SFRC(Steel Fiber Reinforced Concrete:鋼繊維補強コンクリート)の耐久性


2.坑道の調査

2.1 吹き付けSFRCと施工現場

本節で扱うSFRCは、1977年4月に日本セメント(株)上磯工場峩朗鉱山機械搬入坑道(北海道上磯郡上磯町字峩朗54)において施工されたものである。坑口付近の様子を図1に、坑道断面の概念図を図2に示す。施工は坑口から454m〜475mの間で行われ、施工長は21m、吹き付け厚は平均で10cm、吹き付けたSFRCは約60mであった。坑道は峩朗鉱山の石灰石鉱床の一部であり、若干軟弱化した箇所でSFRCの吹き付け施工が行われた。

セメントとしてN社製超早強セメント、細骨材として川砂(5mm以下、FM=2.53)を用い、急結剤はNS社製の粉末急結剤を用いた。配合は表1に示しており、スランプは6〜10cmであった。

使用した鋼繊維は四角ねじれ形のもので、断面は0.35mm×0.5mmで長さ20mmのものである。SFRCは生コンプラントで製造し、生コン車によって現場まで搬送した後、連続圧送式の吹き付け機により吹き付けを行った。その際、10×10×40cmのパネルにも吹き付けを行い、いくつかの試験を行っている。当時の力学試験結果を簡単に述べると、材令28日の段階で、曲げ強度(JIS A 1106)は5〜6MPa、圧縮強度(JIS A 1114)は40〜60MPa、せん断強度は7〜10MPaであった。また材令1年での中性化試験の結果は1〜2mmであった。

坑道からの供試体の切り出しは、1995年7月31日から8月1日に行った。吹き付け施工後、約20年程度経過したことになる。SFRCの施工区間より任意に選んだ6カ所から、直径40cmおよび10cmのボーリングコアを切り出した。図3にボーリングコアの採取状況、図4に採取したコアの様子を示す。図3からわかるように、壁面から水は湧き出しておらず、若干湿っている程度である。付近の湧水を採取し分析したところ表2の結果となり、平均的な河川水に比べてCl-、SO42-が少なく、HCO3-が多くなっている。これはCaCO3が空気中の二酸化炭素と水によって溶解したためと考えられる。

試験体採取時に坑内の温度および湿度を測定したところ、温度は11〜14℃、湿度は80〜95%であった。この時、坑外では温度24℃、湿度70%であった。坑内温度は夏場にも拘わらずかなり低いこと、坑口から500mほど離れていることから推定して、施工箇所の温度と湿度の年変化および日変化はさほどないと予想される。坑内の二酸化炭素の測定も行ったが、0.03%と外気とほぼ同じ組成であった。

2.2 経年変化の調査

吹き付け後約20年経過したSFRCの経年変化を調べることを目的として、鋼繊維の発錆状況の観察および、モルタルの中性化試験を実施した。

坑道壁面の写真を図5に示す。目視観察した結果、表面に露出している鋼繊維はすべて錆が発生していた。この壁面に露出している鋼繊維のいくつかをモルタルから引き抜いたところ、モルタル中にあった部分は錆びていなかった。また、ボーリングコアの側面を観察した結果、錆びているのは壁面の極く近傍だけで内部の鋼繊維には全く錆が発生していないことが判明した。さらに、採取した円柱形供試体(直径10cm)を吹き付け面に平行に3cmごとに輪切りにしたものを微粉砕し鋼繊維を採取した。こうして採取した鋼繊維を観察した結果、坑道壁面の鋼繊維以外は錆びていないことを再確認した。

フェノールフタレイン法によりモルタルの中性化深さを調べた。図6に示すように、採取した円柱形供試体(直径10cm)を圧裂引張試験で破壊させた後、破断面をはけで十分清掃し、フェノールフタレイン1%エタノール溶液を直接噴射して中性化深さを求めた。6カ所から採取したSFRCの中性化深さの測定結果を表3に示す。表では、No.3の供試体の中性化深さが最も深く、No.1、6の供試体が浅くなっている。原位置で20年を経過した供試体であるので、漏水の影響や微小亀裂の発生などの局所的な要因でこの程度のばらつきが生じたのではないかと考えられる。

井上ら5)に示されている普通コンクリートの中性化深さの推定式は

t=7.2 x/(R(4.6w−1.76)

である。ただし、w:水セメント比(W/C)、R:中性化率、t:期間(年)、x:中性化深度(cm)である。

この式を用いて計算すると、20年で中性化率1となり、中性化深さは9mmとなる。測定した中性化深さの平均値は約5mmであり、推定値に比べて若干中性化深さは小さくなっている。

次にJIS A 8802に基づいてコンクリートのpHの測定も行った。測定は坑道壁面から3cmごとにわけて実施し、その結果を表4に示す。pHは約12であり、このことからもほとんど中性化していないことがわかる。

2.3 力学試験結果

本節では、鋼繊維が混入していないプレーンモルタルと、鋼繊維約1%のSFRCに対して、一軸引張試験ならびに一軸圧縮試験を実施し、吹き付け後20年経過した両者の力学特性を比較した結果について述べる。

吹き付けSFRCの場合には、3章で述べたように、鋼繊維の配向により力学的特性に異方性が生じる。そこで図6に示すように吹き付け面と平行にボーリングした試験体a、吹き付け面と垂直にボーリングした試験体bを作製した。試験体の寸法は直径3cm、高さ6cmの円柱形である。鋼繊維混入率0%(プレーンモルタル)と1%の試験体a、試験体bを用いた。同一条件で3本ずつの試験を行った。

一軸引張試験は容量10kNのサーボ試験機により定歪速度制御(歪速度10−6−1)で行った。試験装置および試験方法は一軸引張特性で述べたので、ここでは省略する。

応力−歪曲線を図7に示す。試験体aの場合、鋼繊維の有無によらず強度は4.0MPa前後である。強度破壊点以降、プレーンモルタルは急激に応力が減少しているのに対して、SFRCでは徐々に応力が低下しており、鋼繊維の混入により延性化しているのがわかる。これは強度破壊点でモルタル部が破断した後、鋼繊維(モルタルからの鋼繊維の引き抜き抵抗)が荷重を支えるためである。一方、試験体bの場合には、強度は2MPa程度とa方向の半分となっている。これは一軸引張特性でも述べたように吹き付けたモルタルは吹き付け面と平行な層をなし、層間は比較的分離しやすいためと思われる。ばらつきが大きいので、鋼繊維の混入により強度が変化しているかどうか不明である。強度破壊点以降ではSFRCの方が、若干延性的な傾向がうかがえるものの、試験体aほどは改善されていない。この理由として、鋼繊維は試験体bでは破断面と平行に配向しており、鋼繊維の引き抜き抵抗がほとんど寄与しないためである。これらの事項は、吹き付け後約1年程度経過したSFRCを実験した結果と定性的に一致しており、20年の経過後もその特性は保存されていることがわかる。

一軸圧縮試験は、MTS製の容量150kNのサーボ試験機により定歪速度制御(歪速度10−5−1)で行った。応力−歪(σ−ε)曲線を図8に示す。試験体aの場合、一軸圧縮強度は約53MPaであり、鋼繊維の有無によらず変化していない。試験体bの場合、一軸圧縮強度は50〜60MPaであり、プレーンモルタルに比べSFRCの方がやや大きくなっている。強度破壊点以降の特性は、鋼繊維の混入により延性的となるが、その傾向は試験体aに比べ、試験体bの方が大きい。これも一軸圧縮特性で述べた吹き付けSFRCの特性と一致している。すなわち、試験体bでは載荷方向に対して鋼繊維が鉛直な方向に配向しているため、破壊の進行に伴い供試体側面の肌落ちを鋼繊維が保持し、ある意味で側圧を作用させた時と同等の効果を発揮するので延性化する。一方、試験体aは載荷軸に対して平行に配向しているため、側面の肌落ち等に対して鋼繊維が影響を及ぼさず、さほどプレーンモルタルと変わらない。このように圧縮特性に関しても、一軸圧縮特性で述べた吹き付けてから約2年後に実施した試験結果と定性的に一致していることがわかった。2.1節で述べたように28日材令の圧縮試験が実施されている。しかしJIS A 1114で行っているため、本研究で行った試験方法と異なるが、その強度は40〜60MPaと、本研究で得られた一軸圧縮強度とさほど変化していない。このことからも耐久性はさほど低下していないと推測する。