1995)によれば,載荷速度一桁あたり6.2%であり,これと比較するとヤング率のそれは約1/3となっている. 湿潤状態については,秋(1995)しかおこなっておらず今後の再試験が必要であるが,増加率において気乾状態より若干大きめとの結果は, 一軸圧縮強度の載荷速度依存性と似通っていた.

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3.2 来待砂岩,田下凝灰岩,大谷石
    (速度依存性が認められた3岩石)
ここでは,ヤング率の載荷速度依存性が認められた,来待砂岩,田下凝灰岩,大谷石(大谷凝灰岩)の3岩石について述べる. 来待砂岩は今回新たに試験をおこなったものであり,他の2岩石は秋(1995)の結果を整理したものである.

これまでの一軸圧縮試験などの経験によれば,来待砂岩は,三城目安山岩と同程度のばらつきを示す岩石である.通常の方法でおこなった場合には,試験片のばらつきの影響が大きく,載荷速度依存性について確たることは言い難い.しかし,今回提案した方法では図7に示す近似式が得られた.

本研究: r=0.94
50=0.017 log(dε/dt)+1.07  (6)
これからわかるように,三城目安山岩を対象とした(3),(4)式と似通った結果が得られ,相関係数は0.94と比較的高かった.
次に,図8に示す田下凝灰岩の結果を,正規化して式であらわすと次のようになる.
気乾:r=0.99
50=0.047 log(dε/dt)+1.18  (7)
湿潤:r=0.89
50=0.076 log(dε/dt)+1.25  (8)
この結果を見る限り,田下凝灰岩のヤング率の載荷速度依存性は,三城目安山岩や来待砂岩に比べてかなり大きく倍程度であった. ちなみに一軸圧縮強度の増加率は,載荷速度が一桁増加すると気乾状態で5.6%,湿潤状態で10.1%であった.気乾状態における強度の載荷速度依存性, したがって粘弾性的性質は三城目安山岩よりむしろ小さい.注目すべき点は,田下凝灰岩では,気乾状態と湿潤状態のヤング率の差がかなりあることである. 通常の考えでは,応力レベル50%程度であればこれは弾性領域であり,試験片の弾性が測定されることになるはずである.しかし,そう考えると, 弾性ばね常数が強度と同様に気乾と湿潤で顕著に異なることが説明し難い.おそらく,観測される歪の中には,非弾性歪も含まれており, この非弾性歪は気乾状態より湿潤状態の方が相対的に大きいと考えられる.この考え方は,低応力レベルでもクリープ歪が観測されることや(大久保ら,1988; 大久保,2000),ピーク強度において除荷するとその除荷曲線の傾きが50%ヤング率より相当に大きいこと(何ら,1989)と整合性がある.

図9に示す大谷石の結果を,正規化して式であらわすと次のようになる.
気乾: r=0.86
50=0.069 log(dε/dt)+1.35  (9)
湿潤: r=0.95
50=0.046 log(dε/dt)+1.21  (10)
上式を他の式と見比べてみると,載荷速度依存性はかなり大きく,三城目安山岩や来待砂岩より,どちらかといえば田下凝灰岩に近いといえる.

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3.3 秋吉大理石,稲田花崗岩,白浜砂岩
    (載荷速度依存性が確認できなかった3岩石)
ここで扱う3岩石の実験結果を式で表すと次のようになった.

秋吉大理石: r=0.02
50=−0.001 log(dε/dt)+0.98  (11)
稲田花崗岩: r=0.34
50=−0.005 log(dε/dt)+0.97  (12)
白浜砂岩: r=0.36
50=−0.007 log(dε/dt)+0.95  (13)
また,各岩石の試験結果を図にしたものを図10〜12に示す.

これらの3岩石に対しては,ヤング率の載荷速度依存性は認められなかった,あるいは,充分な精度の実験ができなかったといえる. 確たることは言えないが,それぞれの岩石に対して現在までの経験を踏まえて少しずつコメントを加えておく.

秋吉大理石の結果はばらつきがかなり大きかった.秋吉大理石のヤング率は,表1からわかるように大きく,それと比較して一軸圧縮強度は小さい.したがって,他岩石より高精度の歪の測定が要求されるわけである.歪の測定には注意を払ったつもりであるが,精度が不足していたかもしれないとの懸念は否定できない.

稲田花崗岩の場合も相関係数は小さいが,データをみると,載荷速度を変えたときのヤング率E50 の違いは0.96〜1.01の間と比較的小さな範囲に入っている.また,花崗岩においては応力レベルが比較的小さい部分では,粘性的な性質は小さい. これらのことから総合的に考えて,稲田花崗岩のヤング率の載荷速度依存性は比較的小さいのではないかと推測できる.

白浜砂岩は砂岩のうちでかなり特異な応力-歪関係を持つ.すなわち,ピーク強度近傍がかなり丸い特徴を持っている. 実験結果をみるとヤング率E50 は0.975〜1.025程度の間にあり,データのばらつきは稲田花崗岩と同程度であった. 総合的に考えて,稲田花崗岩と同様に,ヤング率の載荷速度依存性は比較的小さいのではないかと考えるが,著者がこの岩石を扱い始めてから5年程度しか経過しておらず,この岩石の特質を充分に把握していない可能性もある.

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