SFRC(Steel Fiber Reinforced Concrete:鋼繊維補強コンクリート)の耐久性


3.法面の調査

コンクリートで保護された法面の老朽化は、コンクリートでのひび割れの発生、成長、貫通に至る過程である。SFRCを法面吹き付けへ適用する場合には、鋼繊維の補強効果によってコンクリートのひび割れ発生を減少させ、ひび割れ幅の拡大も防止できる。この優れた特性から、普通コンクリート或いはモルタルに比べ、ひび割れの拘束性及び耐久性などの性能向上が期待されている。しかし前述のように、SFRCの歴史は浅いため、数十年にわたった実証例はない。本節は、吹き付け3年半後のモルタルとSFRCでのひび割れを観察することによって、法面の耐久性を考察する。

3.1 施工方法

本研究で調査したのは、静岡県榛原郡中川根町下泉地内の県道沿いの法面(図10)、長さ約100m、高さ約20m、傾斜約65゜である。過去に吹き付けられたプレーンモルタルが、図11のように老朽化したので、1994年4月に、プレーンモルタルないしSFRCを吹き付けて補修された。工事は、図10に示すように法面に向かって、左側にプレーンモルタル、右側にSFRCを1000mずつを吹き付けた。一軸引張特性一軸圧縮特性曲げ特性で用いた試験体は、その工事の際に並行して吹き付けたものである。

SFRCは鋼繊維は鋼線切断法で製造された後、表面にインデント加工を施したものである。基本配合はセメント:細骨材=1:3、水セメント比=0.60、細骨材率100%で、SFRCの鋼繊維混入率は1%であった。配合の詳細を表6に示す。

プレーンモルタルを吹き付けた法面部分(以下モルタル法面と呼ぶ)とSFRCを吹き付けた法面部分(以下SFRC法面と呼ぶ)で施工方法が異なっている6)。モルタル法面は在来技術により、補強用に金網とボルトを設置した後、現場練りのモルタルをエア式で厚さ8cmを吹き付けた。ロープにぶら下がった状態で、幅4m程度を上から下に順次吹き付けられた。上から下までに約3日程度を要した。順次横方向に移動し、全体で15日程度を要した。全体の吹き付けが終了後、ひび割れが多く見られたので、2週間程度経過してから修復工事を行った。それに対して、SFRC法面では補強用にボルトのみを設置した後、ポンプ式で吹き付け厚7cmを図12に示すように高所台車によって吹き付け、全体で10日程度を要した。吹き付けてから2週間の時点で、明瞭なひび割れがなかったため修復工事は行わなかった。施工方法のまとめを表7に示す。

3.2 調査結果

法面を吹き付けてから約3年半経過後の1997年11月11日に法面を行った。まず目視で法面全体の様子を観察した。それから法面表面の一部分を選んで、ひび割れの位置、数量、幅、形状などに注目して観察を行った。

図13(a)のモルタル法面で、太く白く見える箇所は施工直後にひび割れの補修を行ったところである。全体的に、モルタル法面ではひび割れが多く見られており、特に水平方向のひび割れが卓越していることがわかる。その原因について明確ではないが、次のように考える。表7に示したように、吹き付けは水平4m間隔で上から下へ垂直に移動することによって行った。この作業は2日間を要し、吹き付けられた部分は上下方向に長い帯状となる。その隣の区間の吹き付けも2日間要するので、その間に上下方向にコンクリートの収縮が起き、水平方向にひび割れが発生しやすい。他方、水平方向にもこの2日間に収縮は生じるが4mと幅が短いので、収縮の絶対量が上下方向に比べ小さいため、ひび割れが少なかったものと考える。

図13(b)はSFRC法面の様子である。法面表面に露出している鋼繊維は既に錆びていたが、法面から抜き出して観察すると、内部はほとんど錆びていなかった。図で、鉛直方向に白い細線がひび割れ個所である。ひび割れが鉛直方向に卓越している理由は、吹き付け方法によるものではないかと考える。吹き付けは、水平方向に施工したため、吹き付けられた部分は水平方向に長い帯状となる。その細長い帯状のモルタルが収縮することにより、鉛直方向より水平方向の収縮量が大きくなるため、鉛直方向にひび割れが発生しやすくなったものと考える。

初期ひび割れの発生の時期は施工担当者によると、モルタル法面では吹き付けてから数日後に肉眼で分別できるひび割れが現れ、吹き付け工事完了の2週間後にはひび割れの数も幅もかなり目立つ状態であったため、修復工事を行ったとのことであった。しかしSFRC法面には明瞭なひび割れがなく、図13(b)に示したひび割れはそれ以後現れたものである。SFRCの方が法面に明瞭なひび割れが現れた時期が遅れことより、プレーンモルタルに比べSFRCの方が初期の収縮ひび割れに拘束性があることがわかる。

図14に示すようにモルタル法面とSFRC法面の境界より、左右各30m長さの範囲を選定して、地面より0.5m〜1.5mの高さでひび割れの観察を行った。図15(a)は、モルタル法面のひび割れ状況であり、全体的にひび割れが発生していた。図15(b)は、SFRC法面のひび割れ状況で、モルタル法面に比べ、次のような特徴があった:@全体にひび割れ数が少ない。Aある区間に集中的に発生一方、広い範囲内にひび割れが全くない個所も多い。

観察区域内のひび割れ個所で任意に20個程度の点を選んで、クラックスケール(マルイ(株)製、最細線0.05mm)を用いて、その点でのひび割れ幅を測定した。測定値を表8に示す。平均値から見ると、モルタル法面では0.28mm、SFRC法面では0.21mmで、SFRC法面の方が小さかった。ひび割れ幅の分布を図16に示す。図では、プレーン法面とSFRC法面の両者に顕著の差があるとは言えないが、SFRCの方が幅の小さいひび割れの多い傾向が見られる。また、モルタル法面で測定されたひび割れは、ひび割れ修復工事を行った以後発生したものであり、初期のひび割れは含まれていないので、今回のデータではプレーン法面でのひび割れ幅の評価は小さめになっている可能性が高い。

ひび割れ(亀裂、割れ目)を定量的に表すのは、いろいろ方法が用いられている。例えば、小島らは、岩盤内の割れ目密度について、一定区域内の割れ目頻度としている7)。本研究は、法面上の単位面積にあたりのひび割れ長さの総和をひび割れ密度M(cm/m)とした。こうして求めたひび割れ密度は、モルタル法面ではM=290cm/m、SFRC法面ではM=89cm/mとなり、モルタル法面でのひび割れ密度は、SFRC法面での3倍であることがわかった。

ひび割れの位置的分布を調べるために、地面より高さ1.0mの位置にスキャンラインを引いて、1m間隔に刻んでその内のひび割れを数えた。図17(a)はモルタル法面、図17(b)はSFRC法面のひび割れの各位置での頻度分布である。モルタル法面では、ひび割れの発生頻度は位置によって多少差があるものの、全体に分散しているのがわかる。それに対してSFRC法面では、大部分のひび割れが水平位置11mから25mの14mの間に集中している。

スキャンラインとひび割れとの交差点の間隔をひび割れ間隔として、その平均値sと標準偏差を求めた。モルタル法面では、平均値s=53.4cm(標準偏差37.7cm)であるのに対し、SFRC法面では、平均値s=139.3cm(標準偏差150.1cm)で、SFRC法面の平均値はモルタル法面のそれの2.6倍であった。図18(a)はモルタル法面のひび割れ間隔のヒストグラム分布図である。比較のため、ひび割れ間隔が対数正規分布であるとした場合の曲線も示した。なお、対数正規分布の平均値及び分散は、観察値より求めた。観察値は、確率分布、累積分布とも比較的対数正規分布と一致している。

一方、SFRC法面では、同様の手法で描いたひび割れ間隔分布図は図18(b)である。図には、プレーン法面と同様にして求めた対数正規分布も示したが、さほど一致していないことがわかる。しかし観察値は少ないため、明確な結論にはならない。この点については、調査範囲の拡大と引き続いて長い年間の観察が必要と考える。ランダム的現象でない場合、通常の乾燥収縮以外に、他のひび割れを引き起こす原因が存在することを意味する。例えば、ひび割れ集中する区域での地山条件が極めて悪いことも想定できる。

図19(a)には写真とスケッチ図によるモルタル法面でのひび割れの形状を示す。図中のようなT字型の形状がその他の個所でも数多く見られた。図19(b)には、SFRC法面でのひび割れの形状を示す。図に示すように、SFRC法面では、ひび割れが交差している箇所がいくつか見られた。

このモルタルとSFRCでのひび割れ形状の違いは、鋼繊維の影響によるものと考える。図20にひび割れの発生機構の概念図を示す。図中Aは法面に存在するひび割れを表し、Bは引張試験での応力−変位曲線である。モルタルにひび割れが生じた場合、ひび割れ面上に作用する応力はほぼ0となる。このためひび割れの両側ではほぼ独立した応力状態となり、Cに示すように他方向からのひび割れが元のひび割れとぶつかると、それ以上伸びることができず、T字型となる。他方、SFRCの場合にはBに示すように鋼繊維が存在するためひび割れが発生し、幅が平均値の0.3mmになっても、引張強度の4割程度の残留応力がまだ働いている。よって、Dに示すようにSFRC法面ではひび割れ面での鋼繊維の作用で、片側の収縮よるひび割れは対向側に伝達して、ひび割れが同じ位置に発生しやすくなることが考えられる。そのため、ひび割れの形は交差型となることが可能である。

以上の法面でのひび割れ状況を考察したことより、SFRC法面ではプレーン法面に比べて、次のような特徴があることがわかった:@吹き付け直後、明瞭な初期ひび割れの発生はなかった。A吹き付け3年半後の調査で、ひび割れの発生が認められたが、ひび割れ密度はプレーン法面の1/3程度であり、幅の方も小さかった。Bプレーン法面でのひび割れの発生位置はランダム的であるのに対し、今回の調査でひび割れの発生位置のランダム性は確認できなかった。Cひび割れ面にも鋼繊維による応力が働いている。D法面表面での鋼繊維は発錆状態であっても内部の鋼繊維は健全である。このような特徴から、鋼繊維は法面でのひび割れに対する拘束性があり、法面の耐久性に有利となると考えられる。